新型コロナウイルス感染症問題によって、飛行機を使った<旅:出張や観光など>を控える方もいるかもしれませんね。
飛行機には、仕事や遊び目的だけではなく、病気治療・冠婚葬祭・お見舞い・介護など様々な目的を持った人が乗ることを医師として感じる機会が多いです。
私は、学会出席や出張など飛行機に乗る機会も多く、旅好きの医師視点から「飛行機旅行と感染対策」についてご紹介します。
旅のリスクとは?
「旅にリスクはつきもの」と言っても、出来れば遭遇したくないですよね。
旅に伴うリスクは、
1)社会に起因する事案(感染症、国家間の政治問題、自然災害、戦争・テロ)
2)関係機関に起因する事案(輸送機関の遅延、食中毒、施設火災、交通手段の事故)
3 )個人の事案(ケガや病気、携行品破損、窃盗)
などが挙げられます。
新型コロナはじめ「感染症」は、『頻度は低くても、広域化しやすい』特徴があります。
ケガや病気といった「個人の事案」の方が頻度は高く、生命への危険性は火災・災害や事故の方が高いでしょう。
ただし「(国や地域をまたいで)広域化しやすい感染症」は、移動手段の発達や高速化した現代では、戦争・テロや災害など「地域限定型」リスクとは形態が異なります。
旅を行う中で、全てのリスクをゼロにすることは非常に難しく、リスクや危険性の感じ方・受け取り方も個人個人で違いますよね。
飛行機と新型コロナの現状
「新型コロナが機内で感染するのか否か?」という点は、感染が世界を含め現在進行しており、全貌が明らかではありませんが、あくまでも現状としてご紹介します。
IATA(国際航空運送協会)は、「新型コロナ症状がある乗客12人が搭乗した中国-米国間フライトの接触者の追跡でも機内感染がなかった。降機後に感染が確認された1100人の乗客(2020年1~3月)の接触追跡で、同じ航空機に搭乗した10万人の乗客間に二次感染は無かった」ことを発表しています。
「乗客から乗務員、乗務員間の感染は数例」認められました。
新型コロナは現在進行中のですので油断は出来ず、今後の調査報告などを待つ必要があります。
ひとまず「執筆時点(2020年7月現在)では、乗客間の感染事例は認められていない」という状況です。
過去に問題となった機内での感染症?
飛行機内での微生物(菌やウィルス)感染に関する研究報告は、少数しかありません。
海外では、「結核8時間以上、SARS(重症呼吸器症候群)3時間以上、インフルエンザ3時間20分」のフライトで感染したという報告があります。インフルエンザに関する座席表による感染伝播では、くしゃみが届くはずもない十数列以上離れている席での感染もあったようです。機内感染があったとしても、「感染者と被感染者の座席位置の関連、トイレなど機内移動の関連」などは不明です。
機内ではなく、搭乗口付近などで感染した可能性も十分に考えられます。
「搭乗人数・国籍・年齢・体調、使用機体、実際の飛行時間」など、再現することは非常に難しい(ほぼ不可能)ことも、研究報告が少ない理由となるでしょう。
日本国内線に関しては、「羽田-新千歳空港・福岡空港間:約1時間30分、羽田-那覇:約2時間20分」で、その他の路線も飛行時間は3時間以下が殆どです。過去に問題となった上記感染症の飛行時間よりは短いのが日本の国内線です。
新型コロナ問題以前から「手指衛生,マスクの着用」などを私は行っていましたので、機内での感染に対する不安はありません(私自身の個人的な考えです)。
私たち1人1人が自身で行える感染防止策を行うことは、 機内での感染対策として非常に重要だと思います。
実は密閉ではない機内? 空調とHEPAフィルターの仕組み
旅客機は地上から約7,000~13,000mの高度を飛行しているので、密閉状態と思いがちですよね。実際に機内の空気は3~4分に1回程度で入れ替わるので密閉ではなく、窓ガラスをほぼ全開にして走る自動車に近いイメージです。
次に機内の空気の流れをご紹介します。
飛行中の空気は、左右エンジンの圧縮機で加熱され、冷却装置を通り機内に入ります。
機内の空気は天井のエアコンダクトから出て、座席を通り、窓際下に流れ床下の貨物室に入っていきます。空気は常に流れていて、一部分に留まってはいないのです。
動画で見る『旅客機の空気循環』
空気の50%は再循環され、残り50%は機外に排出されます。再循環に回った空気は、「HEPAフィルター(High-Efficiency Particulate Air Filter)」を通過したあと、新鮮な空気と混合され循環します。
「HEPAフィルター」は手術室の空調設備にも使われていて、約0.3ミクロン以上の粒子を99.97%捕捉します。結核菌は0.5~1ミクロンですから十分吸着できますね。
新型コロナウィルスは大きさ0.1ミクロンなので、フィルターをすり抜けそうに感じませんか?
