夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。月曜日は「健康・スポーツ」をテーマに、プロレスラーの神取忍さんが執筆します。

文/神取忍(プロレスラー)

私たちプロレスラーにはケガがつきもの。試合だと頭をぶつけたり、あちこち打撲したり、関節を痛めたり、かつては流血するような試合もよくありました。

海外と違って日本の女子プロレスの興行では、試合で負傷したときの保険や補償に対する規定がまだしっかり整備されていないんですよね。それに加えて、職業柄、個人で掛ける保険でも加入制限を受ける場合があって、じつに不安定なんです。だから、これまでお話してきたように、私は体のメンテナンスをしっかりし、さらに人間ドックなど、定期的な検査を受けるようにしています。

1986年に女子プロレスの世界に入って以来33年――。これまで多くの試合をしてきましたが、我ながら壮絶だったのは、2000年7月の天龍源一郎さんとの試合ですね。もし引退して「プロレスラー人生を語ってみろ」って言われたときには、まず語りたい試合ですね。

プロレスを知らない方にとっては、天龍さんは「おもしろいテレビCMに出ている、しゃがれ声のおじさん」という印象があるかもしれませんが、プロレス界においては「生ける伝説」とも呼ばれていた大スターです!

実際に闘ってみて、天龍さんの「グーパンチ」は、これまで体験したことないくらい、とにかく痛いの! 「リング上では男も女も関係ない」と、自ら望んでお願いした試合だったんだけど、文字通りボコボコにされて、自分でもビックリするくらい顔が腫れ上がっちゃっいました(笑)。

あのときは眼窩底(がんかてい)かどこかは骨折しているだろうなと思って、試合後、即病院へ行ったんですよ。ところが、なんと骨にはまったく異常ナシ。ただ顔がうんと腫れているだけ。それで、医師からも「入院しなくていい」って言われちゃったんだよね。

その診断結果を聞いたら、安心しちゃったんだと思うんだけど、メッチャ痛いのに、なぜかご飯を食べに行ったんですよ。もう深夜だったんだけどね(笑)。そして食べに行ったお店で、当時、新日本プロレスで大活躍していた闘魂三銃士のひとり、破壊王・橋本真也さんに遭遇しちゃったんです。

ここから少々脱線してしまいますが、このコラムの担当編集がこの話が大好きなもので(笑)、橋本真也さんとのエピソードにしばしおつきあいください。

もう、お店の場所がどこだったか、何を食べていたのかも覚えていないんだけど、真也さんとの会話だけは鮮明に覚えているんだよね。

そのとき、真也さんが私のスゴイ顔を見て

「おまえ、どうしたの?」

って言うわけですよ。それで

「いやいや、天龍さんとねー」

と、ことの次第を話したら、

「あー、そうなんだ。お前、それでこれからどうするんだ」って。

それで、私が

「顔を冷やすんで、家へ帰んなきゃ」

と答えたら、

「バカだなぁー!」

って言うんですよ。

「それだけ腫れてるんだったら、街中を歩いてこい! こういう仕事をしているんだということを、もっとアピールしなくちゃダメだろ。それがプロなんだよ! お前のほかに、誰がその顔で街を歩けるんだ!」って。

その言葉を聞いて、

「スゲーな。真也さん、やっぱりカッコイイー!!」

と思ったんですよね。

だって、ふつうだったら

「顔を冷やして、ちゃんと体を休ませろ」

って言うところじゃないですか。真也さんは、そう言わないところが、スゴイ!

プロレスラーとしての意識が変わった、目からウロコの瞬間でした。

以来、「プロというのは、ただ戦っているだけじゃダメで、みんなの旗振り役でなければいけない」と思うようになりました。

プロレスラーはリングがすべてじゃない。その延長線上で、社会にまで影響を与える存在であり続けなくちゃいけないんだと、ずっと思いながらレスラー生活をしています。

年に1度の人間ドックと、こまめな健康診断で体調を管理

あの天龍戦から18年――。現在、神取は年に1度、きちんとした人間ドックをしっかり受けています。これまでも健康診断はマメにしてきたし、ケガをするたび、病院に行ってMRも撮ってきたけれど、さすがにそろそろちゃんとした検査をしといたほうがいいと思い、50歳を境に内臓を含めた正式な人間ドック検査を受診しています。

毎年検診をお願いしている埼玉県の間柴病院。最新鋭の検査機器が導入されていて、院長の間柴先生の胃カメラは痛みがなく、天下一品です!

もちろん、これまでの健康診断も変わらずマメにやっていますよ。

私は、体のサイクルみたいなものなのか、だいたい年に2回、風邪をひくんですよね。それで、かかりつけの病院へ行くと、「とりあえず血を抜いとこうか」と。これがなじみになった先生との恒例のご挨拶。ほら、血液検査で大体、体の調子ってわかるでしょ。

また、仕事で博多へ行く機会がちょくちょくあるんですが、そのときにも簡易の健康診断を受けています。受診するのは、JR博多駅近くにある「健康医療クリニック」。ここで「簡易健康度測定 QRM」というのを受けているんですよね。

この検査は両手で測定器に触れるだけなんですが、体すべての健康状態がわかるそうなんです。この測定器は、宇宙飛行士が体のチェックを簡単に行なうために開発されたマシンの仕組みを取り入れたものだそうですが、診断に必要な所要時間はわずか1分! じつに優れものです。

これは病気を見つけるための機械ではなく、自分の体の傾向を測定して、その状態を知るためのもの。たった1分の検査で、ミネラルやビタミンのバランス、アレルギー指数などの傾向が160項目も測定できるんだそうです。

今年は、またべつの検査もしてもらいました。

指先に装着するだけで、血管の老化や血の巡りのよさ、それにストレスの累積度までもわかっちゃうそうなんです。このマシンの測定時間も短くて、大体2~3分ぐらい。ほんとに便利になったものです。

この小さな機械は「uBioMacpa PRO-Special Ⅱ」(ュ―バイオマクパ プロスペシャル)といって、パソコンに接続するだけですぐに使えて、データ管理も簡単にできるそうです。

こうやって振り返ると、私は検査マニアといってもいいくらい、しょっちゅう、なんらかの検査をしているんだなとあらためて思いました。でも、数値で健康が証明されると、やっぱり安心するし、頑張る気力もわいてくるんだよね。

皆さんも、健康診断は最低でも年に1回、必ずやってくださいね!

文/神取忍(かんどり・しのぶ)
神奈川県生まれ。プロレスラー。1983年から全日本選抜柔道体重別選手権(66kg級)3連覇。1986年女子プロレスデビュー、現在は総合格闘技にも挑戦中。女子プロレス団体LLPW-X代表。

 

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