文/鈴木拓也
高血圧学会が今年4月に発行した『高血圧治療ガイドライン2019』によれば、75歳未満の人の降圧目標は130/80未満、75歳以上については140/90未満となっている。これは、2014年版のガイドラインよりも低い値であり、現代はより厳しい血圧のコントロールが求められるようになった。
学会の目標値改定に対し、疑義をはさむのは、サン松本クリニックの松本光正院長だ。松本院長は、目安にすべき血圧値は「年齢+90」。つまり、60歳なら60+90=150、80歳なら80+90=170というふうに、年齢とともに上がっていくのが適正であると、著書の『やっぱり高血圧はほっとくのが一番』(講談社)で述べている。その理由も明快だ。
若い人の血管はしなやかです。動脈硬化も狭窄もありません。だから低いのです。その低い血圧でも地球という惑星に存在する重力に逆らって血液を心臓から脳へと送ることができるからです。しかし高齢になると血管のしなやかさは失われ、血管に狭窄が起こります。こういう血管の状態では130の血圧では脳まで血液を送ることができません。脳に血液を送らないと死んでしまうので、身体は命を守るために150、160、200と血圧を上げています。(本書69pより)
必要性があって身体は血圧を上げているのに、ガイドラインの基準より高いからといって降圧剤を与えるとどうなるか。松本院長は、「血圧を無理矢理下げるわけですから、脳の血流は低下してふらつきが現れます。降圧剤を飲んで働くほうがはるかに危険なはずです」と説く。「高血圧だと腎臓や血管が痛む」という言説についても、いささか誇張があるという。さらに、脳梗塞が多発しているのは、降圧剤の影響があるとも。
■健康的に血圧を下げる4つの方法
それでも、「自分の血圧の高さが気になる」という人に、本書では「まず実践したい4つのこと」が挙げられている。要約すれば以下のとおり。
1. 体重を落とす:肥満体型だと、脂肪で重くなった身体を動かすのにより高い血圧が必要になる。裏を返せば、余分な脂肪を落とせば血圧も適正値へと下がる。その方法として確実で早道なのは、自分のできる範囲で「食べる量を減らす」。毎日体重計に乗り、1か月しても1kgも減っていない場合、まだ食べ過ぎなので、もう少し減らしてゆく。思い切って、食事を半分に減らしてもよいという。
2. 睡眠不足を解消する:寝不足は、血圧を無用に上げてしまう。そこで、夜は11時には就寝し、しっかり睡眠をとるようにする。
3. 塩は摂り過ぎない:塩の摂り過ぎと高血圧には密接な関係がある。もし、食事に塩分が多いと感じていれば、少し減らす。
4. ストレスへの対処:ストレスは血圧を上げる大きな要因。ストレスをゼロにしようと無理するのではなく、「ストレスをストレスと感じないようにする」心のあり方ができるよう工夫する。
■心の健康を保つ重要性
前節の「ストレスへの対処」に関係するが、松本院長は、身体のみならず心の健康を保つことが、非常に大切だと力説している。これにも4つのポイントがある。
1. 笑う:何か嬉しいわけでなくても、笑うことをクセにする。それも、朝目を覚ました時から、夜寝るまで。散歩に出て野の花を見た時、風呂に入っている時など、小さな喜びに感謝し続ける。
2. 我慢を覚える:風邪で少々咳やくしゃみが出るからといって、すぐ病院に行って薬をもらうのではなく、数日の辛抱と思って我慢する。マイナスの症状は、身体が命を守るための反応と考え、むしろそれを感謝する。
3. 攻めの健康思考を持つ:世にある健康法の多くは「~してはダメだ」という守り中心。そうではなく「~をしよう」に思考を切り替える。例えば、高齢になれば転倒しやすくなるからと「あまり出歩かない」ではなく、積極的に足腰を鍛えて外出をする。
4. 覚悟する:「人間は徐々に老化し、いずれ死ぬことが運命づけられている生物である」ことを覚悟し、「できうる限り死を回避するために自然治癒力が備わった生物」でもあることを知る。そういう覚悟があることで、何か起きるたびに「死ぬのではいか」と右往左往する必要もなくなる
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松本院長は、降圧剤に限らず「クスリはリスク」だという。よく知られる多剤服用の問題だけでなく、他の国々では使用禁止なのに日本だけOKな薬もあるなど、効果の割には危険なものも多いそうだ。「言われてみれば、医師と薬剤に頼り過ぎているな」と思われる方は、本書の手引きに改善をはかってみてはいかがだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『やっぱり高血圧はほっとくのが一番』
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000322039
(松本光正著、本体820円+税、講談社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。