秀吉派閥は、光秀派閥の敵・三好氏と組んだ!

『麒麟がくる』前半ではまだまだ信長と出会っていなかった
藤吉郎こと後の秀吉(演・佐々木蔵之介)。

これに対し、秀吉はどうだったか。

軽輩出身の秀吉は、尾張(愛知県)、美濃国(岐阜県)、そして近江(滋賀県)へと、主君信長に従って本拠を移すたびに、それぞれの土地で家臣を増やしていった。そして近江の長浜城主となった段階で、家臣団の整備が進んだ。

先ほどの(1)から(5)に即してみてみよう。

秀吉は、信長の五男・秀勝(於次秀勝)を養子としていた。これが(1)。この段階の秀吉には実子がいないので(2)はなし。名字を授けて一族化した家臣も、まだいない。

(4)の与力とされた大名は蜂須賀正勝と黒田官兵衛(孝高、後の如水)が挙げられる。

(5)となると、備前国(岡山県)の宇喜多直家と、河内(大阪府)を本拠に淡路(兵庫県)・阿波(徳島県)の奪還をめざす三好康長が挙げられる。

こうして光秀と秀吉がそれぞれ形成した「派閥」を比べてみると、身分や文化・教養の面では光秀グループが上を行くが、秀吉グループもそれなりの人材を抱えていたことがわかる。

藤田さんは、こうした派閥は、宿老たちが「生き残る」ために生み出されたと考える。信長の天下統一が最終段階を迎え、政権の専制化が進んだ結果、信長の子息はじめとする一族や近習らが重視・重用されるようになる。

すると、従来の重臣層は彼らに取って代わられる危険にさらされる。わずかな失敗が命取りとなり、失脚を余儀なくされるかもしれない。実際、佐久間信盛のような筆頭家老に相当する重臣でさえ、信長の不興をかい追放の憂き目にあっている。光秀や秀吉などの宿老たちは、生き残りをかけて派閥を拡大し、政権内での発言力を増さなければならなかったのだ。

織田政権において、光秀と秀吉の派閥は、最大規模となっていた。光秀は失脚した佐久間に代わって丹波・丹後・山城・大和の四カ国の諸大名の上位に位置する宿老となり、さらに長宗我部氏との取次に任じられることで、中国・四国、そして九州へと手を広げる織田政権の西国政策において、中心的な立場に立つことになった。

生き残りをかけた派閥抗争の末に起きた本能寺の変

一方の秀吉は、播磨・但馬(兵庫県)・因幡(鳥取県)を足掛かりに、毛利氏の勢力下にあった備前・備中(岡山県)への進出を目指していた。そのために、四国の支配をめぐり長宗我部と対立関係にあった三好氏と緊密な関係を保ち、三好氏による阿波、讃岐(香川県)の支配を支援する構えを見せていた。

当然、長宗我部氏とは厳しい緊張関係にならざるを得ない。また、信長も四国全土を支配しようとする長宗我部氏の動向に警戒心をいだき、長宗我部氏に四国の支配を任せるという政権の方針を変更してしまう。

その結果、長宗我部氏との関係を重視する光秀派閥と三好氏を後押しする秀吉派閥の対立は避けられなくなる。そして、両者の主君である信長は、もし長宗我部元親が政権の方針に従わなければ、これを討伐するという方針に転換していた。

光秀と秀吉の対立は、単なる「織田政権内での出世争い」には収まらない、政権を二分しかねない厳しい対立へと進んでゆく。そして、その対立の構図に、信長によって追放された将軍足利義昭の思惑も重なってくる。

畿内を去った義昭は、紀伊で抵抗したのちに毛利氏のもとに身を寄せ、備後の鞆の浦(広島県福山市)に幕府を移し、反信長工作を続けていた。毛利氏の力を背景とする義昭にとって眼前の敵は、信長の命を受けて中国地方に進出する秀吉ということになる。義昭が秀吉と対立する光秀に接近するのは、必然と言える。

本能寺の変の直前において、「信長―秀吉―三好」という秀吉派閥と、これと対立する「義昭-光秀―長宗我部」という光秀派閥の対立構造が成立する。信長は、明らかに光秀ではなく秀吉の側についたことになる。そして、窮地に追い込まれた光秀が選んだ生き残る道とは、主君信長の殺害という驚天動地の策だったのだ。

光秀と秀吉の対立が、派閥規模での対立であり、その対立が本能寺の変を招いたという「図式」を、非常に大雑把にではあるが紹介した。

本能寺の変が、光秀の個人的な怨恨や野望、あるいは誰かの陰謀によって引き起こされたのではなく、織田家の宿老たちの生き残りをかけた派閥抗争によって引き起こされたということが、藤田さんの研究によって明らかになったのだ。


安田清人/1968年、福島県生まれ。明治大学文学部史学地理学科で日本中世史を専攻。月刊『歴史読本』(新人物往来社)などの編集に携わり、現在は「三猿舎」代表。歴史関連編集・執筆・監修などを手掛けている。

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