文/印南敦史
順調とまではいえそうにないが、新型コロナワクチンの接種が進んでいる。私もつい先ほど1回目の予約ができたところで、とりあえずはひと安心できた(2回目の予約は先だし、本当の意味で安心などできないのだが)。
一方、『新型コロナワクチン 副作用が出る人、出ない人』(近藤 誠 著、小学館)の著者は、ワクチンについて次のように述べている。
ワクチンは、「みんなが打っているから、わたしも打とう」というような、あいまいな気持ちで、世間の風潮に流されて打つような代物ではありません。とくに新型コロナのワクチンは、これまでなかった製法によるので、効果はもちろん、副作用も未知だからです。
そして日本では(コロナワクチンを含め)すべての種類のワクチンが「任意接種」とされていることも肝腎です。もし副作用や後遺症が生じても(打つのを決めたのは本人だからと)「自己責任」とされてしまうのです(ワクチン事故・自己責任の原則)。(本書「はじめに」より引用)
したがって「必要性」「有効性」「安全性」を検討し、本人(子どもの場合は親)が“ワクチンを打つかどうか”を検討するべきだということだ。
だとすれば、検討するにあたって重要な意味を持つのは知識や情報である。そこで本書では、急増する「変異株」についての疑問、ワクチンの必要性、Q&A形式で解説がなされる「免疫の仕組み」など、さまざまな角度から“ワクチンについて知っておきたいこと”をまとめているのである。
なかでも気になるのは、やはりリスクの問題ではないだろうか。死亡する人は確かにいるからだ。
では、どういう人たちが亡くなりやすいのか? 欧米の研究では、
・高齢者
・基礎疾患のある人
・喫煙者
・肥満者(本書42ページより引用)
などが挙げられているという。日本では正確な研究や報告が少ないようだが、とはいえ高齢者が亡くなりやすいのは間違いなさそうだ。
ただ、コロナ死亡報道や統計には問題点もある。亡くなった高齢者が、「それまで元気だったのか」「自立していたのか」「基礎疾患があったのか」「介護施設の入所者だったか」などの情報が少なすぎることだ。
もともと高齢者は呼吸器系の感染症で命を落としやすく、そのことについては“どうしようもない面”もあると著者はいう。また、コロナで亡くなりやすい高齢の方々は、コロナの予防接種を受けても、別の呼吸器感染症で亡くなる可能性は残るだろう。さらには、ワクチンの副作用で亡くなる可能性も否定できない。
一方、世界でも日本でも、若い世代ほど新型コロナでの死亡率は低くなるようだ。日本では8209人が亡くなった時点で、20代の死亡例は3人、30代では18人(厚労省:新型コロナウイルス感染症の国内発生動向2021.3.24)。高齢者とは比較にならないほど低いことがわかる。
では、40代から60代までの年齢層ではどうだろうか?
そこにはサライ世代がすっぽりと収まることになる。また、上掲の「高齢者」「基礎疾患のある人」「喫煙者」「肥満者」に当てはまる方も少なくないだろう。そういう意味でも、やはり慎重に勘案する必要性はあるかもしれない。
ワクチンを打つ必要を感じるかどうかは、個々人の人生観や大局観によって異なることでしょう。僕はそれを尊重すべきだと思うので、「ああしろ」「こうしろ」というようなアドバイスはいたしません。
ただし大局観なるものは、知識の有無・程度によって異なるもの。ワクチンの有効性の意味するところや、打っても再感染する可能性や、副作用の実際を知ると、各自の大局観が変わる可能性が高いと思います。
(本書45〜46ページより引用)
このように著者が明らかにしている考え方や情報のなかには、「たしかにそうだな」と納得できる箇所もあり、参考になることがらも少なくない。それらは「ワクチンを接種すべきか否か」ということを判断する際にも役立つことだろう。
ただし個人的には、気になる部分もあった。著者はワクチンを打つつもりが“全然ない”というが、その理由のひとつがどうしても引っかかってしまったのだ。
新型コロナは僕にとっては「ただの風邪」としか思えないからです。
(本書188ページより引用)
もちろん、ご本人がそう考えているのであれば、そのこと自体を非難する必要はない。だが素人ながら、私にはそう思うことができないのだ。そのため、肯定することや否定することを目的とするのではなく、ただ「そう感じた」という事実だけは明らかにしておく必要があると考えたのである。
しかし、当然ながらそれもまた“考え方のひとつ”にすぎず、私の意見が必ず正しいと断言することもできない。読者諸氏の感じ方についても、同じことがいえるだろう。
ましてや新型コロナウイルスは、いろいろな意味において未知な部分が多すぎるのだ。だからこそフラットな視点で本書を確認してみて、「役立ちそう」で「覚えておいた方がよさそう」なトピックスを心に留めておけばいいのではないだろうか?
そう、すべては自分の判断にかかっているのである。
『新型コロナワクチン 副作用が出る人、出ない人』
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。