文・八幡和郎

戦国時代に日本人によって架けられた来遠橋。日越友好の歴史は長い。

梅田邦夫前駐ベトナム大使の著書『ベトナムを知れば見えてくる日本の危機「対中警戒感」を共有する新・同盟国』では、東アジアの超大国中国の両端に位置する日本とベトナムが、地理的にも歴史的にも「自然の同盟国」となる必然性があると説かれている。

本書の読み応えがあるのは、かなり多くの点で、日本とよく似た立場にあるベトナムをケーススタディーとして、中国がいかなる形で、周辺諸国に圧迫を加え膨張しようとしているかを解説していることだ。

そのことを論じるためには、ベトナムの歴史についての基礎知識が必要なので、ごく簡単におさらいする。

ベトナムに起きていることは日本にも起き得ること

ベトナム北部は秦漢帝国のころから中国の郡県制の下に置かれ、中部にはチャンパ王国があり、南部はカンボジアと同じく扶南の領土だった。北部では唐末の戦乱のなかで939年に越人の王朝「大越」が成立した。13世紀に成立した陳朝大越国は、モンゴルの侵攻を撃退した。大越はチャンパと争い、17世紀にはカンボジア領であったメコン川流域まで併合して今日のベトナム領土の大枠が完成した。

1804年に南部の支配者阮(グエン)朝は清から越南国王に封ぜられた。阮朝は清に朝貢を行う一方、国内や周辺諸国には皇帝と称して、独自の年号を使用した。フランスの進出は、ナポレオン3世による宣教師保護を口実とする派兵に始まって、清仏戦争(1884~1885)で清に宗主権を放棄させた。(拙著『365日でわかる世界史』清談社刊より)

つまり、ベトナムが置かれてきた立場は、一貫して従属性が強かった朝鮮半島国家よりは独立性が高く、ほぼ完全な独立性を保ってきた日本との中間であった。それだけに、日本より厳しいかたちで中国の脅威を受けてきたわけであるが、ベトナムについて起きていることは、次に日本に起きることだともいえる。

また、琉球王国との比較では、その住民が日本人と同じ民族であり、実質的に島津氏の支配下にあったという違いはあるが、清国からみればベトナムとよく似た地位にあったので、その意味でも参考になる。

習近平の中国のやり口を分析

中国が根拠なく主張する九段線。

中国は長い歴史にあって常に貪欲な侵略国家であったわけではない。むしろ、周辺異民族の支配にやすやすと入るとか領土を割譲することも多かった。

しかし、漢の武帝、唐の太宗、元のフビライ、明の永楽帝、清の乾隆帝といった王朝の全盛期に、それなりの期間、突然変異のように極端な拡張主義に走ることがあった。そして、世界が心配しているのは、習近平の中国がそういうタイプの政権でないかということだ。

そして、北京在勤経験もある梅田氏は、習近平の中国のやり口を次のように整理している。

まず、中国の外交政策は、表向きの言葉でその意図に一喜一憂するのでなく、行動を冷めた目で客観的に捉えろという。

中国は、第一に「力の空白」が好きであり、すぐにつけ込んでくるから油断禁物。第二に中国は、「自分より弱い相手」に対しては躊躇なく武力を使うが、アメリカや旧ソ連など軍事的に強い国の「後ろ盾」があると無茶しない。第三には、中国の侵略行為に対してはきちんと反撃することが不可欠だとまとめている。

そして、「法律戦」「世論戦」「心理戦」をセットで組み合わせながら揺さぶってくることが、具体例を使いながら説明されている。

日本はこれまでその場限りの穏健な解決ばかりをめざしてきたが、その結果、なめられてしまっている傾向があるのだが、どちらかといえば、ハト派路線、対中融和優先とみられがちな外交官から、こういう分析を聞けるのは興味深い。

さらに、類書がないのは、ベトナムとアメリカ、ロシア、韓国、ラオスやカンボジアといった第三国との関係、また、ASEANやTPPなどの持つ意味合いなどが、実務的な観察から過不足なく描かれていることだ。

なにしろ、日本人は世界を日本との二国関係の寄せ集めだと捉えがちだ。私もそのあたりが気になるので、『日本人のための日中韓興亡史』(さくら書房)という本を書いて、中韓関係を追いかけたことがあるが、この本でもそのあたりはたいへん面白い。

たとえば、200万人といわれる在米のベトナム系の人々がどういう人たちで、彼らが米越関係にどういう影響を与えているかなどの考察は興味深かった。

あるいは、韓国については、ベトナム戦争中の残虐行為や「ライダイハン」と呼ばれる韓国兵とベトナム女性の子どもたちの問題などがある一方、歴史的によく似た境遇にあることによる親近感や韓流スターの人気、サッカーのベトナム・ナショナル・チームの人気監督が韓国人であることなどから生じている好感情なども描かれている。

そして、韓国人を恨んでもいいはずのベトナム人が「対外関係は未来志向で行く。過去の暗い出来事はベトナム側から提起しない」という方針で外交的成果を上げていることも紹介されている。

また、ベトナム戦争や中越戦争の際の援助に感謝するとか、幹部にソ連留学組が多いことから来るロシアへの好感情などさまざまな外交を論じるに際してのヒントも満載の好著である。


文・八幡和郎(やわた・かずお)
元通産官僚で評論家、歴史作家。徳島文理大学教授も務める。著書多数。近著に『日本人のための日中韓興亡史』(さくら舎)がある。




梅田邦夫(うめだ・くにお/前・駐ベトナム全権大使)
1954年3月、広島県生まれ。1978年、外務省入省後、ペルー、アメリカ、国際連合、中国などの海外勤務や本省勤務を経て、2014年、駐ブラジル特命全権大使、2016年、駐ベトナム特命全権大使を歴任。2020年4月の退職後は、日本経済研究所上席研究主幹。外国人材支援全国協会(NAGOMI)副会長も務める。

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