「立夏」の頃には、下鴨神社の鳥居を囲む緑も一層勢いを増します。

外を歩けば、新緑も美しく、日々その色が濃くなっていくのが感じられるようになりましたね。初夏ならではのみずみずしさが、暮らしにハリを与えてくれます。しかし現在、制限のある生活を送る中で、そうした自然の変化への感度が鈍ってきている方も少なくないように思われます。

古来より日本人は一年を七十二の“候”に区分して、季節のうつろいを楽しんできました。季節の変化を感じづらくなった今だからこそ、旧暦の二十四節気を軸にして季節を愛でる機会を持つことで、「季節感」の衰えを防げるのではないでしょうか?

今回は、旧暦の7番目の節気「立夏(りっか)」について、下鴨神社京都学問所研究員である 新木直安氏に紐解いていただきました。

目次
立夏とは?
立夏に行われる行事とは?
立夏と立秋の違いとは?
立夏に見頃を迎える花
立夏に旬を迎える食べ物
まとめ

立夏とは?

立春・立夏・立秋・立冬は「四立(よんりつ)」呼ばれ、季節感の目安の一つになっています。当記事のテーマである「立夏」は「夏が立つ」と書くように、「夏の兆しが見え始める頃」という意味です。「立」は新しい季節の始まりを表しており、暦の上では、立夏から立秋の前日までが夏になります。天気予報などでも「立夏を迎え、暦の上では夏となりました」といったフレーズを耳にしたことがあるのではないでしょうか。

2022年の立夏は、5月5日から5月20日です。日付が固定されているわけではないため多少前後しますが、毎年5月6日頃~5月20日頃が立夏にあたります。この日から8月初旬の立秋の前日までが暦のうえでは「夏」ということです。

立夏は陽気も増し、夏の気配を感じる時期。薫風に新緑きらめく、一年で最もさわやかな季節です。ただ夏の始まりといっても、本格的な夏はまだまだ先になります。日差しが強くなり気温が高くなる日もありますが、基本的には暑くもなく寒くもなく、湿度が低いため、とても過ごしやすく、レジャーやお出掛けに最適の季節です。

立夏に行われる行事とは?

過ごしやすい爽やかな季節である「立夏」。ここからは、この期間に行われる行事をご紹介します。

「立夏」の期間である5月5日は、「こどもの日」です。本来、5月5日は男児が主役の「端午の節句」ですが、昭和23年に男女の別なく子どもの幸せを願う「こどもの日」になりました。兜や五月人形を飾り、子どもの健やかな成長を願う日です。ちなみに、空を泳ぐこいのぼりには、鯉が滝をのぼって龍になるという逸話にちなんで、男の子の立身出世を願うという意味が込められています。

同じ5月5日に、下鴨神社では「更衣祭(ころもがえまつり)」が執り行われます。すなわち、神様の衣替えの神事です。そのため、立冬の日にも「更衣祭」が執り行われています。下鴨神社の他にも、立夏・立冬の日に神様の神衣(もしくは神服)を新調する神事を斎行している神社としては、神宮(伊勢)の「神御衣祭(かんみそさい)」や明治神宮の「御衣祭(おんぞさい)などが挙げられます。

立夏と立秋の違いとは?

「立秋(りっしゅう)」は、現行暦の8月7日ごろにあたり、秋の始まりとされる日です。立夏と立秋の違いは、夏の始まりであるか、秋の始まりであるかの違いだと言えます。また、当然のことながら、立夏から立秋までが夏です。

立秋とは秋の始まりを意味しますが、実際には名ばかりで、この頃が一年で最も暑い時期になります。そのため、立夏と混同してしまうかもしれません。暦の上では、夏の終わりですので注意しましょう。

また、立秋以降の暑さを「残暑」といい、この日から「暑中見舞い」は「残暑見舞い」に変わります。ちょっとした挨拶も「残暑が厳しいですね」といった言い回しにすると季節感を出すことができます。

