取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
亮子さん(仮名・62歳)と夫(63歳)は20年前に結婚した。夫に束縛される結婚生活の息抜きに、12年前にマンドリンサークルに入り、倫子さん(62歳)と出会う。亮子さんの生まれて初めての女友達だった。そんな倫子さんにコロナ禍中に言えなかった秘密を告白したところ、勤務先を退職しなければならないほどの嫌がらせを受けたという。
【これまでの経緯は前編で】
女友達・倫子さんは経済的に恵まれた生活を送っている様子だった
「私は人生初の女友達・倫子さんに夢中になってしまった。私の方がマンドリンが上手だったので、ウチに遊びに来てもらったついでに、いろいろ教えてあげていました」
口やかましい夫にも紹介した。万事否定的な夫も、控えめで聞き上手な倫子さんに好感を持ち、信用する。倫子さんと一緒なら、旅行やドライブに行ってもいいと許可が出た。
「女性から嫌われる人生を歩んできたので、52歳から女友達と青春が始まるんだと意気込んでいました。倫子さんは独身で仕事もさほど忙しくない。経済的に余裕がある様子で、結婚していると思い込んでしまったんです。2人で近場の温泉と道の駅にドライブしたり、好きな映画の聖地巡礼したり、楽しかったですね」
友情は8年間続いた。倫子さんは親の介護などもあり、入部して5年目に、マンドリンサークルを辞めてしまう。
「それからもランチをしたり、台湾や香港など近場の海外旅行に行ったりしていました。夫との旅行は気を使ってくたくたになってしまうので避けていたのですが、倫子さんとなら気楽です。夫は潔癖なので屋台での料理などもってのほか。倫子さんはざっくばらんで、何においてもチャレンジング。一緒に香港に行った時は、屋台で豚の脳みそのスープを食べました。一口もらったけど、美味しかったんですよ。そんな感じで、楽しく旅行ができるんです」
そこにコロナ禍が襲う。マンドリンサークルは活動休止になり、高齢の親を持つ倫子さんとも会えなくなる。
「お互いに、毎週のように会っていたので、無料通話のアプリでおしゃべりするようになっていました。夫は定年まで会社に勤め、その後ベンチャー企業を手伝う仕事をしており、コロナ禍にもかかわらず、毎日出勤していました。私はリモートになったので話し相手がいなくてつらかった。毎日倫子さんとZOOMを繋いで晩酌をしていたのです」
【話題がなくなり、略奪婚の話をしてしまった……次のページに続きます】