文/中村康宏

概して「女性は男性より甘いもの好き」というのは万人の知るところで、経験的にも疑いの余地はありません。しかし「ではなぜ、女性が甘いもの好きなのか?」と踏み込むと、答えに窮してしまうでしょう。

近年の研究で、この疑問に対する答えが医学的に理由付けされようとしています。そのキーワードはなんと「自律神経」です。

今回は、自律神経がカラダに及ぼす影響について解説するとともに、上記のような男女の嗜好の違いがどう自律神経に関わるのか、ご紹介します。

■明らかにされる自律神経の働き

「自律神経」という言葉はよく聞くかもしれませんが、「なんだか得体の知れないもの」といった印象を持つ人は少なくないでしょう。

実際、全身に分布する自律神経を一つずつ計測することは今日の医療技術をもっても不可能で、マウスを使った実験や臨床現場から、自律神経の機能が明らかにされようとしています(※1)

自律神経は、体を活動させる働きを持つ《交感神経》と、体を休ませる働きがある《副交感神経》の二種類の神経で構成されます。この相反する神経が、バランスを保って臓器の働きを調整しています。(※ただし消化管など一部の臓器は、副交感神経でその働きは活性化されます)

例えば、自律神経は血糖、血圧、体温、糖代謝、脂質代謝などの生命活動の維持に重要な役割を果たします。眠っていても生命を維持できるのは、この働きによるのです。(※2)

この自律神経は、カラダが安定するように全身をコントロールする働きを持ちます。それゆえ、自律神経のバランスが崩れると全身にいろんな支障をきたしてしまうのです。

■ストレスは自律神経のバランスを狂わす

ストレスが体に加わり、体の内部環境がうまく適応できないと、心身症、神経症、高血圧、メニエール病などを発症させ、それらの経過に大きく影響を与えることは臨床的に広く認められています(※3)。

その他にも、肩こり、眼精疲労、疲れやすさ、便秘などは自律神経の機能異常を疑わせる症状で、これらの症状の発生や進行に自律神経活動レベルやその機能の変化も少なからず関与している可能性が示唆されています(※4)

突然死は早朝に多いということが統計的に明らかとなっています。早朝は体を動かそうとする交感神経の働きが強まり、血圧が高くなるため早朝の心筋梗塞や脳卒中が起きやすいと考えられています。

実際、交感神経高まりを抑える薬を心筋梗塞後の糖尿病患者に投与したところ、生存率を改善し、全死亡率の減少をもたらすことが示されているのです(※5)。

■自律神経の乱れが免疫力低下につながる

ほとんどのストレス刺激は免疫を抑制させます。例えば、免疫系に属するリンパ系の最大の臓器である「脾臓」を支配する交感神経が興奮すると、ガン細胞やウイルスに感染した細胞を殺傷する能力をもつナチュラルキラー細胞の働きが低下することがわかっています。

疲れた時に口唇ヘルペスができるのは、この自律神経を介した免疫力低下が原因と考えられます。

また、ナチュラルキラー細胞の活性が低下すると、がん細胞の増殖が促進されることが実験から明らかとなっています。(※6)

このように、自律神経はカラダに様々な変化をもたらすのです。

■自律神経と「男女の嗜好の違い」の関係

さて冒頭の「なぜ、女性が甘いもの好きなのか?」についての話がまだでしたが、その前に、自律神経が体内時計と密接な関係にあることをご存知でしょうか?

(参考:ノーベル賞受賞で注目!「体内時計」の研究でわかった健康生活2つの原則

自律神経の司令室は、脳の「視床下部」に存在しますが、ここには体内時計の主時計が存在し、自律神経の働きに一定のリズムを与えているのです(※7)

この体内時計の障害は「うつ状態」を引き起こします。典型的なものは、北欧における日照時間の短い冬に「冬季うつ病」が多発することが挙げられます。

このようなうつ病では、自律神経も障害され、交感神経も副交感神経も動かない状態になっています。肝臓、膵臓、副腎の交感神経が興奮しなくなると血糖値が低下しやすくなり、血糖値を上げるために、冬季うつ病の患者は甘いものを欲しがる、と考えられています。(※1)

そしてこの冬季うつ病と同じ原理が、男女の嗜好の違いに現れるのではないか、と推測しているのが、大阪大学名誉教授の永井克也先生です。

永井先生は、ヒトが食事をしない時、血糖値の変化に男女差があるかを比べました。すると、肝臓での血糖値を上げようとする能力は、男性に比べて女性のほうがはるかに低く、男性の血糖値の低下よりも女性の血糖値の低下がはるかに大きいことが明らかとなりました(※8)

このことから、女性は男性よりも交感神経の緊張が弱く、血糖値が下がりやすいので甘いもの好きであるが、男性は交感神経の緊張が高く、血糖値が下がりにくいので、それほど甘いものを欲しないことになるのであろう、と考えられるのです(※1)。

*  *  *

以上、今回は自律神経の働きやカラダに与える影響、そして『女性は男性より甘いものが好き』という嗜好の違いについて、自律神経の観点から解説しました。

自律神経の働きは未解明な部分も多いですが、肩こりや疲労感といった日常的に誰もが経験するものから、感染症やがん、突然死など生命を左右するものまで幅広く影響を与えるものとして注目されています。

ストレスの蓄積は、大きな病気につながります。だからこそ大きな病気を防ぐために、上手なストレスマネージメントが必要なのです。

【参考文献】
(※1)化学と生物 2013: 51; 160-167.
(※2)解剖生理学 2014.
(※3)ストレスと消化器の病気、からだの科学 1994: 177; 36-40.
(※4)日本栄養・食糧学会誌 2008: 6; 129-133.
(※5)Am J Cardiol 2003:91 : 137-142.
(※6)Basic & Clin 2009: 147; 86.
(※7)Prog. Brain Res 1996: 111; 253.
(※8)Metabolism 1989: 38; 1103.

文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。

 

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