清明

ニューノーマル、新しい生活様式といった表現が生まれて、既に2年以上が経過しました。withコロナの社会となってしまった今、何が大きく変わったのかと言えば「外出機会」が減ったと答える方が多いのではないでしょうか? その「外出機会」の減少は、人々の生活に様々な弊害をもたらしました。

その一つが「季節感」の衰え、季節の変化を感じる感度が鈍ってきているように思います。日本人は、古来より一年を七十二の“候”に区分して、季節のうつろいを楽しんできました。

季節の変化を感じづらくなった今だからこそ、旧暦の二十四節気を軸にして季節を愛でる機会を持つことで、「季節感」の衰えを防げるのではないでしょうか? 

本記事では、“二十四節気”の一つ「清明(せいめい)」を取り上げます。立春、立秋、夏至、冬至など聞き慣れている言葉も、二十四節気の仲間です。「清明」は普段の生活ではあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、中国や台湾では大切な行事にもなっています。では、「清明」とはどのような季節なのでしょうか?

今回は、そんな「清明」の意味や言葉の由来、季節の花や食べ物などを下鴨神社京都学問所研究員である 新木直安氏にお聞きしました。

目次
清明とは?
中国や台湾には「清明節」がある
旬の花
旬の食べ物
まとめ

清明とは?

清明とは「清浄明潔(しょうじょうめいけつ)」という言葉を略したもので、「すべてのものが清らかで生き生きしている」という意味です。

そもそも二十四節気とは、太陰太陽暦法で季節を整えるため、地球と太陽の位置関係によって一年の季節を24個に分けたもの。清明は二十四節気の中で、5番目の季節になります。二十四節気は日付固定ではないので、日付は変動します。毎年4月5日〜4月19日頃にあたり、2022年の清明は4月5日(火)です。

この時期は、空気は澄んで、陽の光は明るく照らし、世界が鮮やかに見える頃です。また、芽吹いた植物の葉が開き、何の植物かがわかるようになる季節とも言われています。「清明」という言葉は、春の日差しが万物を照らして、“清”く“明”るくする季節として名付けられました。この頃の日差しを想像すると、柔らかく、咲き始めの花々を明るく照らす光景が思い浮かびます。

下鴨神社
清明の時期は、下鴨神社の木々も新しい葉で青々としています。

また、清明の時期になると、晴れの日は暖かくて湿度も低く、とても過ごしやすくなります。そんな時、南東から冷たい北風の季節が終わり、春の到来を知らせてくれる風が吹きます。それが「清明風」です。穏やかな風の吹く中、清々しい春の息吹を感じながら、木々の緑や色とりどりの花を眺める、そんな散策がぴったりの季節です。

中国や台湾には「清明節」がある

日本ではあまり馴染みのない「清明」ですが、中国、台湾、香港など太陰太陽暦を用いていた地域では大切な行事が行われます。それが「清明節(せいめいせつ)」です。旧暦3月の春分の日から 15日目に設けられた祝日で、その日を含む3日間を法定休日としています。この清明節には祖先の墓にお参りし、草むしり等をして墓を掃除する日でもあり、「掃墓節(そうぼせつ)」とも呼ばれます。日本でいえば、「お盆」に相当する年中行事です。

また、気候の良い春の時期を迎えて郊外の散策にふさわしい時期であるため、「踏青節(とうせいせつ)」と呼ばれることもあります。春らんまんの自然の中でお花見をしたり、冬になまった体をあたためるためにスポーツに興じたりして過ごします。こうした春のピクニックを「緑を踏む=踏青」と呼ぶのです。

また、清明節の前日(地域によっては2日前)は「寒食節(かんしょくせつ)」といって、火気の使用が禁じられて冷食(れいしょく=煮炊きしないものを食べること)をします。「寒食節」は春秋時代の晋国の忠臣、介子推(かいしすい)が焼け死んだ日と言われ、彼の死を悼む行事として火を禁ずるのだと語り継がれているそうです。

なお、朝鮮半島でも影響を受けたと思われる「寒食」などが見られます。また、沖縄地方の「清明祭」も18世紀ごろに伝わったという話がありますが、その根底には「太陰太陽暦」の文化圏があったため、享受したと思われます。

