文/中村康宏
国内死因の第3位を占める脳卒中の死亡者数は年間約13万人です。(*1)脳卒中の死亡者数は1960年代から比べるとかなり減少しましたが、超高齢化が進行する日本では、脳卒中による死亡者数は今後ますます増加すると予想されます。また、脳卒中で一命をとりとめたとしても、後遺症のためこれまで通りの生活が難しくなってしまうことが往往にしてあります。そんな「脳卒中」はまさに今、寒い冬に多いのです。一体、どんな病気で何に気をつけて生活すればいいのでしょうか? 近年の研究でこれまでの常識を覆すような結果が報告されていますので、最新知見を交え解説します。
■脳卒中は3つの病気の総称
脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる病気の総称です。大きく3つの病気に分類され、脳の血管が詰まる 「脳梗塞」、脳内の細い血管が破れて出血する「脳出血」、脳の表面の血管にできた動脈瘤が破破裂する「くも膜下出血」があります。(*2)
脳梗塞
脳の血管が詰まるために脳細胞の一部が死んでしまう病気です。そのため脳梗塞が起こると、手が動かせなくなったり、言葉がうまく話せなくなったり、意識がはっきりしなくなったりします。後遺症が残ることが多く、回復した後も日常生活に介助が必要になることが少なくありません。
脳出血
脳の血管が破れてしまい、脳の中に出血を起こす病気です。血管から溢れ出た血液は塊となり、神経細胞に直接ダメージを与えたり、脳全体を圧迫することで脳の機能に様々な障害が生じます。
くも膜下出血
くも膜は脳を取り囲む3層の膜の真ん中に位置します。くも膜と脳を直接覆っている軟膜の間に血管が張り巡らされていますが、その血管に「脳動脈瘤」と言われる血管のふくらみができ、それが破裂することでくも膜下出血が起こります。動脈瘤が破れた瞬間には脳の圧が極めて高くなり、脳に血が流れない状態になります。この状態が長く続くと、脳自体に障害が加わって、意識が戻らない場合もあります。
■脳卒中からの回復を妨げる3つの悪循環
再発しやすい
脳卒中は再発しやすい病気で、その年間再発率は約5%といわれています。これが「年間」の再発率であることを考えると、一度脳卒中を経験した人はかなり高い確率で再発すると考えていいでしょう。脳卒中の経過は、発症直後から急速に脳機能が失われ、さらに新たに脳血管が詰まったり破れたりすると、そのたび一段と症状が悪くなります。つまり、「階段状」に進行すると言われます。(*3)
今までできていたことができなくなる
脳はホルモン分泌など内臓の働きを調整する他に、記憶や感情、運動など人間としてのあらゆる「機能」を司る臓器です。脳卒中になってしまうと、ダメージを受けた脳細胞が本来担っていた機能が失われてしまいます。例えば、性格が変わってしまったり、うつ病や認知症になったりします。さらに、寝たきり状態になってしまったり、お風呂や食事などの日常生活で介助が必要になったりもします。
その他の病気になりやすくなる
誤嚥しやすくなったり、動かない状態が続くことから肺炎や膀胱炎などの病気にもなりやすくなります。また、長期に生活レベルが落ちると、低栄養、体力・免疫力が低下し病気になりやすい素地ができてしまいます。
脳卒中は血管の病気です。まず、血管状態を健康に保ち、脳卒中を起こさない、あるいは、再発させない予防が肝心です。予防には動脈硬化や生活習慣病にならない/悪化させない対策が大前提になります。それに加え、脳卒中予防で見落としがちな3つのポイントもおさえておきましょう。
■不整脈の放置は禁止!
