将軍義昭暗殺指令と細川藤孝の裏切り

I:ところで、信長は光秀に対して将軍足利義昭(演・滝藤賢一)を殺害せよと命じます。これも「驚きシーン」だったと思いますが、Aさんはどう受け止めましたか?

A:実際にそんな指示があったかどうかはともかく、ドラマの展開としては面白く見ましたよ。「信長が義昭を殺せと命じるわけがない」とドラマを批判的に見るより、「なぜ史実の信長は義昭を殺さなかったのか」と思索をめぐらすきっかけにしたら、より大河ドラマを楽しめるのではないのかと思いました。

I:なるほど。

A:この場面では、むしろ将軍足利義昭の力がいまだ健在であるということを強調したかったのかなと思います。劇中で説明されたように毛利氏が戦の大義名分にしていたのが将軍義昭の存在だったのは間違いないですし、信長の〈将軍がいる限り戦は終わらぬ〉というのもその通りだったと思います。〈戦のない平らかな世にしたい〉という光秀がなぜ、これほどまでに将軍義昭にこだわったのか――。その答えが、次の「驚きのシーン」にあるのではないかと思うのです。

I:次の「驚きのシーン」とは、まさか愛宕山のお告げのことですか?

A:はい。愛宕山というと、〈ときは今 あめが下知る 五月かな〉で有名な愛宕百韻の舞台でもあります。

I:脚本の池端俊策さんが12月4日に都内で行なわれたディスカッションで「愛宕にはいくけど連歌はしない」とネタバレ話をしていましたよね。

A:(笑)。それはともかく、亀山城に戻った光秀は家臣らから〈愛宕権現は戦神。お告げはありましたか〉と問われて、〈お告げは変わった。我らは備中には行かぬ。京へ向かう〉と述べます。家臣が〈京のいずこへまいります〉と問うと、〈本能寺。我が敵は本能寺にある。その名は織田信長と申す〉――。

愛宕山で意を決した光秀(演・長谷川博己)。

I:将軍義昭を推戴しようとしたこと、〈信長はどうか〉としていた正親町天皇(演・坂東玉三郎)、〈そなた一人の京であれば〉という将軍義昭。帰蝶(演・川口春奈)の〈作った者がその始末を成すほかない〉という台詞もありました。よってたかって光秀に信長殺害を教唆していたような流れでした。信長の非道阻止を強調するエピソードもたくさん登場し、最終回の段階で四国の長宗我部問題も飛び出しました。

A:主要な本能寺の変の動機が一通りでてきて、最終段階で光秀の背中を押したのが愛宕権現のお告げという設定でした。足利将軍へのこだわり、お告げに背中を押されるという極めて中世的な思考の持ち主だったことが強調されたという印象です。

I:そうですか。私は、家臣の前で〈信長を討つ〉と宣言したこの場面で私の涙腺は崩壊しました。長谷川博己さんの演技が凄すぎました。そのあとはもう泣きっぱなしでした。

А:今週は最終回だけに見どころが満載でした。もうひとつ「驚きシーン」といえば、細川藤孝(演・眞島秀和)が羽柴秀吉に「光秀が怪しい」と書状を送る場面でした。この場面については後編でじっくりお話したいと思いますが、そのほかにも光秀の〈信長さまを討ち、心あるものと手を携え、世を平らかにしていく〉という台詞が印象的でした。光秀は、信長を討ったのち、将軍義昭を京に戻し、娘婿の細川忠興を管領にという政権構想を抱いていたともいわれていますが、最終的に光秀が想定していた人々は誰も光秀に味方しませんでした。

I:本当ですね。あれだけ皆が光秀を頼っていたのに。

A:象徴的な場面がありました。近衛前久(演・本郷奏多)が正親町天皇に光秀と信長が争い、双方が朝廷に助けを求めてきたとしたら、どちらを選ぶかと問います。

I:正親町天皇の答えは〈見守るだけぞ。見守るだけぞ〉でした。

A:坂東玉三郎さんの存在が高尚すぎて、見落としがちですが、通訳すれば〈勝った方につくぞ〉とみました。

I:そうした人たちに翻弄されたとしたら、光秀があまりにも悲しすぎますね。

盟友細川藤孝(演・眞島秀和)は、動かなかった。

炎に包まれた「涙で霞む本能寺」 信長の首はどこへ消えたのか? そして、細川藤孝・羽柴秀吉の密約は本当にあったのか。【麒麟がくる 満喫リポート】後編に続きます。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。 編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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