火を使わぬ献立ながら、多種類揃うワンプレート朝食。加えて、果物と豆乳の甘酒スムージーが通訳案内士の健康の源だ。

【廣田聡さんの定番・朝めし自慢】

中央の大皿から時計回りに、トースト(蜂蜜漬けレモン)、酢ピーナッツ、茹でたブロッコリー、茸のオーブン焼き、豚肉の味噌漬け焼き、赤パプリカのペペロナータ、甘酒スムージー(豆乳、バナナ、キウイフルーツ、パイナップル)、コーヒー。豚肉の味噌漬け焼きと赤パプリカのペペロナータは昨晩の残り物。ペペロナータはパプリカにオリーブオイルを加え、弱火で煮込んだイタリア料理の前菜。甘酒は作り置きし、朝、豆乳と果物を加えてスムージーにする。

ソニー時代の習慣で、朝は早い。午前5時半頃起床、朝食は6時頃。「3食規則正しく食べます。昼は正午過ぎに麺類、夜は7時頃。夫婦ふたりになって夜は和食が多くなったかな」と、食卓に着く廣田聡さんと冬日夫人。

パンを焼くのは聡さんの仕事。まだキャリア1年ほどだが、朝食の食パンの他、パネトーネ(ドライフルーツ入りのイタリアのパン)やバターロール、あんパンにも挑戦。「パンは奥が深くて、まだまだ修業」と、廣田さん。

コーヒー党で、普段はコーヒーメーカーを使っているが、時間と気持ちに余裕がある時にはサイフォンコーヒーを楽しむ。会社員時代にはなかった、寛ぎのひとときだ。

富山県に生まれ、横浜国立大学経済学部卒業後、ソニー株式会社に入社。以来34年間、事業・商品企画を始め、日米欧政府やWTO(世界貿易機関)などに、技術と法律のギャップを埋めるロビイングを担当してきた。けれど、仕事は“やり切った感”があり、定年を待つよりはと、56歳で早期退職を決意。第二の人生に選んだのが、全国通訳案内士であった。

「ソニー時代には米国やシンガポールに10年間駐在。また5大陸、50か国以上を訪問しました。いずれの国でも現地の人たちに助けられた。その恩返しをしたい、日本文化をわかりやすく伝えたいとの思いから、退職と同時に全国通訳案内士資格を取得したのです」

アメリカに語学留学した10年後の1988年、ホストファミリーの結婚式に招待された時の一葉で、左から長男の雄大君を抱く廣田さん、冬日夫人、ホストファミリー。ちなみに冬日さんとは、語学留学で出会ったという。
1990年、ブルックリン橋の前で、ニューヨーク駐在時の廣田さん一家4人。左奥は、2001年のアメリカ同時多発テロで崩壊してしまったワールドトレードセンタービル。

その後は日本文化体験交流塾で講師を務めたり、また欧米豪の富裕層向け旅行企画・営業を立ち上げ、売り上げを3倍に伸ばした実績も。同交流塾で5年ほどの経験を積み、2019年4月に通訳ガイド業として独立したのだった。

全国通訳案内士として、外国からの観光客を京都・金閣寺に案内、ガイドする廣田さん(左)。2018年夏の京都は最高気温の39度を記録し、観光客も驚愕の暑さだった。

酢ピーナッツを20粒

ソニー時代は朝のラッシュ時を避け、早朝出勤が常であった。その頃から食事は少量多種を心がけているが、朝食に火を使う料理は登場しない。

「トーストと酢ピーナッツ、茹でておいたブロッコリー、茸のオーブン焼き、コーヒーはその頃からの定番。毎朝20粒ほど食べる酢ピーナッツは、血圧を下げて悪玉コレステロールを減らすと聞きますし、噛む力もつきます」

と、冬日夫人が語る。ちなみに、冬日さんは米・ニューヨーク滞在時にはカステラやどら焼きも手作りしたという料理上手だ。

甘酒に豆乳と果物を加えた甘酒スムージーは、6年ほど前からの朝の新定番。当初、甘酒は白米で作っていたが、昨年、プレタス黒米に出会い、今では廣田家で甘酒といえば紫色だ。甘酒スムージーを飲み始めてから、夫妻ともに風邪を引かなくなったという。

コロナ禍によるステイホーム中、60歳過ぎて料理と翻訳に挑戦

キッチンで料理の腕を振るう廣田さん。「1回目はレシピ通りに作るので上手くいくのですが、2回目は自分なりのアレンジを加えたりするので失敗することも……」と、苦笑い。

昨春からのコロナ禍によるステイホーム中に、新しく挑戦したことがふたつある。ひとつは料理だ。

「シニア料理家の小林まさるさんの著書『人生は、棚からぼたもち!』を読んで刺激を受け、“男の料理”に目覚めました。お嫁さんの料理研究家、小林まさみさんもそうですが、入手しにくい食材や調味料がなく、料理の敷居がずいぶんと低くなりました。それまで家事といえば、湯を沸かすぐらいだったんですが……」(笑)

夏の得意料理は夏野菜のキーマカレーで、ズッキーニやパプリカなどの野菜がたっぷり。キーマカレーは廣田さん、付け合わせのキャロットラペや盛り付けは冬日さんが担当。ふたりの共同作品だ。
料理を始めてから記している“レシピノート”。1年半で94のレシピを収録。「家内は恥ずかしいといいますが、私はこのノートを持って買い物に行きます」と廣田さん。

パンを焼き始めたのも同時期だ。パンも料理も家族に好評とあって、今では週2日ぐらいは夕食を担当しているという。

もうひとつの挑戦が、ビジネス関連の書物の翻訳である。

「30年以上ビジネスの世界にいたし、英語ができれば翻訳もできると考えたのが甘かった。私は正確さを最優先していたのですが、翻訳に必要なのは英語や正確さより、より魅力的な日本語だと知りました。読者を惹き込む翻訳とは、日本語力に尽きるのです」

といっても諦めたわけではない。生来のポジティブ思考、60歳過ぎての挑戦に終わりはない。

健康法は、愛犬ヴェルディとの朝夕の散歩。上は2019年、一緒に飛騨高山(岐阜県)を旅した時のもの。「日本も、欧米のように大型犬を連れて心置きなく旅できるようになるといい」

※この記事は『サライ』本誌2021年9月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。
( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

 

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