文/鈴木拓也

慢性腎臓病、骨粗しょう症、認知症などの予防効果がある栄養素「葉酸」とは?|『あなたの健康寿命は「葉酸」でのばせる』

「葉酸」という栄養素をご存じだろうか?
これは、folic acidの日本語名で、この訳語をあてたのは、かの日野原重明医師。ほうれん草の抽出物から発見されたので、この名がついているが、実はビタミンB群の1種。ビタミンMとかビタミンB9と呼ばれることもある。
ビタミンの中では目立たない印象の葉酸だが、健康長寿のカギを握る栄養素だと言うのは、女子栄養大学の香川靖雄副学長だ。
香川副学長は、著書『あなたの健康寿命は「葉酸」でのばせる』(ワニ・プラス)の中で、葉酸は動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全など、さまざまな疾患の予防あるいは罹患リスクを減らすのに効果的だと述べている。
そう言われても初耳の人が多いかもしれない。そこで今回は、地味に見えて実はすごい葉酸の秘密を、本書をもとに紹介したい。

■葉酸の働きと欠乏リスク

葉酸は、身体を正常に保つための極めて重要な役割を持っているという。その1つが「DNAの合成のサポート」。遺伝子の本体であるDNAは、細胞分裂時にその情報がコピーされる。葉酸は、そのコピー時にミスが生じないようにサポートする働きがある。

さらに、傷ついた細胞の修復や正常な赤血球を作るのに関係しており、葉酸がないと、身体にクリティカルな悪影響をもたらすことがわかる。

そして、もう1つの大事な役割は、ホモシステインの代謝。これは、メチオニンという必須アミノ酸が、グルタチオンやタウリンといった別の有用な物質へと変わる工程で一時的に生成されるアミノ酸の1種。しかし、葉酸が不足すると、グルタチオンやタウリン等への生成プロセスが滞り、ホモシステインばかりが多くなってしまう。余ったホモシステインは、血中に流れ出て血管内壁を傷つけ、動脈硬化を起こす要因となり、動脈硬化は心筋梗塞や脳卒中などの原因となる。活性酸素も増やすので、老化を促進し、これに関連した疾病リスクも高まるなど、およそいいことは1つもない。これが、葉酸不足のコワさである。

■日本人の多くは葉酸が足りない

厚生労働省の調査結果によると、2017年の日本人の1日あたりの葉酸摂取量は平均で成人男性は299マイクログラム、成人女性は290マイクログラムとなっている。対して、推奨量は240マイクログラムなので、十分足りているように思える。

しかし、香川副学長は、「それは間違いです」と指摘する。
その理由は、1つには厚労省の推奨量が少なすぎること。他の国々、例えば米国だと400マイクログラムとなっていて「国際感覚と非常にかけ離れている」という。また、日本人の15%は、遺伝的に葉酸が不足しやすいリスクがある。

そして、シニア層。「高齢者は消化機能や代謝機能が若い人に比べて落ちていますから、栄養の吸収率が下がります」とも。つまり、きちんと摂っているつもりでも、体内で利用されるのは、その何割かに下がっているのだ。
ちなみに、諸外国を見ると、葉酸を添加していない穀類は販売してはならないなど、法的な強制力で国民に葉酸を摂取させている国は何十もある。お隣の中国は、穀類への葉酸添加をしていないが、貧困層には無料で葉酸サプリメントを配布しているという。米国では、葉酸添加を始めた1998年の翌年から、脳卒中の発症率が減るなど目覚ましい効果が出ていることも指摘。そうした対策をとっていない日本は「葉酸後進国」だと説く。

■対策は葉酸が豊富に含まれる食事を摂る

香川副学長は、葉酸の摂取量は米国と同じ400マイクログラムを目標にすべきだという。葉酸は体内では作れない栄養素なので、食事のかたちで摂ることになるが、葉酸の含有量の多いおすすめの食材が本書に記されている。

葉酸はほうれん草、小松菜、春菊、ニラ、グリーンアスパラ、ブロッコリー、菜花、オクラ、モロヘイヤなど、緑色の濃い野菜に多く含まれています。また、のり、枝豆、緑茶も葉酸が豊富です。(本書110pより)

特に気軽に摂りやすいことで「右に出るものはありません」とされるのが緑茶。玉露の茶葉なら100グラムあたり1000マイクログラム、煎茶の茶葉なら1300マイクログラム含まれている。お茶を1杯淹れると、玉露が150マイクログラム、煎茶は16マイクログラムと含有量は逆転する。市販のペットボトルの緑茶は100mlあたり約4マイクログラムしかない(7商品の平均)ので、自分で淹れたお茶がベストだ。

また、動物性食品では鶏・豚のレバーに、果物ではいちごやマンゴーに豊富に含まれている。

細かいガイドは本書に譲るが、上記の食品を日々意識して摂るようにすれば、400マイクログラムの目標はクリアできるとする。また、仕事が忙しいなどの理由で葉酸が十分摂れる食事が難しい場合、葉酸が添加された米など、サプリで補うのも手だ。

■葉酸摂取の大きなメリット

香川副学長は、葉酸を十分に摂れていることの健康効果は非常に大きい点にも触れる。
例えば、慢性腎臓病の予防に有効だという。

慢性腎臓病の患者数は、推計で約1300万人。重症化して腎不全になり人工透析を受けている人は約33万人(2016年時点)。「これほど透析患者数が多い国というのは世界中どこにもありません」と憂慮する事態だが、血中のホモシステイン値が高いと慢性腎臓病になる確率が高くなるというデータがある。そこで、葉酸をきちんと摂ることで、ホモシステイン値が下がり、慢性腎臓病の罹患リスクは下げられるとともに、合併症である心筋梗塞や脳梗塞のリスクも下げられる。

また、ホモシステインには、骨コラーゲンを劣化させる作用もあり、骨粗しょう症の一因とされているが、これも同様に葉酸で対策をとることが重要だ。
さらに、葉酸には「認知症のリスクが減る」、「2型糖尿病を予防する」、「加齢黄斑変性を予防する」といった効果もある。

これほどのメリットがあるなら、葉酸を十分摂取するよう心がけない手はないだろう。本書の巻末には葉酸を豊富に摂れるレシピ集も掲載されているので、こちらも参考にしつつ明日からしっかり葉酸を摂るようにしよう。

【今日の健康に良い1冊】
『あなたの健康寿命は「葉酸」でのばせる』

https://www.wani.co.jp/event.php?id=6191

(香川靖雄著、本体900円+税、ワニ・プラス)『あなたの健康寿命は「葉酸」でのばせる』

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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