人生100年時代のいま、長く人生を楽しむためには、健康寿命を延ばすことが重要である。
老化を防ぐための情報は溢れているが、老化のメカニズムについて知る機会は少ない。そこで、ミトコンドリアとの共生に始まる生命の歴史を辿ることで、老化のメカニズムを説く『順天堂大学の老化医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』から、老化の原因とその対策についてご紹介します。

文/ 佐藤信紘・佐藤和貴郎

食べる量を減らすことがアンチエイジングにつながる

生命維持のためにエネルギーを得ることは欠かせませんが、ミトコンドリアでのエネルギー代謝には、「酸化」というプロセスが伴います。このため、エネルギーの一部は過酸化され、過剰に生み出された活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)が細胞を傷つけます。特に細胞膜を作っているリン脂質が過酸化されて壊され、生命体は老化しやすくなります。

老化を防ぐためには何を食べるべきかという情報が蔓延していますが、酸化ストレス発生を防ぐという観点からは、食べる量を減らすことが重要です。マウスやサルなどの動物実験では、食事制限をした群には、好きなように食べた群よりも老化を遅らせたり寿命を延ばしたりする効果があることがわかっています。

出典:『順天堂大学の老年医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』

マウスの実験では、生後1年間は食を制限し、その後は自由に食べさせた群の平均寿命がもっとも長く、約29月齢でした。一方、生後すぐから食べ放題の群は最短で、約21月齢の寿命でした。また、最初の1年は自由に食べさせ、その後制限した群は2番目に長生きしたということです。

人間は成長期まではしっかり食べ、壮年期の50代からは、カロリー制限をした方がよいといわれます。

戦後の食糧難を生きた今の高齢者の寿命が長いのは、戦争のため成長期に至るまでは食制限され、経済成長とともに自由に食べられるようになったことが関係しているかもしれません。いずれにしろ、たまには食べない日を作った方が寿命が延びるでしょう。

たとえば、「オートファジー」の働きを活性化する方法として「16時間断食」が話題です。一日24時間のうち日中の8時間で必要な食事を摂り、残る16時間は何も口にしないで体を一定時間飢餓状態に置くという方法です。

これにより飢餓の期間に、過剰な栄養物質が分解されエネルギーとして使われます。そのときオートファジー機能が活性化し、古い分子や細胞が壊され新生を促すとされます。

食べない時間を作ることは、長寿遺伝子といわれる「サーチュイン遺伝子」の活性化にもいいようです。サーチュイン遺伝子には、生物に欠かせないタンパク質合成を行う「リボソームRNA遺伝子」を一定に保つ作用があります。これは、ゲノムを安定化(秩序化)して寿命を延ばすことにつながるようです。

一定期間飢餓状態になることでサーチュイン遺伝子が発現し、リボソームRNA遺伝子の数を制御します。このことで体の治癒能力が上がり、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、うつ病、心不全、2型糖尿病などの予防にもつながるといわれています。

加齢により絶食はリスクにもなる

ただし、すでに栄養的に衰えた、老化した体にとって毎日16時間も飢餓状態に置くという方法がどれだけ安全かは、考える必要があります。

高齢者はそもそも低栄養(タンパク質不足)に陥りがちで、筋肉量が減り運動機能や意欲低下が起きる「サルコペニア(筋肉減少症)」になりやすい傾向にあります。食べない時間を増やすことで筋力維持に必要なタンパク量が不足し、筋肉の分解がさらに進んでしまう恐れがあります。医師に血清アルブミン量を測定してもらうことが、長寿には大切だと思います。

また絶食している時間が増えれば、その後に摂る食事によって確実に血糖値が上がりやすくなります。絶食後の食事には、ご飯やパンなど糖質の高いものより先に、葉物野菜や海藻類など繊維質の多いサラダや豆類、魚などのタンパク質を食べる「野菜ファースト」のような食べ方の工夫が必要になるでしょう。

* * *

『順天堂大学の老年医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』(佐藤 信紘、佐藤 和貴郎・著)
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佐藤 信紘(さとう・のぶひろ)
学校法人順天堂理事、順天堂大学名誉教授・特任教授、順天堂大学ジェロントロジー研究センターセンター長、腸内フローラ研究講座代表、超高精細画像医療応用講座代表。(一般社団法人)日本療術学会会頭。1940年生まれ、大阪大学医学部卒業、大阪大学第一内科助教授、順天堂大学消化器内科主任教授、順天堂大学練馬病院初代院長、大阪警察病院院長、北陸先端科学技術大学院大学客員教授を歴任。

佐藤 和貴郎(さとう・わきろう)
国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部室長、順天堂大学革新的医療技術開発研究センター非常勤講師。1973年生まれ。神戸大学医学部卒業。京都大学医学博士。神経内科専門医。2009年ドイツのマックスプランク神経生物学研究所神経免疫部門に留学。2013年より現職。


 

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