立夏に見頃を迎える花

立夏、つまり5月6日頃~5月20日頃は、夏の兆しが見え始める時期です。ここからは、そんな立夏の訪れを感じさせてくれる花をいくつかご紹介しましょう。

「茶寮宝泉」の庭にも、躑躅の花が咲きます。

躑躅(ツツジ)は、立夏の季節に白、紅、紫色などの五裂したろうと状の花を咲かせます。庭に植えられたり、山野に自生しています。躑躅の品種は江戸時代に爆発的に増えたそうです。主に北半球に分布し、日本以外にもマレーシアやオーストラリアで親しまれています。

続いて、スイートピーが挙げられます。春の花束やアレンジメントによく使われ、ほんのりと甘い香りが特徴的な花です。マメ科の植物であるため、巻きひげを支柱などに絡ませながら茎を伸ばします。スイートピー(sweet pea)という名は「香りのよいエンドウマメ」を意味します。同じマメ科のエンドウの花に似ているとされているからです。

立夏に旬を迎える食べ物

立夏の時期の京菓子、旬を迎える野菜、魚をご紹介します。

京菓子

下鴨神社の神事・「御蔭祭」の神饌。元々は「御蔭祭」の巡行の際に腰からぶら下げるために、独特の包み方になりました。お餅にキハダを漬け込むことで、胃薬の効果もあります。

太古の時代から「甘味」は、主食の穀物とは区別して特別な恵みとして扱われてきた歴史があります。自然から採取された木の実や果物などの甘味は、古人(いにしえびと)の貴重な栄養源であるとともに、自然の恵への感謝として神へのお供え物として欠くことのできない物であったでしょう。そうした風習は、食品の加工が創意工夫され発展する中においても、変わらず受け継がれてまいりました。

今日においても、お菓子は神事や儀式においては神聖なものとして扱われております。そうした歴史について、下鴨神社に神饌などを納める鴨社膳部御菓子司、「宝泉堂」の社長・古田泰久氏に詳しいお話をお聞きしました。「立夏の時期は、『粽(ちまき)』と『柏餅(かしわもち)』を提供します。双方ともに、端午の節句の供物として用いられてきました。

『粽』を端午の節句に用いるのは、中国からの習俗です。奈良〜平安時代初期には、日本に伝来していたという記録が残されています。中国では慰霊祭の供養に用いられていましたが、日本では『粽』を食べることで災厄疫病から逃れることができる、と解釈されています。

一方、端午の節句に柏餅を食べる習慣は、江戸時代初期からだそうです。男子の節句である5月5日に『柏餅』が使われたのは、夏の新葉が出るころに古い葉が落ちることに由来しています。つまり、跡継ぎができたということを表し、子孫繁栄の祈りと祝福が込められているのです」と古田氏。

柏餅

「宝泉堂」の『柏餅』は、蒸し上げた後に石臼でついた餅でこし餡を挟み、柏の葉で包んでいます。石臼でつくことで弾力が増すため、柏餅の歯切れの良さが感じられます。子供たちの成長を祝いながら、賑やかにいただきたいものです。

野菜

立夏には筍(たけのこ)が旬を迎えます。5月頃、筍が伸びすぎないうちに収穫するとおいしく食べられます。筍ご飯、煮物、刺身、香りを存分に楽しめるホイル焼きなど、たくさんのレパートリーが楽しめる食材です。

また、市場にはソラマメも出回ります。ビタミン類やミネラルなども豊富なソラマメですが、収穫した直後から栄養価が落ち、旬は3日などと言われるほどです。食べる際には新鮮なものを買って、その日のうちに味わいましょう。

旬を迎える魚は、天然の鯛です。一説には、この時期の天然鯛は美しい桜色の体になるため「桜鯛」と呼ばれていると言われています。桜鯛は煮たり、焼いたりして食すのがおすすめです。お造りにしても美味しいでしょう。

まとめ

新緑が美しく、薫風が吹き、気候もよい時期である「立夏」。行事や季節ならではの食べ物を楽しみ、色鮮やかな花々を愛でる…普段の生活にそんな時間を少し取り入れてみることで、初夏を堪能することができるのではないでしょうか。

監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com  
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/豊田莉子(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook

 

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