更年期は、女性ホルモンが減り続けることで自律神経のバランスが崩れていき、様々な症状に悩まされる時期。家族ですら理解しがたい痛みや不調に悩む女性たちが、今日も「鍼灸師やまざきあつこ」の元を訪れています。“自律神経失調症の女性たちの駆け込み寺”と呼ばれる当院の院長、やまざきあつこさんは自身が「たいていいつも、どっかが痛い」と悩む、自称“不調を感じやすい女”。だから、患者たちの痛みや辛さは、他人事ではありません。
28年間で7万人を診てきたやまざきさんは、最近、あることに気付きました。不調を感じやすい女には、体だけではなく、心の“クセ”も関係しているのでは? そして、まじめで気遣いができる女性ほど、がんばり時と休み時の自分に合ったリズムを見つけられず、苦しんでいるのでは? と。やまざきさんは、そのクセ直しの方法を、著書『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』にまとめました。
実際に施術した患者さんとのやり取りの事例を、ここからいくつか紹介していきましょう。あなたを悩ますその痛みが、少しでも、和らぎますように。
文/やまざきあつこ、鳥居りんこ
当人だけでなくまわりの人も不幸にする3D女とは
「3D接続詞人間」――「でも、だって、どうせ」を多用する人を指すそうです。
このタイプの欠点は、すべての思考が「でも」「だって」「どうせ」というネガティブ方向に引っ張られてしまうこと。感情は伝染するので、その人だけではなく、話を聞いている側もブルーな気分に覆われてしまいます。「相談されたから『こうしてみれば?』って答えると、必ず『でも』『だって』が来て、最後は決め台詞的に『どうせ私は!』って逆ギレされるのがオチだから、あの人といてもちっとも楽しくない!」と友人・同僚から距離を置かれることもなきにしもあらず。
こうなると、生きづらさはマシマシ増量。孤立感が、ますます自分を追い詰めていくという負の無限ループにハマる可能性も秘めている、ゆゆしき事態です。
確かに、患者さんの中にも「3D女」は沢山おられます。もちろん、体のどこかに痛みを感じてのご来院ですが、お話をうかがっていると「3D接続詞駆使派」は意外と多い。
観察するに、ご本人には全く自覚がない。つまり、この言葉が癖になっているということ。ご本人に悪気などあろうはずもなく、接続詞を選ぶ時に、単純に条件反射的に出ちゃうってだけの話なんですよね。
陽子さん(42歳)は「息が吸えない」と来院されました。病院での精密検査は問題なしというので、体の力が入り過ぎと診ました。肋骨が硬くなっており、背中も張っています。そのために呼吸が浅くなるので、酸素量が減っている状態。陽子さんは「いつも息苦しくて、胸も痛い……」と辛そうです。
鍼灸治療は硬くなった筋肉を和らげ、血流を良くしていくものなので、息苦しさにも効果を発揮します。ただ、陽子さんの症状には、局所治療と共に解決していかなければならない〝メンタル〟部分の問題がありました。
心の余白を失うとやがて体もこわばっていく
「中学生の息子が朝、起きないんです」
「来週、息子の英検の試験があるんですが、これをクリアしないと高校が……」
「遅刻した息子が『ママが起こしてくれなかったせい!』と怒るんです」
――と、陽子さんの頭の中は「息子! 息子!息子!」。まるで、息子さんは母がいないと何も出来ない赤子のよう。本気で「自分がめんどうを見ないと息子はダメになる」と信じているようでした。
「放っておくことも愛情よ」と言っても、陽子さんの答えはいつも「そう思うんですけど……(でも、でも……)」の繰り返し。体の具合がかなり悪い日は特に「どうせ、私は母親失格ですから……」と必要もない自己否定に走るのです。
声を大にして言いますが、この世に失格となる母親はひとりもいません。お母さんはお母さんだってことだけでいいんですよ。ただ、いるだけでいい存在。先回りして子どものことを心配するのは母なればこそですが、母であってもなくても、色んなことに気を回して、まだ起きてもない未来を悪い占いで満たすのはやめましょう。何故なら「先回りすると、息苦しくなる」からです。
陽子さんの例でお分かりのように、体が緊張でこわばっていると息苦しさが生じるケースもあるんですね。「◯◯を私がやらなきゃ」「◯◯が正しいのだから、そうしなきゃ」という「なきゃ!」に縛られてしまう時は、心の余白を失っている状態。他にある沢山の選択肢が入る余地がないので、体も同時にこわばっていってしまいます。
「こうあるべき!」という信念ともいえる頑なな思い込みがあると、「それができない」状態を「3D接続詞」で補って、我が身のダメージを緩和しようとする傾向があります。
女性鍼灸師が逆転の発想でおすすめする呪いの解き方
体のためにも、できるだけ「3D接続詞」から離れましょうっていう話になりがちですが、長年かけて身に付けた癖を直すのは大変です。だから、私は逆に言っていいと思っています。支離滅裂でいいので、思いきり言う。
「でも、結局、ダメなんでしょ?」
「だって、仕事が忙しかったんだもん」
「どうせ、うまくいかないよ」
それこそ、今日あった出来事を思い付くまま、声に出して「でも!」「だって!」「どうせ!」と吐き出してみる。もちろん、再び怒りが湧いてきたり、あまりに可哀想な自分に涙が溢れてきて感情がグチャグチャになってしまうこともあるでしょう。それがいいんです。
言い訳に聞こえようが、自己チューと思われようが、一旦、吐き出す。そこでね、気付く時が来るんです。「ああ、今、自分は『3D女』になってるな……」って。
コツはね、ひとりの時にやってみるってことです。自分にしか聞こえてないんですから、言いたい放題、大歓迎ですよ! これが、意外と気の流れを変えるきっかけになったりします。陽子さんは「でもね、でもね……」と言いながらも、体の調子が良くなるにつれて「3D接続詞」での会話は明らかに減り、やがて、笑顔で当院を卒業されていきました。
今、自分は3D女になってるなぁと自覚できたら、視界良好間近です。
イラスト/渡邉杏奈(MONONOKE Inc)
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『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』
やまざきあつこ 著
(小学館)
やまざきあつこ
鍼灸師。1963年生まれ。鍼灸師。藤沢市辻堂にある鍼灸院『鍼灸師 やまざきあつこ』院長。開業以来28年間、7万人の治療実績を持つ。1997年から2000年まで、テニスFedカップ日本代表チームトレーナー。プロテニスプレーヤー細木祐子選手、沢松奈生子選手、吉田友佳選手、杉山愛選手などのオフィシャルトレーナーとして海外遠征に同行。ほかにプロライフセーバー佐藤文机子選手、プロボディボーダー小池葵選手、S級競輪選手などプロアスリートの治療にも関わる。自律神経失調症の施術には定評がある。