文/鈴木拓也
「首下がり症」という耳慣れない病気が、シニア層に急増している。
症状としては、頭が前に下がってしまい、上げることができなくなるというもの。当然ながら、生活の様々な局面で困難が生じ、放置しておけば、医療の力をもってしても回復できなくなる。
パーキンソン病やジストニアなど、さまざまな要因が「首下がり症」の原因となりえるが、一番多いのは「首の後ろにある首から背中をつなぐ筋肉(頸部後方伸筋群)の筋力の低下」だという。
そう説くのは、東京医科大学の遠藤健司准教授。整形外科を専門とする遠藤准教授は、首下がり症の数少ない研究者。先般上梓された、著書『急増する「首下がり症」どう防ぐ、どう治す』(ワニ・プラス)では、この病気のメカニズムや治療法などが詳しく解説されている。
手遅れになると手術するしかない
本書によれば、首下がり症に罹っている人が増えている背景には、現代人のライフスタイルがあるという。遠藤准教授は、次のように記す。
生活様式の変化により、腰への負担が軽減し、首や背中への負担が増えたのです。
特に「長時間うつむいて手作業を続けること」に危険があります。
たとえば、読書、書き物、手芸などの手仕事、スマホやパソコン、椅子に座ったままの居眠りも、首がうつむきかげんになり、首の骨に負担がかかります。(本書19pより)
かつては高齢者といえば、腰が曲がって杖をついている人が多かった。それは、「農作業と関係があるのでは」と、遠藤准教授は見ているが、この作業も機械化され、腰が曲がった高齢者は減ってきた。それと入れ替わるように、首が下がっている人が増えている。うつむく時間が増加する一方、運動不足で首を支える筋肉が衰えることで、最初はただの肩こりと思えた症状は顕在化し、深刻化する。「手遅れになると手術するしかない」と、遠藤准教授は警告する。
現状の姿勢でわかる疾病リスク
ほかの病気と同様、首下がり症も早期発見が大事。罹患の可能性があるなら、医療機関を受診し、早期の治療・リハビリが何より重要となる。
はっきりとした病状はまだなくても、自分が首下がり症になるリスクが大きいのか判断する方法を、遠藤准教授は教える。それは、「自分の姿勢が正しいかどうか」を確認することだ。
壁を背にして立ってみよう。以下のポイントを満たしているなら、姿勢は正常である。
・後頭部は壁に軽くつく
・肩甲骨は壁に軽くつく
・腰は少し壁から離れる
・お尻の頂点(仙骨)は壁に軽くつく
・かかとは壁に軽くつく
いずれかでも満たしていない場合、「体が歪んでいる」か「筋肉が衰えている」証拠で、発症リスクは大きくなる。
対策として、遠藤准教授は、本書で正しい姿勢をとる練習法を紹介している。
(1) 壁にかかとをつけて立つ
(2) 後頭部・肩甲骨・お尻の頂点が壁につくことを意識して体を伸ばして立つ
(3) その姿勢のまま歩き出す
これを1日に何度も行って、体に正しい姿勢を覚えさせよう。
首下がり症を予防する「姿勢体操」
本書のなかで遠藤准教授は、首下がり症の予防・改善に役立ついくつかの体操を掲載している。どれも簡単で習慣化しやすいものだ。その1つ「姿勢体操」を以下紹介しよう。
(1) お腹に力を入れて引っ込め、背中をまっすぐにして立つ。このとき、前述の正しい姿勢を意識するとよい。
(2) まっすぐの姿勢から息を吐きながらゆっくりと頭を上げ、天井を見る。首から背中の背筋を使って、のどをまっすぐ伸ばすような意識で行う。
(3) この姿勢のまま5数える。
(1)~(3)を3~5回繰り返す。ふらつくときはテーブルや棚など安定しているものにつかまる。
こうした運動も効果的だが、日頃から首に負担がかかるような作業を長時間続けていないか、悪い姿勢になっていないかを自己チェックするのが肝心だ。そのほか、さまざまな有益なアドバイスを遠藤准教授は記している。「もしかして、首下がり症になりかけている?」と心配な方は、本書を読まれることをおすすめしたい。
【今日の健康に良い1冊】
『急増する「首下がり症」どう防ぐ、どう治す』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った映像をYouTubeに掲載している。