旬の花

清明の時期に、代表的な花をご紹介いたします。

まず、ご紹介するのはカタクリです。カタクリはユリ科・カタクリ属に分類される球根性の多年草。6月ごろには葉が枯れてしまうため「スプリング・エフェメラル(春の妖精)」とも呼ばれています。まだ雪の残る森でいちはやく紫の花を咲かせ、他の草木が勢いよく生い茂る初夏には、早々と地上部を枯らして休眠に入るのです。ちなみに、球根にはデンプンがたくさん含まれており、それらを集めたものが市販の「片栗粉」として販売されています。

モクレンの白色の花。

続いてご紹介するのは、モクレン。原産は中国で、その花の姿が高貴であることから寺院などに植えられ、尊ばれてきました。日本には平安時代に伝来してきたと言われています。春の青空にくっきりと際立つ、白く大きな花が特徴です。

旬の食べ物

清明の時期に旬を迎える野菜、魚、京菓子をご紹介します。

野菜

清明は、筍掘りやいちご狩りなど春の味覚狩りが盛んになる時期です。特に筍は、地表に出現する直前に掘りとると味がいいと言われています。とったばかりのものであれば、えぐみやあくも少なく、生食で楽しめます。

その他、蕗(ふき)も旬を迎えます。蕗は、数少ない日本原産の野菜の一つ。おひたしや和え物、煮物にして食すことが多いです。

旬を迎える魚は、鰹(かつお)です。南方の海から日本近海の太平洋を黒潮に乗って北上する鰹は「初鰹(はつがつお)」または「上り鰹」と呼ばれます。江戸時代、初鰹は珍重されていました。あっさりとした上品な味わいが、この時期の鰹の特徴です。

京菓子

宝泉堂・花籠
生菓子 花籠(はなかご)

古来より日本では、季節ごとの自然の作物を楽しむことはもとより、花や果物、動物に模して甘味として楽しむ習慣があります。これすなわち、季節の移ろいを楽しむことであり、日本人特有の文化ではないでしょうか。

下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久氏に詳しいお話をお聞きしました。「清明の時期は、『花籠』という生菓子を提供します。生命力溢れる草木に桃色や黄色、紫と色とりどりの花が美しさを競うように咲き乱れる様を表現しています。お菓子を通じて季節を味わいながら、自然の草木からのエネルギーを感じていただきたいと思います」と古田氏。

社長の古田泰久氏。「茶寮宝泉」入り口にて。

『花籠』は、白餡をそれぞれの色に染め分けて、裏ごししたそぼろを餡玉につけた“きんとん”というお菓子になります。口に残るほんのりとした甘みを味わってみてはいかがでしょうか。

まとめ

日本に「清明」が強い風習として残らなかったのは、大陸との季節の時間差があったためと思われます。そのため、江戸時代になると、暦の修正が相次ぎ、中国の暦からの脱却を模索。その一つとして完成されたのが、映画にもなりました渋川春海の貞享暦だと言われています。朝廷や幕府がわざわざ、中国暦(授時暦、大統暦)を廃止して貞享暦を認可したのは、日本の季節・農耕の時間に合わせるためだと推測されています。

その後、宝暦暦→寛政暦→天保暦の大和暦が続き、明治6年に太陽暦が導入されました。なお、神社界では伊勢の神宮の御師(御祈祷師。施主などの願意を祈願する神職。のちに諸国を巡り、御祓の大麻などを頒布した)の伊勢暦が大変有名です。

また、清明節でのお墓参りなどの風習が、日本では沖縄地方と華僑の人が多い長崎県の一部にしかなかったのは、日本には既に「お彼岸」があったためと思われます。この春と秋のお彼岸、もしくは御先祖様を祀る風習は、明治時代以降、皇室祭祀にも組み込まれ、春季皇霊祭、秋季皇霊祭として斎行されています(戦前は祝祭日。現在は春分の日と秋分の日に変わりました)。

しかし、春の芽生えの季節であり、「清明」の意味である、「万物ここに至りて、皆潔斎にして清明なり」という言葉が残るぐらいですから、ぽかぽか陽気に誘われて、気分転換するに最適な気候であったことは想像できます。

監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子(HP:https://housendo.com インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/豊田莉子(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook

 

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