取材・文/沢木文
結婚25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻の秘密を知り、“それまでの”妻との別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。
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超キャリアウーマンの妻を補佐する夫
お話を伺ったのは、耕司さん(仮名・60歳・フリーランス)。結婚30年、3歳年下の妻に離婚を言い渡された。
「これ以上、あなたをバカにしたくない」と言い残して出て行った。 耕司さんは「たぶん、妻には僕が物足りなかったのかもしれない」と自嘲気味に語る。
耕司さんには29歳の息子と、27歳の娘がおり、いずれも結婚している。耕司さん夫妻が世間と変わっているところがあるとすれば、妻が大企業の総合職として働いていること。一家の大黒柱は妻で、耕司さんは専業主夫のようになり、サポート役に徹した。育児と家事のバランス調整をしつつ、翻訳や雑文を書く仕事をしながら家庭を守っていた。
「結婚したのは、私が30歳で、彼女が27歳のとき、バブル真っただ中で時代は狂騒状態だった。私は大学を出てから就職もせずに、友人の飲食店の手伝いなどをしてプラプラしていた。お金が貯まるとアメリカに行って、レコードの買い付けに行った。当時は海外のレコードが珍しかったから、すごく高く売れた。羽振りがよかったから女性にもモテた」
耕司さんは、筋肉質で背が高い。目が大きく、柔和な表情を浮かべている。シルバーアクセサリーを好み、アメリカンカジュアルが似合う。子育てをしているから、寛容でよく気が利く。サーフィンやギターなど多趣味で人脈も多い。
「妻はどちらかというと地味で堅実。ちょっと真面目過ぎるところがあるけれど、誠実で信頼できる女性。僕と同じ私立大学の映画音楽研究会の後輩なんだけれど、在学中は全然目立たなかった。卒業してから、僕もいろんな女性と交際して、酸いも甘いもかみ分けて、妻のような女性がいいと思った。以心伝心だったんだろうね、向こうから告白されて、交際半年で結婚した」
【妻と共に子育てをし、自分の仕事をあきらめた。次ページに続きます】