文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
【小林式処方箋】失敗は「成功イメージ」に上書きしてから床に入る。
外科医は手術後もシミュレーションする
「私、失敗しないので」
米倉涼子さん扮する外科医・大門未知子の決め台詞(『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』テレビ朝日系)ですが、現実問題として、失敗しない人間など存在しません。小さなミスをあげつらえば、1日を振り返ってミスのなかった日はないといっていいでしょう。それが人間です。
しかし、こうした失敗やミスに、ダメージを受けてしまうのもやはり人間。後悔したり、考え過ぎたりするあまり、「なかなか寝付けない」という経験をした人も多いのではないでしょうか。睡眠は、次の日のコンディションを決めてしまいますので、ここで悩んで寝付けないというのは、ダブルパンチです。
こんな時にお勧めしたいのは、「記憶の上書き」です。
例えば私の身近な経験で言うと、ある時、フレンチレストランで食事をしていた際、ワインがあまりにもおいしくて、ウェイターが勧めるままに飲み過ぎてしまったことがありました。
結果、翌日まで深酒を引っ張ってしまい、その日のコンディションは最悪でした。その日1日、後悔にさいなまれたと言っても過言ではありません。
「ああ、あのとき3杯でやめていれば……」
ベッドの中でも当然後悔します。しかし後悔し続けていては、寝付けないだけで何のプラスにもなりません。そこで、失敗した場面を思い浮かべると同時に、成功のイメージを頭に浮かべるのです。
この時なら、ワイングラスをそっと手でふさぎ、「もう結構です」と毅然と断っている自分の姿を、はっきりイメージするのです。
ここまでリアルに、成功例を思い浮かべると、次に同じような場面に遭遇した場合、自分が理想とする行動パターンを引き出しやすくなります。
イメージしただけですが、自分の成功で失敗を上書きしているので、気分も明るくなり、くよくよ悩んで寝付けないということもなくなります。
これは、実は外科医の極意でもあります。
通常、外科医は手術をする前に、頭の中で何度もシミュレーションします。それだけでなく、手術が終了した後にも、「あのケースは、もっとこうしたほうがより良いのではないか」という細かな改善点をイメージし、またシミュレーションするのです。そうすると、次の手術の際、改善したイメージで事に当たることができます。
こうやって、優秀と言われる外科医は、自分の行動イメージを上書きし、行動の質を高めているのです。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
定価 924 円(本体840 円 + 税)
発売中
文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。