文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
【小林式処方箋】メタボ気味だけど、痩せるための食事制限ができない人は、食事は抜かず、「間食」を増やしてみる。
食事を抜くことはデメリットだらけ
まず理解していただきたいことは、「食事を抜いても痩せない」ということです。無理なダイエットは百害あって一利なし、と断言してもいいでしょう。
ではどうしたらいいか、ということですが、最も簡単な方法をお教えしましょう。
1.食事前に1杯の水を飲む
2.間食する
まずはこの二つから始めてみてください。
実は、太っている人の多くは、「腸内環境の悪化」が大きな原因のひとつになっています。腸内環境が悪くなると、そこから肝臓へ運ばれる血液も、毒素や腐敗物を含むドロドロで汚いものになります。この汚れた血液は、肝臓から心臓へ運ばれ、全身に行き渡ります。すると脂質代謝が悪化し、内臓脂肪として溜まってしまうのです。「腸内環境の悪化」が肥満に結びつくのはそのせいです。
さらに、汚れた血液のせいで、全身の細胞に十分な栄養が行き渡りませんので、低栄養素状態になってしまいます。すると、疲れやすくなったり、新陳代謝が悪くなったりします。また、腸内環境は、自律神経とも密接に結びついていますので、腸内環境の悪化は、イライラにも繋がります。肉体的にも精神的にも、最悪の状態と言えるでしょう。
逆に言えば、「体型が気になってきたな」と思ったら、腸内環境を整えればいいのです。ではどうするか。それが「食前の1杯の水」です。
食事の前に、コップ1杯程度の水を飲むと、胃結腸反射が起きるので、胃腸が動き出します。
胃腸が動いているということは、食べ物を受け入れる準備が整っている、ということです。何の準備もできていない状態の胃腸に食べ物が入った時と比べると、消化吸収のクオリティーが格段にアップします。
スポーツと同じですね。ぶっつけ本番で試合に臨むのと、入念なアップをしてから臨むのでは、後者のほうがいい結果が出ることは、皆さん、ご存じですよね? 胃腸も同じです。入念なアップをしてあげれば、きちんと働いてくれるのです。
それが、たった1杯のコップの水でいいんですから、お手軽だと思いませんか?
「コップ1杯の水」にさまざまな効果
繰り返し、その効果を記してきましたが、「コップ1杯の水」は、食前だけでなく、目覚めた時にも効果的です。
私たちの体の60%は、水分でできています。体内の水分の75%は細胞に、残り25%は血液やリンパ液にあります。水分は、人間が生きていく上で絶対になくてはならないものなのです。
ところが睡眠中は、たとえ冬であっても、汗などで大量の水分が失われてしまいます。中には脱水症状に陥ってしまう人もいます。ゆえに、朝起きたらまず水を飲み、水分を補給するべきなのです。
もうひとつは、先にも述べたように、水を飲むと、胃結腸反射が起きます。胃に水が流れ込むと、その重みで大腸の上部に刺激を与えるのです。すると、それによって腸が蠕動運動を始め、大便の排出を促します。
朝、快便で1日を始めることは、快適な1日のスタートに相応しいのです。
また、腸の蠕動運動は、副交感神経の働きを高めることがわかっています。朝目覚めると、交感神経が急激に高まっていきますので、「コップ1杯の水」を飲むことで副交感神経の働きが活性化すれば、自律神経のバランスも整うのです。
スポーツ界で間食が勧められるワケ
次に、間食について説明しましょう。ダイエットなのに間食? と驚かれるかもしれませんが、実は、いちばん痩せる方法は、間食をとることなのです。
朝、昼、夕という3食のメインの食事の間に、ちょこちょこと間食すると、日中、常に腸=消化管が動いていることになります。すると、副交感神経の働きも同時に高まり、腸の蠕動運動も良くなる。腸が蠕動運動している時は、消化吸収も高まりますので、食べてもその栄養素が脂肪になりにくいのです。
最近は「補食」という言葉も出てきました。
「補食」とは、「必要な栄養やエネルギーを満たすために、通常の3食に加えて物を食べること」を指します。特にスポーツ分野では、疲労回復に努めるため、練習前後に補食することが奨励されるようになってきました。スポーツ界でも間食が勧められているのです。
では、間食の効果を最大限に発揮するには、どうしたらいいでしょうか。
いくら間食OKと言っても、ポテトチップスやカップラーメンなど糖質や脂質の多いものをとってしまってはマイナスです。
1.ケーキやアイスクリームなど、できるだけ糖質をとらない
2.ヨーグルトやチーズなど、タンパク質が含まれるものを選ぶ
3.ナッツやバナナ、ドライフルーツなど、ビタミンや食物繊維の多いものを選ぶ
この3点を意識してください。
これさえ守って「間食」すれば、むしろ体型維持に繋がるのです。
間食は、集中力アップにも繋がります。
集中力が落ちている時は、血糖値が下がって、脳にエネルギーが回らなくなっている状態ですから、間食をして、少し血糖値を上げてあげるのです。すると脳の働きも良くなります。ただしあくまで間食。できるだけ軽めに、を心がけてください。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。