文/中村康宏

肥満人口は増え続けており、社会問題となっています。食生活や生活環境が大きく変わったことがメタボリックシンドローム(以下、メタボ)の大きな要因と考えられています。

メタボの診断において「肥満」は必須項目となっていますが、それはさまざまな疾患の危険因子となるからです。そこで今回は、肥満が関係する病気とそのメカニズムについて解説し、あわせて近年明かになった「カロリー制限と長寿効果の関係」についてもご紹介します。

■肥満の基準とは

日常臨床では、肥満の判定基準として、簡易的に「BMI」が用いられます。この「BMI」 は、いまの体重(kg)を、身長(m)×身長(m)の数値で割って求めます。簡単ですので、ぜひ皆さんも電卓片手に計算してみてください。

日本肥満学会では、BMI:25以上を「肥満」とし、BMI: 25~30を「肥満1度」、BMI: 30~35を「肥満2度」、BMI: 35~40を「肥満3度」、BMI: 40~を「肥満4度」と分類しています。(ちなみにWHO基準では、BMI: 30~を肥満と定義しています※1

体重と身長だけで算出するBMIについては、「健康レベルや体型を適切に表せないのでは?」と思う方も多いと思います。確かにBMI は脂肪量を直接測定しているわけではありませんが、成人では体重の増減は脂肪量の増減を反映していると考えられるため、健康の指標として有用であることがわかっています。

またBMIは、様々な肥満関連疾患の発症や動脈硬化性疾患による死亡リスクの判定に有用であることが多くの研究から明らかとなっています(※2)。とくに死亡率の検討では、BMI: 22-23で最も低くなることがわかっています。メタボの有病率では、BMI: 27のメタボの有病率は、BMI: 22の約2倍となることが示されています(※3)

■肥満は万病の元!

「肥満は万病の元」と断言できるくらい、肥満になると様々な病気を合併しやすくなります。耐糖能障害(2型糖尿病・高血糖、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)、脳梗塞(脳梗塞など)、脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患/NAFLD)、月経異常、妊娠合併症(妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、難産)、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などなど……、馴染みのある病気は全てと言っていいくらい肥満と関連します。

さらに、体重が骨や筋肉に負荷を与え整形外科的疾患(膝、股関節関節症、変形性脊椎症、腰痛症)も合併します。大腸がんや乳がんなどの悪性腫瘍とも関連があるとされています(※4)

なぜ肥満が、これほどの病気の元凶になるのでしょう?

肥満による余分なエネルギーは、酸化ストレスを発生させたり、内臓脂肪に慢性炎症をもたらすことがわかっています(※5)。これによって、“TNF-α”という炎症物質が全身へ分泌されます。これがインスリンの効きを悪くし、そのため血糖を含む様々な代謝が障害されます。

さらにインスリンの効きが悪くなると、カラダは「もっとインスリンを供給しないといけないといけない」と勘違いし、高インスリン血症をもたらします。この高インスリン血症が細胞増殖因子(IGF-1)を増やし、本来死ぬべき細胞まで増殖させてしまい、ガン化につながると考えられています(※6)

■カロリー制限が寿命を延ばす理由

肥満は遺伝的要素・腸内環境・生活環境など様々なことが原因で起こります。当然のことですが、食べ過ぎない・栄養素を取りすぎないことが、肥満の予防になります。

しかし、肥満を予防する以外に「カロリー制限」をオススメする理由があります。それは、カロリー制限が寿命を伸ばすことがわかってきたのです。

30%の食事制限をしたサルは通常の食事を続けたサルと比べて長生きし、脱毛や白髪・シワなどの老化症状を防ぎ改善した、という研究成果が報告されました(※7)。この研究で注目を集めたのは“サーチュイン”という名の「長寿遺伝子」です。

カロリー制限を実施すると、栄養不足の状態を感知するセンサーの働きをする“サーチュイン”が活性化されます。これが抗酸化ストレス作用・抗炎症作用をもたらし、代謝やストレス抵抗性の調節に重要な役割を果たしていることが示されています(※8)。

つまり、カロリー制限は以下の3つのメカニズムで寿命の延長に関係していると考えられます。

(1)肥満を予防する。
(2)インスリンの効きをよくし、上記の疾患予防に役立つ。 (*9)
(3)長寿遺伝子を活性化させる。

*  *  *

以上、肥満とその合併症、そしてカロリー制限にある3つの効果について説明しました。

予防医学などによる病気発症前の対策・予防が提唱されている昨今、肥満を正すことが健康維持増進に重要となります。さらに、カロリー制限には寿命延長効果の可能性があり、今後もこれらの報告に注目が集まります。

抗肥満効果と寿命延長効果が期待できる「腹八分目」を実践してみましょう。

【参考文献】
※1 肥満症診断基準. 肥満研 2011
※2 Hypertens Res 2011; 34: 274-9
※3 肥満研 2000; 6: 4-17
※4 N Engl J Med 2007: 357; 741-52
※5 J Clin Invest 2008; 118: 710-21
※6 日本内科学会雑誌 2011: 100; 975-81
※7 NATURE COMMUNICATIONS | 8:14063 | DOI: 10.1038
※8 Nutrition 2016: 32; 174-8
※9 Cell 2004: 120, 473-482

文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。

 

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