
ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第18回では、前週に登場した捨吉(演・染谷将太)という青年が、どうやら第5回で「失踪」した唐丸(演・渡邉斗翔)の成長した姿ということが明らかになりました。唐丸といえば、猫が倒した花瓶の水がこぼれて台無しになってしまった礒田湖龍斎(演・鉄拳)が描いた絵を見事に修繕した場面が描かれ、卓越した絵心があるキャラが明らかになった段階で「失踪」していた人物です。
編集者A(以下A):その唐丸~捨吉の生い立ちが説明されるくだりは、なんとも切なくて辛くて、胸熱の場面になりました。母親は夜鷹で、父親が誰であるかもしれない境遇であることが明かされたのです。夜鷹といえば、同じ春を鬻(ひさ)ぐ、吉原や岡場所の女郎と比しても、過酷な労働環境にいたと思われる女性たちです。一枚の茣蓙(ござ)を手に、夜の往来に立ち、男性客に声をかけていく。「商談」が成立すれば、手にした茣蓙を路にひいて、事をすます。
I:かつて、うつせみ(演・小野花梨)が新之助(演・井之脇海)との足抜けに失敗した際に、妓楼松葉屋の女将・稲(演・水野美紀)から、仮に逃げおおせても夜鷹になるしか道はないといわれた回がありましたから、夜鷹の「労働環境」については、推して知るべしといったところなんでしょうね。
唐丸→捨吉の正体は?

I:その捨吉は北川豊章(演・加藤虎ノ介)のもとで「すべてを任されたアシスタント」的な作業に従事しているようです。いや、アシスタントってことはないか。もうゴーストライターですよね。
A:その捨吉に絵を教えたのが鳥山石燕(演・片岡鶴太郎)ということでした。蔦重(演・横浜流星)が「妖し絵の」といったように、「妖怪画」の祖のような立ち位置の人物で、昭和に入ってからも水木しげるさんが鳥山石燕の妖怪画を取材したことは有名な話なので、ある意味、現代日本人の「妖怪観」は鳥山石燕の影響を受けているといっても過言ではないようです。
I:ということで、男娼経験もあり、鳥山石燕に師事したということで、「唐丸→捨吉」の「正体」がほぼ明かされた感もします。
A:まあ、捨吉を演じているのが染谷将太さんということで、この時点で捨吉が誰なのか明かされたことになるのですが。
I:以前から、唐丸は喜多川歌麿か? はたまた東洲斎写楽なのか? という「論争」がSNSなどで展開されていましたが、決着がつきましたね。
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