黒岩保美(くろいわ・やすよし)は、戦後の国鉄で工業デザイナーとして、車両の完成予想図や車体のカラーリングなど、幅広い分野で鉄道のデザインに携わった。なかでも、多くのトレインマークのデザインを手がけたことで知られる。戦後、特急列車復活の第1号となった「へいわ」のトレインマークも黒岩の仕事である。その後も「富士」(戦後)、「はくつる」「ゆうづる」「日本海」「あけぼの」など、名列車のマークを生み出していく。
なかでも黒岩がいちばん気に入っていたトレインマークが「ゆうづる」だ。真っ黒な蒸気機関車の先頭で映えるよう、鮮やかな朱色を基調に、夕日を背景に鶴が羽ばたく様子が描かれている。黒岩にとってトレインマークのデザインとは、直径66cmの円盤の中に列車のイメージのすべてを凝縮させる作業だった。
新型車両の塗装色を担当
トレインマークのほかにも、黒岩の仕事は多岐にわたる。1949年(昭和24)に描かれた「湘南電車」の塗装案はオレンジとグリーンのツートーンを配し、それまでの「国電」のイメージを覆した。
昭和30年代に入ると、新型車両が続々と登場し、黒岩は、トレインマークだけではなく「あさかぜ」や「こだま」などのカラーリングを提案、今に続くカラフルな車体デザインの先鞭を付けたのである。
取材・文/宇野正樹
撮影/植野製作所 図版/日本海ファクトリー
※この記事は『サライ』本誌2022年2月号より転載しました。