「言葉の天才」と呼ばれた永六輔さん。その「言葉」によって、仕事や人生が激変した著名人は数知れない。永さんと長く親交があったさだまさしさんと孫・永 拓実さんが、「人生の今、この瞬間を有意義に生きるヒント」をまとめた文庫『永六輔 大遺言』から、今を生きるヒントになる言葉をご紹介します。
文/永拓実
人知れず自分を磨きあげる
60年来の親友として祖父との関係が知られている黒柳徹子さんに、今回改めて「永六輔と聞いて最初に抱く印象は?」と質問しました。
祖父は決して、いわゆるイケメンではありませんでしたが、返ってきた答えはシンプルに「かっこいい人」でした。
「永さんはかっこいい人だったわ。何がかっこいいって、全くかっこつけないところが、かっこよかったの。周りから見て、気が狂っちゃうんじゃないかってくらい忙しそうでも、苦しそうな顔は一切見せなかった」
かっこつけないかっこよさ。
この言葉は他の方々もおっしゃっていたことです。
2012年、祖父は山梨の桜座という劇場で、舞踊家の田中泯さんと一緒に講演をしました。前立腺がんに加え、手足の動きや滑舌が不自由になるパーキンソン病を患いながらも、努めて明るく話す祖父を見て、田中さんが語りかけました。
「僕が一番尊敬するのは、こうやって元気に話す永六輔、ではない。人が見ていないときの永六輔です。人前でかっこよくいることがもてはやされる時代。でも、人から見えないところでかっこよくいられない人間に何ができる、と思っているんです。こうして話している永さんの裏側には、人知れず自分と闘い、磨きをかける永さんがいるんだと思う」
人が見ていないところでかっこよくいられるか。
これは耳の痛い言葉です。僕自身、孤独に黙々とやり続ける受験生活から解放され、大学生になりました。「東大生」としての立場がチヤホヤされることもあります。
しかし、今より受験時代のほうがよっぽど、自分に自信を持っていました。それは「かっこよくある」ことより、「かっこよく見せる」ことを意識するようになった結果なのでしょう。
“かっこいい男の条件は、闘っていること”
祖父はこんな直接的な言い回しの言葉も遺していますが、男女を問わず、「かっこよくありたい」というのは、人間を突き動かす原動力の一つだと思います。
しかし、他人の前で取って付けたようにかっこつけても意味がない。人が見ていないところでかっこよくあり続ける。まずはそこから始めない限り、真の意味でかっこいい人間にはなれないのだと思います。
永六輔の今を生きる言葉
かっこつけないのが、かっこいい。
かっこいい人の条件は、人知れず闘っていること
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『永六輔 大遺言』(さだまさし、永拓実 著)
小学館
さだまさし
長崎県長崎市生まれ。1972年にフォークデュオ「グレープ」を結成し、1973年デビュー。1976年ソロデビュー。「雨やどり」「秋桜」「関白宣言」「北の国から」など数々の国民的ヒットを生み出す。2001年、小説『精霊流し』を発表。以降も『解夏』『眉山』『かすてぃら』『風に立つライオン』『ちゃんぽん食べたかっ!』などを執筆し、多くがベストセラーとなり、映像化されている。2015年、「風に立つライオン基金」を設立し、被災地支援事業などを行なう。
永拓実(えい・たくみ)
1996年、東京都生まれ。祖父・永六輔の影響で創作や執筆活動に興味を持つようになる。東京大学在学中に、亡き祖父の足跡を一年掛けて辿り、『大遺言』を執筆。現在はクリエイターエージェント会社に勤務し、小説やマンガの編集・制作を担当している。国内外を一人旅するなどして地域文化に触れ、2016年、インドでの異文化体験をまとめた作品がJTB交流文化賞最優秀賞を受賞。母は元フジテレビアナウンサーの永麻理。