かつて日本では、仏教の戒律により肉や卵などを食べることは禁忌とされていました。しかし、江戸時代以降になると、南蛮人の食文化の影響を受け、卵を食べるようになったといわれています。
天明5(1785)年には、103種類の卵料理を紹介する『万宝料理秘密箱』、別名『玉子百珍』や、卵料理の献立集『万宝料理献立集』が刊行され、卵食をさらに広めました。そして、江戸時代後期に書かれた風俗随筆『守貞謾稿』には、茹で卵売りが登場。幕末に近づくにつれ、卵は庶民の間にも普及していったようです。
さて、今回は『万宝料理秘密箱』から、海苔とともに食べる江戸版ポーチドエッグ「磯菜卵(いそなたまご)」をご紹介します。同書には煎り酒、または、わさび醤油を添えるとありますが、せっかくなので今回は“江戸の万能調味料”と呼ばれる煎り酒を添えてみました。
煎り酒とは、日本酒に梅干しを入れて煮切って鰹節の出汁を加えた調味料です。江戸時代前期、庶民にとって醤油は高級品だったため、食卓の定番調味料といえば煎り酒だったそうです。
煎り酒の作り方も後述しているので、こちらもぜひ作ってみてください。
では、まず磯菜卵を作っていきましょう。
■「磯菜卵」の作り方
◎材料
卵 1個
もみ海苔 適量
煎り酒 適量 ※作り方は後述
酢(茹で用) 少々
お好みで煎り酒ともみ海苔をかけていただきます。煎り酒は醤油よりもマイルドでさっぱりした味わいなので、卵の美味しさがいっそう引き立ちます。ただし、海苔は風味が強すぎて煎り酒の風味を殺してしまっている気が……。筆者は、海苔がない方が美味しいと感じました。
次は、万能調味料「煎り酒」の作り方をご紹介します。
■煎り酒の作り方
◎材料
日本酒 1リットル
梅干し 5~6粒
かつお節 30g
梅干しは甘いものではなく昔ながらのしょっぱいものを、お酒は料理酒ではなく純米酒を使うようにしましょう。入れる梅干しの個数は、お好みで増減してもOKです。
■煎り酒が再び注目を集めている?
醤油よりも塩分控えめの煎り酒は、健康に気をつかう人の間で、最近再び注目を集めています。上品ですっきりとした味わいで、素材の味を邪魔しないのも煎り酒の良さです。お刺身や焼き魚などを食べる時、醤油替わりにつけてみてください。
また、磯菜卵でわかる通り卵との相性も抜群です。卵かけごはんにかければ、美味しさがグレードアップしますよ。ぜひお試しください。
【参考文献】
『料理百珍集』(校註・解説 原田信男/八坂書房)
『図説 江戸時代 食生活事典』(編集・日本風俗史学会 編集代表・篠田統、川上行蔵/雄山閣)
『江戸料理読本』(著者・松下幸子/ちくま学芸文庫)
※分量や細かい作り方は原本に記載されていないため、筆者が作った方法でご紹介しています。
文/小野寺佑子
撮影/五十嵐美弥