文/池上信次

第147回(https://serai.jp/hobby/1064335)から紹介してきたように、現在多くのスティーヴィー・ワンダーの楽曲がジャズ・スタンダード化していますが、構成など楽曲自体の魅力だけでなく、スティーヴィー自身とジャズとの「距離」が近いことも理由のひとつでしょう。スティーヴィーは、自身のアルバムにジャズ・ミュージシャンをフィーチャーすることも多く、またジャズ・ミュージシャンのアルバムへの客演も多数あります。そもそも1963年末に発表されたスティーヴィーの初期のアルバム『わが心に歌えば(With A Song In My Heart)』は、ジャズ・スタンダード集でした(スティーヴィーがオリジナル曲をメインにするのは60年代の終わりくらいから)。マーヴィン・ゲイがジャズ・ヴォーカリストとしてデビューしたように、1960年代はじめのころは、ソウルとジャズはとても近い位置にあったのです。


スティーヴィー・ワンダー『わが心に歌えば』(モータウン)
演奏:スティーヴィー・ワンダー(ヴォーカル、ハーモニカ)、アーニー・ウィルキンス(編曲)
録音:1963年
アーニー・ウィルキンスのオーケストラをバックに、タイトル曲のほか「星に願いを」「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」「スマイル」などジャズ・スタンダードを演奏したアルバム。

スティーヴィーが自身のアルバムに、ソロイスト、キー・メンバーとしてフィーチャーしたジャズ・ミュージシャンを列挙すると……

(年は発表年。「 」は楽曲名、『 』は収録アルバム。ともに邦題)

デイヴィッド・サンボーン(アルト・サックス):「チューズデイ・ハートブレイク」(『トーキング・ブック』1972年)
ハービー・ハンコック(エレクトリック・ピアノ):「永遠の誓い」(『キー・オブ・ライフ』1976年)
ジョージ・ベンソン(ギター)、ボビー・ハンフリー(フルート):「アナザー・スター」(同上)
ロニー・フォスター(オルガン):「今はひとりぼっち」(同上)
ディジー・ガレスピー(トランペット):「ドゥ・アイ・ドゥ」(『ミュージックエイリアム』1982年)
アール・クルー(ギター):「オーヴァージョイド」(『イン・スクェア・サークル』1985年)
ブランフォード・マルサリス(テナー・サックス)、テレンス・ブランチャード(トランペット):「センシュアス・ウィスパー」(『カンヴァセーション・ピース』1995年)
ヒューバート・ロウズ(フルート):「マイ・ラヴ・イズ・オン・ファイア」(『タイム・トゥ・ラヴ』2005)


スタンリー・タレンタイン『スティーヴィー・ワンダー・ソングブック』(ブルーノート)
演奏:スタンリー・タレンタイン(テナー・サックス)、ロニー・フォスター、ドン・グルーシン(キーボード)、マイク・ミラー(ギター)、エイブ・ラボリエル(ベース)、ハーヴェイ・メイソン(ドラムス)、パウリーニョ・ダ・コスタ(パーカッション)、スティーヴィー・ワンダー(ハーモニカ)
発表:1987年
タレンタインのスティーヴィー曲集アルバム。スティーヴィーは、ハーモニカで「レゲ・ウーマン」に参加してノリノリのアドリブ・ソロを聴かせます。プロデュースはロニー・フォスター。

また、逆にスティーヴィーが客演したジャズ・ミュージシャンの楽曲は……

ハービー・ハンコック:「スティッピン・イン・イット」(『マン・チャイルド』1975年)*ハーモニカ(演奏楽器、以下同)
ボビー・ハンフリー:「ホームメイド・ジャム」(『フリースタイル』1978年)*ハーモニカ
ロニー・フォスター:「レット・ミー・イン・ユア・ライフ」(『デライト』1979年)*ドラムス
クインシー・ジョーンズ:「ザ・デュード」「心の傷跡」(『愛のコリーダ』1981年)*キーボード
マンハッタン・トランスファー:「スパイス・オブ・ライフ」(『アメリカン・ポップ』1983年)*ハーモニカ
ディジー・ガレスピー:「クローサー・トゥ・ザ・ソース」(『クローサー・トゥ・ザ・ソース』1984年)*ハーモニカとキーボード
ボビー・ハンフリー:「ノー・ウェイ」(12inch シングル 1986年)*ハーモニカ
スタンリー・タレンタイン:「レゲ・ウーマン」(『スティーヴィー・ワンダー・ソングブック』1987年)*ハーモニカ
フランク・シナトラ:「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」(『デュエッツ II』1994年)*ハーモニカ
ライオネル・ハンプトン:「ゲイツ・グルーヴ」(『フォー・ザ・ラヴ・オブ・ミュージック』1995)*ハーモニカ、プロデュース
ハービー・ハンコック:「セント・ルイス・ブルース」「サマータイム」(『ガーシュウィン・ワールド』1998)*ヴォーカル、ハーモニカ
ダイアン・シューア:「ファイナリー」(『フレンズ・フォー・シューア』2000年)*ヴォーカル、ハーモニカ
ハービー・ハンコック:「心の愛」(『ポッシビリティーズ』2005)*ハーモニカ

このほかに、1977年にエラ・フィッツジェラルドのライヴに飛び入りした音源が2007年に、エラのトリビュート・アルバム『ウィ・ラヴ・エラ』で発表されています。共演曲は「サンシャイン」。


ハービー・ハンコック『ガーシュウィン・ワールド』(ヴァーヴ)
演奏:ハービー・ハンコック(ピアノ)、スティーヴィー・ワンダー(ヴォーカル、ハーモニカ)、ジョニ・ミッチェル(ヴォーカル)、ウェイン・ショーター(サックス)、アイラ・コールマン(ベース)、テリ・リン・キャリントン(ドラムス)ほか
録音:1998年
スティーヴィーは「サマータイム」ではハーモニカで、「セント・ルイス・ブルース」ではヴォーカルでも参加。ハンコックとはアコースティックでもファンクでも共演という相性のよさ。

なんと、フランク・シナトラとも共演。意外にもけっこうありました。自身のアルバム参加への「お返し」ということだけではないですね、この数は。スティーヴィーは、セッションを楽しめるジャズマン体質なのでしょう。いや、ハーモニカでアドリブをバリバリ演奏するのを聴くと、完全にジャズ・ミュージシャンと言ってもいいと思います。ジャズ・スタンダードとなっているスティーヴィーの楽曲は「ポップス由来」ではなく、「ジャズマンの曲」なのです。ジャズと親和性が高いのも当然なんですね。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 

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