コロナ禍で控えられていた歓送迎会が復活し、この春は飲酒をする機会が増える人も多いのではないでしょうか。お酒は健康を害するものと思われがちですが、近年は国内外の疫学研究により、「酒をまったく飲まない人より、適量飲酒を習慣にしている人の死亡率のほうが低い」ということが報告されました。これは、まさに「酒は百薬の長」という酒飲みにとって心強い格言が医学的に証明されたというエポックメイキングな出来事かもしれません。
とはいえ、やみくもに飲酒をしてしまったら病気へとつながることも事実です。『医者が教える もっと! 体にいい酒の飲み方』(宝島社)では、酒をこよなく愛する医師たちが、一生健康のまま楽しめる「酒の飲み方」、体に良い「つまみの選び方・食べ方」など、酒好き必読の新常識を指南しています。今回は、「体に負担をかけず、長寿も叶う飲み方」を紹介します。
2杯目以降はノンアルをはさむ!
脳へのダメージ減、水分補給にも有効
<監修>
栗原毅(くりはら・たけし)
栗原クリニック東京・日本橋院長。医学博士、日本肝臓学会専門医。
東京女子医科大学教授、慶應義塾大学大学院教授を歴任。「血液サラサラ」の名付け親の一人。生活習慣病や寝たきりなどの予防・改善の情報を広く発信している。著書・監修書に『肝臓の名医が明かす!1週間で内臓脂肪が自然に落ちる本』(宝島社)など多数。
2020年以降売り上げ高を伸ばしている「アルコール0.0%」のノンアルコールドリンク。「『ノンアル』は酒が飲めない人のための飲み物」という印象があるかもしれませんが、酒飲みが飲んではいけない理由はありません。例えば「味がどんどんビールに近づいている」といわれるノンアルコールビールは、2杯目以降にはさみ込むことで「アルコールの適量管理」のための武器になります。アルコール摂取によって排泄されやすい水分の補給にも有効です。
飲酒気分を維持しながらアルコールによる脳へのダメージも軽減できます。飲酒の魅力の1つである「酔い」は、一時的な脳機能のマヒです。通常の酔いは一時的な障害であり、覚めればもとに戻りますが、長期間何度もくり返していると、脳の萎縮率が高まるという報告もあります(非飲酒者、1日2合以下の飲酒者⇒脳の萎縮率 24~27%、1日2合以上の飲酒者⇒脳の萎縮率 36%*)。
ただし、ノンアルといえども無限に飲んでもいいというわけではありません。「ビールの味に近づけるための人工添加物」や「人工甘味料」が含まれるため、病気にならないためには過剰摂取は控えましょう。
*出典:日下医院(千葉県千葉市)・日下忠文院長の研究データより
万病への扉が開いてしまう、
飲みながらの寝落ちは絶対NG!
飲みすぎてしまったとき、ついそのまま眠ってしまったという経験がある人は少なくないはずです。寝落ちは体に悪影響を与えます。できる限り避けるようにしましょう。
寝落ちが危険な理由は、アルコールによって筋肉が弛緩しているため口呼吸になりやすく、ひどいいびきや、睡眠中に無呼吸や低呼吸をくり返す「無呼吸症候群」を引き起こす可能性があるからです。さらに、口呼吸になると口の中が乾燥し、アルコールの利尿作用による体内の水分不足の影響もあって、唾液の量が減ってしまいます。なおかつ、睡眠時には唾液の分泌量は低下する特徴があるので、唾液による殺菌力が大幅に落ちます。このような条件がそろったところに歯を磨かずに寝てしまうわけですから、睡眠中の口の中で虫歯や歯周病の原因菌が大繁殖してしまいます。
虫歯や歯周病は、単なる歯や歯茎のトラブルにとどまりません。原因菌は血流にのって全身をめぐり、さまざまな場所で悪さをするのです。その結果、糖尿病をはじめとする生活習慣病や認知症、心臓病、骨粗しょう症、関節炎など、さまざまな病気を誘発します。特に糖尿病は歯周病と深い関係にあります。歯周病になると炎症のある組織で作られた「炎症性サイトカイン」という物質が血液に侵入し、血糖値調整ホルモン「インスリン」の働きを阻害します。そして糖尿病になり高血糖状態が続くと、歯茎の毛細血管が徐々に細くなり、やがて歯茎の炎症が悪化して免疫力が低下し、さらに歯周病菌が増殖します。このように、歯周病と糖尿病は、互いの症状をより悪化させる負のスパイラル関係にあるのです。
そして、「舌やのどの筋肉」が弛緩すると、舌のつけ根などが上気道に落ち込みやすくなります。その結果がいびきや無呼吸・低呼吸であり、睡眠がしっかりとれず、疲労が蓄積します。さらに長期間続くと高血圧や糖尿病などの生活習慣病の発症リスクを高め、心臓発作や心臓病、脳卒中といった命にかかわる病につながる危険性もあるのです。寝落ちせずにすむよう、飲酒量や飲み方、飲むタイミングに注意しましょう。
Column:酒飲みの寿命を縮めるNGアクション(1)
どんなに酒やつまみにこだわっても、これらの行動をとってしまったら台なしに。心あたりがある人は、命を守るために今日からやらないよう注意を!
<監修>
秋津壽男(あきつ・としお)
東京都品川区戸越銀座・秋津医院院長。日本内科学会認定「総合内科専門医」。
大阪大学工学部発酵工学科で酒造りを学んだあと、和歌山県立医科大学循環器内科勤務などを経て現職。テレビ東京「主治医が見つかる診療所」レギュラー出演のほか、著書も多数。ワインと健康に関する功績により、日本ソムリエ協会から名誉ソムリエの称号を受ける。
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飲酒後のサウナは死に直結! 血が濃くなり、詰まりやすくなる
お酒を飲んだあと、「飲みすぎたから、手っ取り早くお酒を出そう」と、アルコールを抜くためにサウナで汗をかく人がいますが、これは非常に危険です。なぜならば、サウナで抜けるのは水分だけで、アルコールは抜けないからです。アルコールには脱水作用や利尿作用があるので、体内に入ると水分が抜けて血が濃くなり、詰まりやすい状態になります。そんな状態でサウナに入ると、脱水状態がさらに進み、脳梗塞や心筋梗塞といった血管事故につながる危険性が高まります。
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医者が教える もっと! 体にいい酒の飲み方
監修/栗原毅、滝澤行雄、秋津壽男、栗原丈徳、溝口徹
宝島社 891円