文/鈴木拓也

息の長い「山歩き・登山」ブーム。『レジャー白書』によれば、2016年において国内の登山人口は約650万人、「ピクニック、ハイキング、野外散歩」だと約1860万人と、かなりのボリュームがある。時間的余裕のあるシニアたちも、日本百名山に挑むなど活発に山歩きをしている。

一方で、山の遭難者が多いのも、まさにこの世代。

「50~70代の遭難者は全体の60%、50~70代の死亡・行方不明者は全体の72%を占めています」と指摘するのは、登山歴約30年、還暦過ぎてフリークライミングにうちこむベテランの野村仁さんだ。

登山関連の書籍を何冊か出している野村さんは、新刊『55歳からの やってはいけない山歩き』(青春出版社)の中で、中高年登山者の遭難が多い理由として、「目的の山やルートと、そこへ行く人の実力がマッチングしていない」ことを挙げる。

運動強度で見れば、一般的な登山はジョギングやスキーに匹敵し、ハイキングでもかなり速く歩く運動よりもキツい。それなのに、ふだんは運動をせず、いきなり山に挑戦するのだから、遭難リスクが高まるのも必定。

とはいえ、野村さんはシニアの山歩きを戒めてはいない。むしろ、健康にプラスになるとして大いに推奨している。本書では、山歩きの健康効果として、「血液の流れをよくする」、「エネルギッシュな体をつくる」、「メンタルヘルスに良い」など挙げ、解説を加えている。

ただし、その恩恵を受けるにはトレーニングや装備などの準備が必要で、大半のページは斜面の上り下りの仕方やバックパックの選び方など、実践的な事柄に割かれている。そのあたりの詳細については本書を読んでいただくとして、本稿ではその入り口の部分に触れよう。

■ウォーキングから始める

野村さんは、前準備のトレーニングとして、平地のウォーキングをすすめる。まず、大事なのは、下図のような「正しい立ち方」を習慣づけて歩くこと。これによって、山でも疲れにくい効率的で安全な歩き方が可能となる。

歩き始めは正しい立ち姿勢から

ウォーキングの際は、正しい立ち方をした状態から一歩踏み出す。そのあとは、下図の動作・姿勢を保ちながら、歩いてゆく。

ウォーキング時の動作・姿勢の留意点

ウォーキングの頻度については、現在の体力レベル・環境によって違ってくるので一概には言えないとしつつ、目安として「1日30~60分、週に3~4回歩く」ようにと野村さんはアドバイスする。高齢者や運動不足気味の人なら「10~20分散歩する」ことから始めるが、生活の中のさまざまな場面で歩くことが重要と説く。

■自宅の周辺を“探検”して歩く

野村さんのウォーキング術のユニークな点は、決まったコースを歩くだけでなく、「好奇心のおもむくままに、いろいろな場所を散策」することに重点が置かれていることだ。

これまで仕事中心で生きてきた人は、自宅周辺をきちんと歩いた経験は少ないかもしれません。自分の住む町で見所となっている場所、名所旧跡、有名な町並み、住宅街、田園地帯などのスポットがどこか、知っていますか? ウォーキングを始めたら、そういう場所を一つずつ訪れてみるのも楽しいと思います(本書54pより)

また、多くの自治体はウォーキングコースを設定しており、ウェブや冊子で公開しているので、こうしたコースを歩くのもおすすめとも。

そして、自宅周辺のウォーキングに慣れてきたら、少し遠出して「里山」をめぐるのもよいという。本書には、寺やふるさと村など関東地方の里山ウォーキングスポットが詳しく紹介されているので、近くに住んでいる方はチャレンジしてみるとよいだろう。
そして、体力がついてきたら、低い山のハイキング、そしてより本格的な山歩きへとステップアップ。これらについても、基本的なガイドが網羅されている。

■山中でトラブルを起こさないために

平地でトレーニングを積んで準備万端でのぞんでも、何が起こるのかわからないのが山だ。野村さんは、「トラブルになる人、ならない人の違い」と題して、山でトラブルに巻き込まれやすいパターンを論じているが、アブないのは例えば次のような人。

山歩きの経験の浅い人が一人で、自由なペースで山を歩くと、オーバーペースになりがちです。とくに傾斜のきつい登り坂であるほど、一気に終わらせてしまいたい気持ちになって、つい「がんばって」しまうのでしょう(本書198pより)

これだと休憩時に休みすぎてしまい、歩行・休憩のリズムも崩れ、予定していたよりも登頂が遅れる危険性を、野村さんは指摘する。

そのほか、「膝痛の原因は脚筋力不足での山歩き」、「熱中症に高齢者や子どもは特に注意」など、われわれの世代が気をつけるべき課題と対策にも触れられており、有用性が高い1冊に仕上がっている。これから山歩きを始めてみたいという方には、一読をすすめたい。

【今日の健康に良い1冊】
『55歳からの やってはいけない山歩き』

http://www.seishun.co.jp/book/20401/

(野村仁著、本体1,000円+税、青春出版社)

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

 

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