文/鈴木拓也
「世界で最もよくある非伝染性の病気」といわれる高血圧。世界で高血圧に罹っている人はざっと15億人。日本でも、高血圧基準値の140/90を超えている人は、約4300万人いるそうだ。
この140/90というのは、心血管系死亡リスクが高まる境目。自覚症状がないため見過ごされがちだが、サイレントキラーとも呼ばれるほど恐ろしい側面がある。
高血圧は、塩分の摂り過ぎが原因とよく聞く。「ならば、塩分を控えればいいのでは?」と思うが、どうもそうは問屋が卸さないらしい。最新の医学研究によれば、塩分以上の悪玉がいるという―それは砂糖だ。
砂糖が高血圧を引き起こす
「砂糖の過剰摂取で高血圧になることが判明した一方で、塩分は量ではなく摂り方が問題」だと警告するのは、米国で管理栄養士として活躍する有馬佳代さん。
有馬さんは著書『減塩より減糖 人生を変える! 血圧の新常識』のなかで、高血圧を引き起こす素因として、意外な真犯人を挙げている。
話を先に進める前に、塩分の摂取によって血圧が上がる理由を説明したい。
塩分が体内に入ると、塩素とナトリウムイオンに分かれ血管内をめぐり、血清ナトリウム値が高まる。このとき細胞内の水分が浸透圧によって血管内に移動し、血管内の水分量が増加。それに伴い血圧が上がるという理屈。体が正常であれば、やがて血清ナトリウム値が下がって、血圧も元に戻る。
では、塩だけでなく砂糖も摂るとどうなるか。
有馬さんの解説を要約すると、砂糖は体内でブドウ糖と果糖に分かれ、十二指腸から吸収される。果糖は、十二指腸と腎臓の尿細管に作用して、塩素とナトリウムの吸収・再吸収を増加させ浸透圧を上昇させるというのが一つ。さらに、果糖には交感神経を興奮させ、血圧を上げるホルモンの分泌を促す。こうして慢性的な高血圧になるという。
また、日本人の高血圧患者が増えているのは、「甘い味と塩ょっぱい味の組み合わせ」に原因があるかもしれないとも。
例えば、生姜焼き、肉じゃが、照り焼き、煮物などの定番メニューはどれも醤油と砂糖で甘辛い味に仕上げられます。
めんつゆ、ソース、ケチャップ、焼肉のたれ、サラダドレッシング、みりん風調味料などの調味料、インスタントラーメンや瓶詰食品などの加工品、冷凍シューマイやピザなどの冷凍食品にもほとんど塩と糖分の両方が入っています。(本書24~25pより)
では、ソフトドリンクやジュースのように単に甘いだけの飲料はどうかといえば、これもやはり血圧を上げることが実験から判明している。さらに、こうした飲料はブドウ糖も多く含み、血糖値を急激に上げる。これは、酸化ストレスで血管を傷つけるなど作用を及ぼし、高血圧のリスクを上げてしまうと、有馬さんは述べている。
隠れ砂糖には要注意
有馬さんは本書の中で「高血圧を予防する10の法則」を紹介しているが、その1つが「隠れ砂糖」を控えるというもの。
前述のとおり、日本人が好む食べ物には想像以上に砂糖が含まれているが、これを減らしていく。実践の方向性は、「砂糖を料理に使わない、砂糖が入った料理を注文しない」こと。家庭料理では、日本の伝統的な調味料の活用がすすめられている。例えば、鰹節、昆布、酒、梅干し、酢、みりんなど。ちなみに、スーパーで見かける「みりん風調味料」は、「うまみ調味料を果糖ブドウ糖で味付けした、本当のみりんとはかけ離れた調味料」とのことで、注意したい。
では、ヘルシーなイメージのある果物はどうか。これについては、「食物繊維の多いものを中心に、1カップ程度を心がける」と、アドバイスがある。また、品種改良された甘味の強いブドウやイチゴは、食物繊維が少なく糖分が多いため、食べ過ぎないようにと戒める。
高血圧を予防できる食べ物
本書には、積極的に食べて高血圧を防ぐ方法も提示されている。
その一例が野菜。特にレタスやほうれん草などの葉物野菜が挙がっているが、これは血管を柔軟にする一酸化窒素の素になる硝酸塩が豊富に含まれているため。そのため米国では、「安上がりな高血圧対策」として注目されているという。
そして、「高血圧予防だけでなく心臓や血管の健康のためにぜひ常備」と、有馬さんが絶賛するのが、アボカド。糖質はほとんど含まれず、血圧にいいビタミン・ミネラルが豊富なことが決め手。そのままサラダに加えたり、ハーブやレモンジュースと共に潰してディップにしたり、わさび醤油で刺身がわりにするなどして食べる。
もう1つがアーモンド。アボカドと同じ理由ですすめられており、「アーモンドを食べる習慣がある人は、高血圧、肥満、脂質異常になりにくい」とか。1日に食べる分量は、一握り(25粒ほど)を目安に。炭水化物の多い食事の30分前に食べると、食後血糖値を抑えて効果的だとも。
* * *
高血圧の治療といえば降圧剤が思い浮かぶが、それだけに頼ると「血圧は下がっても老化は加速する」と、有馬さんは記している。熟年世代になってもすこやかに生きるには、やはり食事を含む生活習慣の改善がカギとなるようだ。本書には上で紹介した内容以外にも、水分の摂り方や座りっぱなしの問題など、目からうろこの話が満載。血圧が気になる方は、読んで損のない1冊だ。
【今日の健康に良い1冊】
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)で配信している。