漢方が得意とする治療例
漢方の治療は、病名が付かないような慢性の不定愁訴(ふていしゅうそ)にしか適応がないと思っている人もいるかもしれません。しかし、日本の漢方は西洋医学と両立して用いられるのが特徴です。したがって、癌などの難治性の病気に対しては、西洋医学的治療を第一とし、漢方を補助療法として用います。
補助療法として漢方薬を使用する以外にも、漢方が得意とする治療があると聞きました。どんな疾患に対する治療を得意とするのでしょうか?
「漢方が得意とする治療のひとつに機能性胃腸症があります。機能性胃腸症とは、胃炎や胃潰瘍などの疾患はないのに、胃もたれや吐き気などの症状がある病気です。この症状に対して西洋薬で対処するのは難しく、漢方では六君子湯(りっくんしとう)という漢方が治療に用いられます。六君子湯は、拡がらなくなった胃を拡げることができる唯一の薬です。胃を拡げることにより、縮むことができるため胃に停滞していた食物が消化されやすくなり、胃もたれや胸焼けといった症状を改善することにつながります。
また、医師が自分自身で漢方の効果を実感したために、自身で行なう治療にも漢方を使い始めたという例は多く、こむら返りに対する芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の使用例が代表的です」
漢方薬はすぐ効かないというイメージがあるのですが、足がつってから飲んでも効果はあるのでしょうか?
「芍薬甘草湯は即効性のある漢方薬のひとつです。こむら返りが起こったらすぐに飲むとぴたりと治まります。こむら返りは夜中に起こることが多いので、枕元に芍薬甘草湯と水を用意しておくと良いでしょう。
その他にも、西洋薬ではなかなか手の施しようがない疾患に対して漢方薬が適している場合があります。その一例として、すぐにお腹が痛くなったり風邪を引きやすい、などの虚弱児童に対する治療があります。
虚弱児童の健康状態を改善したり、体力を高めたりするには漢方薬が一番適しています。頻繁にお腹が痛くなる子どもや、食の細い子どもが小建中湯(しょうけんちゅうとう)を1〜2年飲み続けることで元気になったという例が多いです。この場合にも治療には根気がいりますが、2〜3年続けるつもりで飲んで欲しいですね。小建中湯は麦芽糖の飴が入っていて甘味があり、子どもでも飲みやすいですよ」
西洋医学的治療の補助的治療として漢方を用いたり、西洋薬ではなかなか治療できない疾患や不調を改善したりと、漢方の治療の可能性は多岐にわたります。
また、「漢方は飲み続けないと効かない」といったイメージをお持ちだった人も、「即効性がある漢方薬もある」ということを知っていただけたのではないでしょうか。
西洋薬と漢方薬のそれぞれの良い点、弱点を知った上で、自分に合った治療を選択していきましょう。
文/葉山茂一(はやま・しげかず)
漢方デスク株式会社代表取締役。漢方・薬膳の総合ポータルサイト「漢方デスク(http://www.kampodesk.com)」を企画・運営。
取材協力/渡辺賢治(わたなべ・けんじ)
慶應義塾大学環境情報学部教授医学部兼担教授。漢方デスクの漢方医学監修を務める。