文/印南敦史

巷には「健康」に関するさまざまな情報があふれているが、はたしてそれらは本当に正しいのだろうか?

そんな疑問を抱いたことのある方も少なくはないだろう。『体を壊す健康法』(柳澤綾子 著、 Gakken)の著者も、それは無理もないことだと述べている。

世界では毎日何千本もの論文が新しく発表され、健康、ダイエットそして知育など、生活に直結する情報が、「科学的に正しい根拠」をもって目まぐるしく更新されていくからです。
ちゃんと医療の動向を追跡していなければ、いくら医師国家試験を突破した医師でも、正しい知識は把握できない状況にあるのです。(「はじめに」より)

そこで本書において著者は、年間500本以上の医学論文に目を通してきた経験を軸として、「いま本当に必要な情報」を正しく、わかりやすく伝えようとしているのである。

さらに重要なポイントは、著者がいまなお現役の医師として現場に立ち続けているということ。1万人以上の臨床経験を持つため、その主張は机上の空論にはとどまらないというわけだ。また研究者としての顔も持ち、東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員、国立国際医療研究センター客員研究員としても勤務されている。

ちなみに少しばかり恐ろしいタイトルだが、もちろん体を壊す健康法だけを紹介しているというわけではない。「信頼できるエビデンスからすれば信じにくいものの、それが正しいと思って実践されているケースが多い健康法」にメスを入れ、「実際はいま現在、なにが正しいとされているのか」を解明したいという思いから、こうしたタイトルをつけたということのようだ。

本当に身体を壊してしまう健康法もあれば、身体を壊すとまでは大げさかもしれないけれど、あまりにもずっと続けたり極端に行なったりしてしまうことで(偏った食事をしてしまうなどで)、本当に身体を壊してしまう健康法もあります。(「はじめに」より)

そういった危険な方向に向かってほしくないからこそ、警鐘を鳴らすためにあえて「体を壊す健康法」としたということ。端的にいえば、「常識」には必ずしも常識だと断言できない部分も往々にしてあるわけだ。

たとえば「糖質制限ダイエット」はすっかりおなじみだが、「糖質制限をすればやせる」というイメージが一般化している反面、そもそも「糖質」とはなんなのかということについての理解は進んでいないのではないだろうか?

糖質は、三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)の中の炭水化物の一部。炭水化物は、人が消化吸収できる「糖質」と消化できない「食物繊維」の2つに分けられるというが、ここではダイエットに関する話題として「吸収できるほうの糖質」に焦点が当てられている。

糖という字面から「甘いもの」というイメージを抱くかもしれませんが、実際体内で使用される糖質は、「甘いか・甘くないか」は関係ありません。甘い砂糖や果物由来の果糖も、じゃがいもやお米などに入っている甘くないデンプンも、どちらも糖を含みますが、小腸で消化吸収される際にはブドウ糖に分解され吸収するので、結果的に同じものになります。(49〜50ページより)

体内に吸収されたブドウ糖はおもに身体を動かすためのエネルギーとなるが(脳を活性化するためにも重要な働きをする)、摂りすぎたりして余ったブドウ糖は体内で脂肪に変換される。

つまり、ブドウ糖が体内で余らなければ脂肪にならないということ。したがって、「糖質を制限すれば、理論上は脂肪になる材料がなくなる」ということが糖質制限ダイエットの理屈だというのだ。

なお、この話題に関連し、著者はここで「茶色い炭水化物」を摂取するメリットに関する研究結果を示している。

2004年にアメリカで行なわれた研究によると、茶色い炭水化物の摂取量が1日あたり40g増えるごとに、8年間での体重増加が1.1kg“減る”ことがわかりました。その他にも複数の研究で、茶色い炭水化物の摂取量が多い人ほどBMIが小さく、ウエスト(腹囲)の数字も小さい傾向にあることが示唆されています(BMI:ボディ・マス指数。[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値。肥満や低体重の判定に用いる。数値が高いほど肥満だと診断される)。(50〜51ページより)

ご存知のように茶色い炭水化物とは、全粒粉の小麦、玄米や蕎麦粉などを指す。これに対し、全粒粉を精製してつくられた白い小麦粉、玄米を生成した白米などは「精製された白い炭水化物」になる。

精製された白い炭水化物ではなく、精製していない茶色い炭水化物を摂ることで体重減少が期待でき、糖尿病のリスクも低くなるという。そればかりか、大腸がんのリスクや死亡率も低いという研究結果まで出ているのだそうだ。

これは、全粒粉の外皮などに含まれる不溶性の食物繊維やその他の栄養素が、健康によい影響を与えているためではないかと考えられています。最近の研究では、食物繊維を栄養にしている腸内細菌のたくさんの有効な働きが少しずつわかってきているので、このあたりとも関連している可能性もあり、まだまだ今後の研究結果が楽しみですね。(52ページより)

こうした理由から、適切な茶色い炭水化物を適量食べるようにすることが健康を促進し、太りにくくもなるということのようである。少なくとも、「糖質制限をすればやせる」というような単純な話ではなさそうだ。

『体を壊す健康法』
柳澤綾子 著
Gakken
1650円

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 


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