取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
人気落語家は超多忙。だが、趣味のひとつが料理。楽しみながら腕をふるう純和風の朝食が、昇太ワールドの笑いの源だ。
毎週日曜日夕方の人気テレビ番組『笑点』(日本テレビ系列)。2年前、その6代目司会者に抜擢されたのが、人気落語家の春風亭昇太さんである。
静岡県清水市(現・静岡市清水区)の生まれ。18歳まで落語とは無縁の世界にいた。だが、東海大学1年の時に、落語という禁断の果実を齧ってしまったという。
「何かサークルに入ろうと思って、ラテンアメリカ研究会の部室を訪ねたところ留守。その隣が落語研究部でね。“ここで待っていれば”と部室に招かれ、彼らの会話のおもしろさに落研の部室から出られなくなったばかりか、その世界からも出られなくなった」(笑)
たちまち頭角を現し、大学を中退。昭和57年、五代目春風亭柳昇に弟子入りした。
「僕は静岡生まれなので江戸の言葉はしゃべれないし、似合わない。と思っていたところ、高座の柳昇師匠は落語口調じゃなかったので、この人だと……。師匠は掃除をしてても落語は上手くならない。新作を作りたいなら映画を観たり小説を読めといってくれた。ありがたかったですね。感謝です」
昭和61年に二つ目に昇進し、春風亭昇太を名乗る。平成4年、7人抜きで真打に。同12年には、独演会「古典とわたし」で文化庁芸術祭大賞受賞。師匠が新作落語の名手ということもあり、新作に積極的に取り組んでいるが、古典・新作と分けているつもりはない。
「落語家は演者が演出家も兼ねているので、古典でも新作でも僕の個性、スタイルで演っています」
料理はプラモデルと同じ
高座を始めとして、芝居、テレビのドラマやバラエティ番組と、昇太さんの仕事は多岐にわたる。休日は月に1〜2回だが、時間を見つけては厨房に立つ。料理が趣味で、朝の味噌汁は削った鰹節と昆布で出汁を取る。魚釣りを楽しむので、魚を捌くのもお手の物。鰺の干物も手作りだ。
「昔ながらのしょっぱい梅干しが食べたくて、梅干し作りにも挑戦。手作り梅干しセットを利用すれば簡単です。料理は好きなプラモデルと同じで、設計図通りに作ればいい。僕は人見知りなのでひとりで外食するくらいなら、自分で作るほうが数倍楽しい」
仕事も趣味も生活も楽しみながら、機嫌よく生きたい
料理に限らず、趣味も多彩だ。そのひとつが中世城郭巡り。きっかけは中学1年の夏休みまで遡る。
「僕の臍の緒が入った桐箱を発見し、蓋に書かれた出生場所“静岡県清水市二の丸町”に目がいった。調べてみたら、かつてそこに江尻城というお城があったことがわかり、僕はふたりしかいない“古城研究会”というクラブを立ち上げ、近隣の城跡に立って妄想三昧の時間を過ごしていたんです」
地元の中世城郭がきっかけだから、天守閣より城壁や石垣に興味がわく。日本には3万~4万のお城があり、ひとつの県に千くらいはある計算だという。
そんな昇太さんの生活信条は、“機嫌よく生きる”こと。独身貴族がネタになっている通り、5LDKの家にひとり暮らしだが、その住まいは昇太さんをご機嫌にする“モノ”でいっぱい。たとえば、それが昭和のレトログッズだ。朝食のテーブルも、大師匠(六代目春風亭柳橋)の家の書院戸を再利用したものである。
レトログッズ蒐集は昭和という時代の、少年だった頃の心を忘れたくないからだという。
取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
※この記事は『サライ』本誌2019年1月号掲載の「定番・朝めし自慢」を転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。