文/満尾正

新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。

マグネシウムが不足すれば全身のあちこちで異変

足のつりや「こむらがえり」もそのサイン

マグネシウムは「リラックス・ミネラル(緩めるミネラル)」とも言われ、全身の筋肉を緩めて柔らかくする働きをしてくれます。

逆に、足りないと体のあちこちで筋肉の「収縮」が起こります。

普段、私たちが「筋肉」と表現しているのは主に骨格筋のことです。しかし、実は、心臓の心筋や内臓器官にある平滑筋も立派な筋肉です。マグネシウム不足だと、これらすべての筋肉が収縮してしまいます。

最も収縮を自覚しやすいのは骨格筋でしょう。骨格筋が収縮すると、ひどい肩こりに悩まされますし、筋肉痛やこむらがえりの原因となります。

テニスの試合中に、筋肉の痙攣を起こして棄権に追い込まれる選手がいます。サッカーやラグビーの試合中にも、足がつって交代を余儀なくされるケースがあります。

あれは、短時間にすごい負荷が肉体にかかり、それが大きなストレスとなって筋肉の細胞内にあるマグネシウムが失われるからです。

普段からマグネシウムが不足しがちな高齢者では、「夜中に足がつる」という悩みを抱えている人も多いものです。

働き盛り世代であっても、ゴルフなどで足がつった経験を持つ人は多いのではないでしょうか。

それは、まさにマグネシウム不足が原因です。その場しのぎの薬でごまかしたりせず、普段の食事を見直してください。

マグネシウム不足でさまざまな病気

マグネシウム不足は心臓の不調の原因となります。

狭心症という心臓に痛みを感じる症状は心筋梗塞の前触れとも言われ注意が必要ですが、精密検査をしても異常が見られず、原因不明と言われることも時々あります。これは冠状動脈という心臓の筋肉に血液を運ぶ血管が「攣縮」といって、血管壁の痙攣のようなものが起きているために生じる症状と考えられています。

この病態はマグネシウム不足による可能性があります。

実際に、血中マグネシウム濃度が低い「低マグネシウム血症」の患者さんは、心臓疾患にかかりやすいという研究結果が報告されています。

その研究では、1987~89年と、1990~92年の間に採血された1万5000人弱の男女(平均年齢54歳)を、血中マグネシウム値によって5つのグループに分け、その後について調査しました。

すると、マグネシウム値が最も低いグループは、最も高いグループの1・28倍の確率で心臓疾患にかかっていることがわかったそうです。

血管の筋肉が収縮すれば、ズキンズキンと痛みを感じる偏頭痛にも悩まされます。

そのほか、気管の平滑筋が収縮すれば喘息に、腸管の平滑筋が収縮すれば便秘にと、いろいろな不調に襲われます(下、図13参照)。

糖尿病を予防する効果にも期待

マグネシウムには、血糖値の上昇を抑える働きもあります。このため、マグネシウム不足の状態が長く続くと、糖尿病にかかりやすくなります。

そのメカニズムを簡単に説明しましょう。

マグネシウムには、「インスリン抵抗性」を抑える働きがあります。インスリン抵抗性とは、インスリン感受性の低さを意味しており、インスリンが体内で働くときの効率を表します。

すなわち、インスリン抵抗性が上がるとは、インスリン感受性の低下を意味します。この状態は、一定量のインスリンで血糖値を下げる能力が低下することを示します。

つまり、インスリン抵抗性が高いほど、インスリンが効きにくく、血糖値が上がりやすくなってしまうのです。

グラフ(図14)は、2018年に40名の糖尿病患者を対象に行われた研究結果を示したものです。

その研究では、対象者を2つのグループに分け、一方には250ミリグラムのマグネシウムを、もう一方にはプラセボ(偽薬)を毎日、服用してもらい3カ月にわたって経過観察しました。

すると、マグネシウムを服用したグループは服用前よりも、HbA1cの値が0.36減少し、HOMA-IR(インスリン抵抗性を表す数値)は28%も減少したのです。HbA1cは過去2~3カ月の血糖値の推移を示す指標ですので、HbA1cとHOMA指数が下がったということは、糖尿病にかかりにくい体質に変わったと言えます。

糖尿病は合併症が怖い病気で、進行すれば腎機能障害、網膜障害、神経障害が起き、仕事どころではなくなります。

また、糖尿病の患者さんは、血管系疾患はもちろんのこと、認知症やがんにもかかりやすくなることがわかっています。

現代人にとって、血糖値の管理は避けてはならない必須事項です。

マグネシウムが、細胞のエネルギーである「ATP」を産生するために必須の栄養素であることは前述しました。だから、マグネシウムが不足すると、疲れやすく活力が湧きません。当然、うつの原因にもなります。

不眠症に安易な対応は要注意

マグネシウム不足は、不眠症も呼びます。

不眠に悩んだら睡眠導入剤を飲めばいいと考えている人も多いと思いますが、それは大変に危険です。
 日本では、睡眠導入剤や精神安定剤として「ベンゾジアゼピン系」の薬がよく使用されます。しかし、そんな国は日本くらいで、諸外国は非常に慎重です。
 実際に、厚生労働省が、ベンゾジアゼピン系の薬は認知症の原因になり得るとして注意を促しています。

医師も、その危険性は承知しているはずですが、患者さんから「眠れなくてつらい」と訴えられると、つい処方してしまうのでしょう。

もちろん、数回、使用したくらいで認知症にはなりません。しかし、この薬は依存性があり、長く飲み続けると中止することが難しくなってしまいます。

薬に頼る前に、毎日の食事でしっかりマグネシウムを補充しましょう。

とくに、働き盛りの人たちは、仕事のストレスでマグネシウムが減り、さらには仕事のストレスでイライラするという、「不眠を呼ぶ二重苦」に陥りがちです。

それをしっかり自覚してマグネシウムを摂りましょう。

満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。

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