辞書で調べた意味と、実際に使われている意味が、少し違うように感じることは、みなさんもあるのではないでしょうか? よく耳にするけれど、今ひとつピンとこない表現。そんな言葉をひとつずつひもとくと、英語の世界がより身近に感じられるかもしれません。

目次
“Let it go.” の意味は?
「〜させる」のニュアンス
最後に

“Let it go.” の意味は?

今回ご紹介するのは、“Let it go.”という表現です。ディズニー映画『アナと雪の女王』(原題:Frozen)の主題歌『Let It Go』で、このフレーズに親しみを持った方も多いのではないでしょうか。日本語版では「ありのままで」と訳され、大きな話題になりました。

英語の “Let it go.” を直訳すると「それを行かせる」となりますが、実際の意味はもう少し広く、「手放す」「こだわるのをやめる」「水に流す」「執着しない」といったニュアンスで、日常的にもよく使われます。

『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)には、「((話)) それでよいとする,(何もしない[言わない]で)放っておく,それ以上問題に[追求]しない」と紹介されています。

例えば、

“You can’t change the past, so just let it go.”
(過去は変えられないのだから、手放して前に進もう。)

“He said something rude, but I decided to let it go.”
(彼が失礼なことを言ったけれど、気にしないことにした。)

『Let It Go』という曲のなかで、主人公エルサは、自分を抑えて生きてきたこれまでの過去を「もう抑えない、手放す、そして自由になる」という意味で歌います。感情を押し殺すのでなく、自分らしく生きるという気持ちの強さが伝わってきます。

「〜させる」のニュアンス

“Let it go.”というフレーズをより深く理解するためには、「let」などの使役動詞がわかることが大切です。

英語には、誰かに何かを「させる、してもらう」ときに使う動詞がいくつかありますが、ここでは代表的なものとして make / let / have の3つを取り上げてみましょう。

1. make(強制的に〜させる)

 make + 人 + 動詞の原形

“The manager made everyone stay late to finish the report.”
(上司は報告書を仕上げるために全員を残業させた。)

“He made me apologize.”
(彼は私に謝らせた。)

2. let(許す・自由にさせる)

 let + 人 + 動詞の原形

 “I let my colleague handle the meeting today.”
(今日は同僚に会議の進行を任せた。)

“Let her speak first. She might have something important to say.”
(まず彼女に話させてあげて。何か大事なことがあるかもしれないから。)

3. have(〜してもらう・依頼する)

have + 人 + 動詞の原形

“I had the IT team update my computer system.”
(ITチームにパソコンのシステムを更新してもらった。)

“We had a professional photographer take our company’s profile photos.”
(プロのカメラマンに会社のプロフィール写真を撮ってもらった。)

このように、同じ「〜させる、してもらう」という英語表現は、動詞によってずいぶんとニュアンスが変わります。

最後に

アメリカの詩人メアリー・オリバー(1935–2019)は、森や鳥、海や草花といった自然のいのちに静かに目を向けながら、死や愛、孤独について、ことばを紡ぎました。

代表作の詩のひとつ、『In Blackwater Woods』の終わりには、こんな一節があります。

In Blackwater Woods
― Mary Oliver

To live in this world
you must be able
to do three things:

to love what is mortal;
to hold it
against your bones knowing
your own life depends on it;
and, when the time comes to let it go,
to let it go.

この世界で生きるために
あなたができなくてはならないことが
三つある

死すべきものを愛すること。
それを、自らの命がかかっていると知りながら、
骨によりかかるほど抱きしめること。
そして、手放す時が来たならば、
それを手放すこと。

出典:New and Selected Poems, Volume One, 2005, Beacon Press

日常の中でも耳にすることのある “Let it go.” というフレーズ。その意味は、置かれた文脈によって少しずつ姿を変えます。同じフレーズでも、ひとつの訳にはおさまりきらないからこそ、言葉はおもしろいのかもしれませんね。

次回もお楽しみに。

●執筆/池上カノ

日々の暮らしやアートなどをトピックとして取り上げ、 対話やコンテンツに重点をおく英語学習を提案。『英語教室』主宰。  京都祇園にある建仁寺塔頭両足院をベースに、ひとつのテーマについて英語で語りあう『うごく哲学』を対面とオンラインで定期開催。その他、他言語を通して、それぞれが自分と出会っていく楽しさや喜びを体感できるワークショップやイベントを多数企画。
インスタグラム

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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