不整脈にも様々なタイプがありますが「心房細動」と呼ばれる不整脈は直接、脳卒中の発症と関連します。(*4)このタイプの不整脈は加齢に伴って直線的に増加し、80 歳以上では3人に1人が心房細動を有します。こんなに一般的な病気であるにも関わらず、症状がないため健診等で指摘されても放置している方が多いと思います。心房細動があると、心臓の一部の血流が乱れて流れが悪い部分ができ、そこに血のかたまり(血栓)ができやすくなります。心臓でできた血栓が血流にのって脳に運ばれてしまうと、脳の血管が詰まり脳梗塞を発症してしまうのです。心房細動があっても心臓の中で血栓を作らないように予防するお薬がありますので、心房細動を指摘されたら医療機関に相談するようにしましょう。
■低脂肪ダイエットは逆に危険⁉
近年のダイエットブームや健康意識の高まりから「飽和脂肪酸」は悪玉脂質として敵視されています。一方、オレイン酸やω-3(オメガスリー)などの「不飽和脂肪酸(善玉脂質)」を積極的に摂取している人も多いでしょう。飽和脂肪酸の摂取が血液中の悪玉コレステロールの増加に働くこと、さらに血液中のコレステロールが非常に高い人では心筋梗塞などになりやすいことは、これまでの研究でほぼ一致しています。しかし、飽和脂肪酸を多く摂ることが脳卒中のリスクを高くするとする結果はほとんど得られていません。さらに、血清コレステロール値が低い事が脳出血のリスクが高くなることが複数の研究で明らかとなっています。脂肪も飽和脂肪酸を「悪者」と決めつけず、バランスよく摂取することが大切なのですね。(*5、6)
■こんな症状に注意
脳梗塞ではないけど脳梗塞の一歩手前の状態であることを「一過性脳虚血発作」と言います。この発作は、脳の一部の血液の流れが一時的に悪くなることで、運動まひなどの症状が現れますが、数分程度で完全に消えてしまうため「疲れかな」と気に留めずに流してしまいがちです。しかし、一過性脳虚血発作は脳梗塞の重要な「警告発作」であり、早期受診・治療が必要な緊急疾患であるという認識を持ちましょう。
数分程度で消失するこんな症状は注意!
麻痺やしびれ
脱力
片目が真っ暗になる(暗黒症)または、一時的な視力障害
言葉が出てきづらい、ろれつが回らない
飲み込みづらい
ふらつく、めまい(ふわふわする感じ)
また、ABCD2 (エービーシーディースクエア)スコアというものが存在し、一過性脳虚血発作後に脳梗塞を早期に起こす危険性を予測する指標として用いられます。入院適応の目安としても使われるため、上記の症状があった時、以下の項目の点数を合計したスコア(0~7点)が高いほど、一過性脳虚血発作後、早期に脳梗塞を起こす危険性が高いとされています。特にスコア3~4点以上は要注意です。(*7)
A:age:年齢 | 60歳以上 | 1点 |
B: blood pressure:血圧 | 140/90以上 | 1点 |
C: clinical symptom:症状 | 片側の麻痺を伴う
麻痺がなく呂律が回らないなどの症状 |
2点
1点 |
D: diabetes:糖尿病 | あり | 2点 |
D: duration:持続時間 | 10-59分以内
60分以上 |
1点
2点 |
※ABCD2スコア。3~4点以上は要注意です。
以上、脳卒中について、脳卒中が起こった後に陥りやすい悪循環、脳卒中予防における見落としがちな3つのポイントについて解説しました。冬は寒さで血圧が高くなりやすく脳卒中になりやすい季節です。高血圧を含む生活習慣病のある人は特にその管理に注意を払いましょう。また、不整脈、偏った脂質摂取、警告症状にあなたは当てはまっていませんか? 正しく幅広い知識を持って脳卒中を回避しましょう。
【参考文献】
1. 厚生労働省 2017
2. 日本内科学会誌 1993: 82; 55-59
3. 国立循環器病研究センター
4. JPN J ELECTROCARDIOLOGY 2011: 31; 297-306
5. Stroke 1982: 13; 62-73
6. Eur Heart J 2013: 34; 1225-32
7. Equilibrium Res 2016: 75; 27-96
文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。一般内科診療から健康増進・アンチエイジング医療までの幅広い医療を、予防的観点から提供している。
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虎の門中村康宏クリニック
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