文/中村康宏

ストレスとうまく付き合うための注目メソッド

ストレス社会の今日において、特に仕事による悩みやストレスを感じる労働者は 6割を超えており、労働者のメンタルヘルスへの取り組みが重要視されています。また、少子高齢化に伴う労働人口減少の問題に直面している日本では、医療費抑制・生産性向上の観点などからも、労働者一人 ひとりの健康維持・疾病予防が益々重要となります。『「今ひとつ仕事がはかどらない」は〇〇万円也』で、生産性を高めるためにはストレスフリーな環境づくりと個人のストレス対処能力の両者を追求しなければならないことをお話しました。では具体的に、どのようにストレスと向き合っていけばいいのでしょうか? 同じ環境にいてもストレスを感じる人、感じない人がいるのはその人の“性格”なのでしょうか? 今回は「ストレス」と「ストレス対処能力」に焦点を当てて解説します。

■ストレスがカラダに影響を与えるメカニズム

ストレスの処理は脳の「扁桃体」「前頭前野」などで行われます。外部からのストレス刺激が脳内でうまく処理されないと、それを処理するために脳の活動が活発になり、酸素消費量が増大します。酸素がたくさん使われた後には、その副産物として大量の活性酸素、つまり酸化ストレスが産生されます。通常は酸化ストレスから細胞を守るシステムが働き、活性酸素は除去されますが、処理しきれないほどの酸化ストレスが産生されると、細胞がダメージを受け機能不全に陥ってしまいます。このダメージやストレス負荷が脳の各部位に伝わることで、自律神経のバランスが崩れたり、ホルモンバランスが崩れてしまい、ぜんそく、アトピー、腹痛、高血圧、めまい、疲れやだるさ、抑うつ感など心身の異常が生じるのです。(*1)

■ストレスを回避するためにはこの2つを鍛えよ!

Lazarusの認知行動理論によると、ストレス反応に影響を与える要因として「認知モデル」と「ストレスコントロール」が重要です。(*2)

ストレスにさらされた時、それがどのくらい自分にとって 脅威となるか無意識的に評価します。次に、過去の経験、自分の価値観などをもとにストレスに感じている原因の解決の困難性・実現可能性を評価します。この一連の流れを「認知モデル」と呼びます。解決が困難だと強く感じれば心理的な負担を感じ、抑うつ、不安、怒り、イライラなどのネガティブな感情が起こったり、身体的なストレス反応をします。(*3)

同時に、ストレスを解決するために、あるいは心理的な負担感を減らすために何らかの行動をとりますが、これが「ストレスコントロール」です。

ストレスを回避する・うまく対処するためには「認知モデル」を知り、「ストレスコントロール力」を伸ばすことがカギになります。

■自分の認知モデルを理解することから始めよう

負の感情は、価値観や過去の経験から形成された各個人の「認知モデルの違い」によって起こると上述しました。この認知モデルは、その日の体調やコンディション、気分によって影響を受けることが知られていて、同じ状況下でもその時々で起こる感情と行動が変わってきます。例えば、頑張った仕事に対し上司から間違いを指摘された、という状況下で、「よし次こそは」と頑張る人がいる一方で、「自分はダメだ」と自信をなくしてしまう人がいます。

認知モデルの違いによって同じ出来事を経験してもそれに対する感情や行動は異なる。

認知モデルの違いによって同じ出来事を経験してもそれに対する感情や行動は異なる。

上図では出来事と感情/行動の間に認知モデルがありますが、その認知モデルはさらに4つの要素に分解できます。自分のストレスがどこから生じているのか? を把握するためには出来事から感情/行動までの一連の流れを分解し、自分がつまずいている部分を明確にすることがストレスコントロールの大前提となります。(各項目の詳細は「アメリカで広く実践される究極のストレスコントロール・メソッド【予防医療最前線】」にて解説)(*4)

認知モデルは「スキーマ」「推論」「自動思考」「行動/感情」から構成される。(詳細は「アメリカで広く実践される究極のストレスコントロール・メソッド【予防医療最前線】」を参照)

認知モデルは「スキーマ」「推論」「自動思考」「行動/感情」から構成される。(詳細は「アメリカで広く実践される究極のストレスコントロール・メソッド【予防医療最前線】」を参照)

具体例として歪んだ「推論」である“一般化のしすぎ”を挙げます。一般化しすぎる人は、1つの事例を全ての物事に当てはめてしてしまう傾向があります。例えば、「以前そうだったから」との限定的な事例で、「どうせまたそうに違いない」と結論付けてしまいます。歪んだ推論のせいで、そのあとのプロセスである自動思考や感情がネガティブな方向に向き、抑うつ・不安などの感情になりやすく、職場や生活環境に非適応的な行動をとり、うつ病になりやすい要因にもなります。

■ストレス社会をうまく生き抜くためのメソッド“ストレスコントロール・メソッド”

自分がつまずいている認知モデルを認識し、その部分を修正することが究極に理にかなったストレスコントロールになります。この方法は医学的に“認知行動療法”(ここでは「ストレスコントロール・メソッド」)と呼ばれ今注目を集めています。アメリカでは健康な人にも広く用いられ、ストレス社会をうまく生き抜く方法として構造的にメソッド化されています。(*5)

ストレスコントロール・メソッドは問題を明確にし、1つに絞って取り組むため、効率よく問題を解決できるという特徴があります。各セッション毎にどのテーマを優先するかを決めて一つずつ取り上げていくため、短期間で効率よく問題を解決することができます。また、ストレスコントロール・メソッドでは治療者が具体的なアドバイスをするような、積極的な関わり方をします。互いに問題を話し合いながら、より良い解決法を一緒に探って行くという姿勢です。それを通して自分でコントロールする能力を養うことができ、ストレスコントロール・メソッドを一通り終了した後でも自分で日常のストレスに対処できるようになります。コスパがいいことに加え、効果を裏付ける多数の研究が行われており、メンタルヘルス予防・治療に、薬物療法と同等かそれ以上の効果が実証されています。具体的に、ストレスコントロール・メソッドがどのようなものか、次回「アメリカで広く実践される究極のストレスコントロール・メソッド【予防医療最前線】」で解説します。

以上、ストレスとストレス対処能力について解説しました。まず、自分の認知モデルを知ること、そして自分がつまずいている部分に対し的確に対処・修正することが究極のストレスコントロールと言えます。そのスキルを身につけるための方法がアメリカでは広く用いられているストレスコントロール・メソッドです。ストレスコントロール・メソッドについては次回で取り上げます。

【参考文献】
1.Biol Psychiatry 2009: 15; 344–8
2.Br J Health Psychol : 18; 97-121
3.心理学研究 2007: 78; 365-71
4.Clinical Psychology Review 2003: 23; 831–48
5.Forbes 2018


文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。未病治療・健康増進のための医療を提供している。

 

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