「退職した翌年に多額の住民税の納付書が送られてきて驚いた」という話を耳にしたことはありませんか? それは多額の退職金を受け取ったせいなのでしょうか。答えは「ノー」です。それでは、なぜそのようなことが起きるのか、退職金と住民税についておさらいしておきましょう。
100歳社会を笑顔で過ごすためのライフプラン、ライフブック(R)(https://www.smilelife-project.com/)を提唱する、ファイナンシャルプランナー・藤原未来が分かりやすく解説します。
目次
退職金にかかる住民税と納付方法
退職金に住民税はかからない?
退職した翌年の住民税の納付は?
まとめ
退職金にかかる住民税と納付方法
まずは退職金にかかる「住民税」の計算について確認しましょう。退職金にかかる「住民税」の計算は、「退職所得金額」に住民税率を乗じて計算します。住民税率は、課税退職所得金額に関わらず、一律10%(都道府県民税4%、市区町村税6%)で計算式は以下のとおりです。
住民税 = 退職所得金額 × 住民税率10%
「退職所得金額」は、原則として次のように計算します。
退職所得金額 =(収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2
「退職所得控除額」は、次のように計算します。
ア) 勤続年数が20年以下の場合
40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円)
イ) 勤続年数が20年超の場合
800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)
なお、退職金を受給する際、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、勤務先が所得税額及び住民税額を計算し、退職金から源泉徴収されます。したがって、あとから自分で確定申告して納付する必要はありません。つまり、退職した翌年に多額の住民税に悩まされるのは、退職金にかかる住民税のせいではないということになります。
退職金に住民税はかからない?
退職金の「住民税」の計算は以上のようになりますが、ケースによっては税金がかからない場合もあります。どのようなケースだと税金がかからないのか、確認してみましょう。
所得税も住民税も「退職所得金額」を計算した結果がゼロまたはマイナスとなる場合は、所定の税率をかける対象となる金額が存在しませんので、税金がかかりません。それでは「退職所得金額」がゼロとなるのは、どのようなケースなのでしょうか。
「退職所得金額」は、先ほど確認しました通り、次のように計算します。
退職所得金額 =(収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2
この計算式によると、収入金額=受け取った退職金が「退職所得控除額」と同額、もしくは小さい場合には「退職所得金額」が、ゼロまたはマイナスになります。
例えば、次の参考ケースのような場合には退職所得金額はゼロになり、退職金には所得税も住民税もかかりません。
【参考ケース1】勤続年数が10年4か月の人の場合
勤続年数は11年になります(端数の4か月は1年に切り上げ)。
「退職所得控除額」=40万円 ×(勤続年数)= 40万円 × 11年 = 440万円
となりますので、退職金が440万円以下であれば所得税、住民税ともにかかりません。
【参考ケース2】勤続年数が24年7か月の人の場合
勤続年数は25年になります(端数の7か月は1年に切り上げ)。
「退職所得控除額」=800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)= 800万円 + 350万円 = 1,150万円
となりますので、退職金が1,150万円以下であれば所得税、住民税ともにかかりません。
退職した翌年の住民税の納付は?
それでは「退職した翌年の住民税の負担が重くて大変だ」という話をよく耳にするのは、なぜなのでしょうか? それは、「給与」所得に対する住民税の計算対象期間と納付時期のズレから生じます。その仕組みを見てみましょう。
「給与」にかかる住民税の金額は、前年の1月1日~12月31日までの所得によって決まります。そして、翌年1月1日の時点で住所がある自治体に、その年の6月から納付するのです。住民税は、前年の所得に対して課税される「所得割額」と、前年の所得に関係なく均等に課税される「均等割額」の合計金額から算出されます。
所得が多いほど、翌年に納める住民税の金額も多くなるというわけです。ちなみに、住民税の納付方法は「特別徴収」と「普通徴収」の2つの方式があります。「特別徴収」は、会社員などの給与からあらかじめ天引きされて徴収される方法で、一般的な給与所得者の多くがあてはまる納税方法です。
一方、「普通徴収」は自営業者などが確定申告をして、自分で住民税を納める方法を指します。普通徴収では6月末の一括払いか、年4回(通常は6月、8月、10月、1月)の分納を選択することが可能です。なお、「普通徴収」では、送付される納付書を使い、コンビニエンスストアや金融機関の窓口などで納めることになります。
それでは、給与所得者が退職した場合、住民税はどのように納付すればいいのでしょうか。
【1月1日~5月31日に退職した場合】
1月1日~5月31日までに退職した場合、基本的には退職月の給与や退職金から、5月分までの住民税を「一括徴収」されます。もし、退職月の給与と退職金の合計よりも徴収される住民税のほうが多い場合には、「普通徴収」に切り替わり、自分で納付することになります。
【6月1日~12月31日に退職した場合】
6月1日~12月31日までに退職した場合、「退職月」の住民税だけは給与から天引きで会社が源泉徴収しますが、その翌月以降に納める予定だった住民税については、「普通徴収」に切り替わるため、自分で納付する必要があります。この場合、自治体から「普通徴収」のための納税通知書が送付されます。
ただし、会社に申請すれば、退職する月から翌年の5月分までの住民税を、退職月の給与や退職金から「一括徴収」してもらうことも可能です。ちなみに、退職前に次の再就職先が決まっている場合には、転職先の会社で「特別徴収」を継続する方法をとることができます。
以上のように、住民税の金額は前年の所得によって決まるので「後払い」となるため、前年に多くの給与収入を得た状態で退職した場合には、翌年に多額の住民税を納めることになります。そこで、特に定年退職して翌年から収入がない場合などは「退職した翌年の住民税の負担が重くて大変だ」という話になることが多いのです。
突然、手元に多額の納税通知書が送られてきても驚かなくて済むように、退職前にあらかじめ住民税額を試算しておくことをお勧めします。
まとめ
退職金にかかる住民税の計算と納付方法や、退職した翌年の住民税の負担について確認しましたが、理解いただけましたでしょうか。退職時にまつわる税金について把握したうえで、その後のリタイア生活をプランニングしてみましょう。
リタイアメント生活を豊かに楽しく暮らすためには、早めにライフプランを作ることをお勧めします。 保険や金融商品などを販売しない中立的なファイナンシャルプランナーは、相談者の立場に立って最適なリタイアメントプラン作りをお手伝いします。
●取材協力/藤原未来(ふじわらみき)
株式会社SMILELIFE project 代表取締役、1級ファイナンシャルプランニング技能士。2017年9月株式会社SMILELIFE projectを設立。100歳社会の到来を前提とした個人向けトータルライフプランニングサービス「LIFEBOOK®サービス」をスタート。米国モデルをベースとした最先端のFPノウハウとアドバイザートレーニングプログラムを用い、金融・保険商品を販売しないコンサルティングフィーに特化した独立フランチャイズアドバイザー制度を確立することにより、「日本人の新しい働き方、新しい生き方」をプロデュースすることを事業の目的とする。
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