文/鈴木拓也

一時期、高齢ドライバーの交通事故の報道がさかんになされ、「免許返納」が流行語になった。その頃は、「これこれの年齢になれば免許返納すべき」といった論調が大勢を占めていたと記憶する。

認知症のドライバーが運転するのはそもそも法律違反だし、自身の運転に老いを感じたら免許返納の決断も考慮すべきだろう。

しかし、まだ元気なのに周囲を慮るあまり、ドライバーを卒業するのも考えものかもしれない。

国立長寿医療センターの研究によれば、「運転をしていた高齢者は、運転をしていなかった高齢者に対して、認知症のリスクが4割減少する」という。また、「運転を中止した高齢者は、運転を継続していた高齢者と比較して、要介護状態になる危険性が約8倍に上昇する」というデータもある。

そうした研究報告を引き合いに出し、シニアの安全運転をすすめるのは、鳥取大学医学部の浦上克哉教授だ。浦上教授は、発症リスクを抑えることで認知症は予防できること、長く運転を楽しむには、認知機能の低下を防ぐことが重要だと、著書『認知症予防で運転脳を鍛える』(JAFメディアワークス)で述べている。

認知症予防の第一人者が本書ですすめるのが、「とっとり式認知症予防プログラム」をベースにしたさまざまな手法。簡単な作業や趣味など、日常生活の延長的なことに取り組むことで予防が期待できるという。そのいくつかを紹介しよう。

認知症リスクの筆頭は難聴

つい10年ほど前までは、医学界では「認知症予防などありえない」というほど、予防には否定的な論調であった。それが、研究が進んで発症のリスク因子が明らかにされ、かなり予防ができるようになっている。

浦上教授が挙げるリスク因子は、全部で12種類。「この12のリスク因子を合計すると40%。これらを完全に取り除けるとしたら、認知症の人は4割減る計算」という。
リスク因子の筆頭が、中高年期(45~65歳)の難聴で8%を占める。耳が聞こえにくくなると、日頃のコミュニケーションが減り、脳への刺激が低下して認知症につながるとみられている。

「一度衰えた聴力は回復しない」ため、聴力低下を防ぐ習慣が必要だ。浦上教授は、「静かな場所で耳を休ませる時間を意識してつくる」ことや「聴力検査を定期的に受ける」などアドバイスする。

また、もし難聴になっていたら、「補聴器の導入を早めに検討する」。手順としては、耳鼻科で診察を受け、必要と判断されたら認定補聴器技能者など専門家に相談し、自分に合った補聴器を購入することになる。

それ以外のリスク因子として、喫煙、抑うつ、社会的孤立、運動不足などがある。特に定年後は、積極的に「趣味や習い事を楽しむ」などして、そうしたリスク因子を抱え込まないことが重要。

本棚の片づけでも認知機能は強化

「とっとり式」は、50分の運動プログラムをメインに、視空間認知や判断力といった、さまざまな認知機能の刺激を主眼としたものだ。これに座学や知的活動をくわえ、週1回の頻度で行う。

本書に掲載されているトレーニングは、このプログラムをベースとしたものとなる。例えば視空間認知機能を鍛える活動として、次のものがすすめられている。

【本棚や食器棚を片づける】
本や食器を棚から出し、取りやすさや見栄えを意識して適切な位置に並べ直す。運動がてら物置の片づけや部屋の模様替えなども。
【鏡を見て手指を動かす】
鏡を見ながら手をクロスして、鏡に映っている指を思い通りに動かしてみる。カーブミラーやバックミラーを見た際に左右を正しく判断する練習にもなる。
(本書より)

視空間認知機能とは、空間の全体的なイメージを把握するための能力。これが衰えると、車間距離を一定に保てなくなったり、高速道路での本線への合流が苦手になるなどの問題が起きる。同様に、注意機能や近時記憶など、安全運転にかかわる能力の改善メソッドがあるが、常に全部をやる必要はない。「自分の好きなことやできることから始めて」、習慣づけていけばよいそうだ。

運動・ストレッチで運転能力を維持

「とっとり式」では、有酸素運動と筋力運動を組み合わせた運動を行うが、運転能力の維持にもそれらは有効。ストレッチに始まり、座って足踏みや椅子スクワットなど多彩な運動でしっかり体を動かす。

くわえて「ドライビングストレッチ」という、運転に特化した体操も。例えば「体と首をひねる体操」は、運転席での左右の目視確認をスムーズにする効果がある。というのも、高齢者の振り向く角度は、若い世代に比べて40度も小さいそうで、この体操は胸・腰のひねりを改善して横を向きやすくしてくれる。

【体と首をひねる体操】
1 できるだけ自分の真後ろを見るように、ゆっくりと3秒かけて左側に体と首をひねり、ゆっくり戻す。
2 左右を交互に3回繰り返す。手で椅子のシートや背をつかんだり、膝や太ももを支えにしてもよい。

*  *  *

コロナ禍の影響はまだしばらく続きそうだが、車の運転は、その状況下でも行動範囲を広げてくれる便利なもの。本書に掲載されている各種トレーニングで、長く運転を楽しめる身体づくりに努めよう。

【今日の健康に良い1冊】
『認知症予防で運転脳を鍛える』

浦上克哉著
JAFメディアワークス

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った映像をYouTubeに掲載している。

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