取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
囲碁の道に入って半世紀。女流棋士の体力と気力は、ホームベーカリーが焼いてくれるパンと、季節の果物が支えている。
【新海洋子さんの定番・朝めし自慢】
11歳11か月──。囲碁棋士五段の新海洋子さんが囲碁と出会った年齢である。昭和45年、父に碁会所に連れて行かれたのが最初だが、決して早くはない。
「碁会所の先生はアマチュア六段ぐらいでしたが、今、考えると、とても形のいい、筋のいい碁でした。父と相談していたらしく、教える順番も考えていてくださった。最初に、正しい囲碁の道を教わったのは幸運でした」
同46年、中学2年の時にその先生の勧めで日本棋院の院生に。院生とは、プロを目指す子供たちが入る専門塾のようなものだ。院生時代の16歳で岩本薫九段(明治35~平成11年)の門下生となる。
「“来る者拒まず”で受け入れていただき、先生の囲碁サロンに通い始めました」
昭和53年にプロ入りし、平成10年五段に。五段となって初めて高段者とされるのだが、この時点でまだ無冠。平成11年、第1期女流最強戦で初タイトルを奪取する。この時41歳と遅咲きではあったが、その5年後には女流最強戦2回目の優勝を果たしている。
ところで、碁の才能は何で決まるのか。碁に向いている性格というものがあるのか。
「勝ったり、負けたり、の両方を楽しめる人。負けることが好きな人はいないでしょうが、それも全部受け入れて楽しむ。次にまた、頑張ればいいのですから」
白湯で胃腸を目覚めさせる
3食の中でも朝食が一番楽しみ、と新海さんはいう。それは13年前からホームベーカリーでパンを焼くようになったからだ。
「このホームベーカリーは本当に“優れもの”で、パンを焼いてくれるだけでなく、生種の天然酵母も作ってくれるんですよ」
朝食にはそのパンと旬の果物が並ぶが、まず口にするのが白湯だ。
「睡眠中に冷えた胃腸を温め、目覚めさせてくれるのが、1杯の白湯だからです」
その後、ゆっくり朝食を楽しむが、健康法は食べ過ぎないことと運動。還暦を迎えたのを機に、愛車を手放し、歩くことを心がけている。加えて、週に3回は近所のスポーツジムで汗を流すのも習慣だ。食事と運動が、対局に臨む女流棋士の体力と気力を支えている。
碁の楽しさを広めるために、『CACOMO』を考案する
現在、新海さんは『ホテルオークラ東京 囲碁サロン』の指導棋士を始め、月5~6回は指導碁を受け持っている。また今、力を注いでいるのが囲碁人口の広がりだ。
「10年ほど前には、囲碁の基本ルールで遊ぶ『CACOMO』というボードゲームを考案しました。囲碁の“囲”は“かこむ”という意味であり、駒を、ボードをみんなで“カコモう!”の気持ちです」
基本的には囲碁のルールに準拠するが、ふたり一組で戦うチーム戦であること、カードを用い自由に置けないこと、などの特徴がある。この縛りで子供と大人、初心者と経験者などが強い、弱いに関係なく戦える上に、打つ場所をカードで決めるので、初心者の戸惑いをなくしてくれる利点がある。
「今、フランスなどヨーロッパでこの『CACOMO』が静かなブームで、子供らが嬉々としてこれで遊んでいる。ここから囲碁へと人が流れてきてくれれば嬉しい」
師の岩本薫氏は80歳を過ぎてから、私財を投じて碁の海外普及に奔走した。その志を胸深く、国内のみならず海外でも囲碁人口の裾野が広がってほしいと願う。
取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
※この記事は『サライ』本誌2020年2月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。