新型コロナウィルスは「ウィルス+つば(飛沫)=約0.5ミクロン」の大きさになり飛沫感染すると考えられているので、フィルターで捕捉が出来ます。
飛行中はこれらの換気システムが作動するとして、 飛行機が陸上にいる時はどうでしょうか?
過去に「地上駐機中は外部電源や補助電源に切り替わるため、HEPAフィルターが作動しないか換気能力の低下が起こる点が、機内の感染症対策として問題になり得るのでは?」という内容の文献報告がありました。
ANAでは新型コロナウィルス対策として、搭乗中や降機中など機内に搭乗客がいる場合は、外部電源に切り替えず常時換気システムを運用しています。
環境に優しいのは外部電源ですが、まず搭乗客の安全を守ることを優先する取り組みと言えます。
座席について
国内線普通席の標準的なシートピッチ(前後間隔)は機種によって若干の差はありますが約79cmで、座席幅(横幅)は約42~45cmです。
人間が「くしゃみ」をした時に飛沫が飛ぶ距離は約2m程度と言われています。「くしゃみ」をする人がマスクを着けていれば、マスク=遮蔽物になり風速が落ちるので、実際の飛距離は2mより短くなると私は考えます。
前述した様に、機内の空気は、座席上方の吹き出し口から吹き出され、同じ横列の座席付近を流れ、窓側座席下の空気循環孔に吸い込まれる「換気システム」が作動し続けています。
さらに、
「旅客機内では、前を向いて座るため、向かい合わせで顔を突き合わせ、飛沫を飛ばすとか浴びる機会は少ない」でしょう。
トイレが近い方が一人旅をする場合、並びの人と会話をしない様に「通路側」を選ぶ方法もありますね。
さらに不安な方は、国際線ビジネスクラスに相当する『ANAプレミアムクラス(国内線のみ)』を選んでみてはどうでしょうか(路線や機材・座席数に限りがある)。
ANAプレミアムクラスのシートピッチ約127cmで、「広いシート・食事や飲み物(アルコール)・優先搭乗」など普通席と異なるサービスで人気です。
私は
1)「座席数が少ない(隣接乗客も限定される)」: 座席上方の荷物入れにも余裕がある、手を洗う等トイレがゆっくり使いやすい
2)「優先的に降機できる」
3)「到着空港での手荷物受取が優先される」
という点に注目しています。
他者と少しでも密にならない様に、敢えて『優先搭乗せず、最後の方に乗る』方法も出来るでしょう。くれぐれも「名前の呼び出しや乗り遅れ」にはご注意下さいね。
ANAプレミアムシートは、『最後の方に搭乗し、座席数が少なく、いち早く降機し、手荷物受取が早い』ことが出来る安心感もあります。
普通席に比べ、価格は高くなりますが、高齢の方を伴う旅などでは特に有用だと私は考えます。
3列席の真ん中(Middle Seat)を空けた方が良いのかどうか?
搭乗客から航空会社に「機内環境」に関する様々な問い合わせが寄せられています。
「感染が心配なので、3列席の中央座席を空席にしてはどうか?」という意見も多いようです。
この点に関してIATA(国際航空運送協会)は、「機内の感染リスクは低いため、感染対策として間の座席を空けることを義務付けない」という見解を示しています。
旅する個人が行う対策
日本の国内線航空会社は14社、国際線日本発着便の航空会社は117社(うち日本企業10社,外国企業107社)もあり、会社規模や保有する機材も様々ですが、日本企業・外国企業問わず航空会社各社は、新型コロナウィルス感染対策に取り組んでいます(詳細は各社HPでご確認下さい)。
空港などでも『空港内のカウンター等でのマスク着用、自動チェックイン機や旅客機内の定期的な消毒』といった感染拡大防止と安全衛生策が講じられています。
日本の航空運送事業者等19社(貨物航空会社含む)が参加する『定期航空協会』のHPで、飛行機を安心して利用するために、私たち1人1人が出来ることが紹介されています。
私たちはたしかに「運賃を支払う搭乗客」です。航空会社の乗務員も感染の危険に曝されながら、業務にたずさわっています。
機内での感染防止は、航空会社など事業者側の取組みに加え、『搭乗客1人1人の感染対策の意識を高めること、搭乗客が手指衛生を行う・マスクを着用する・健康管理に気を付ける』ことが重要だと私は考えます。
搭乗客や乗務員は、『同じ機材で同じ目的地に向かう“旅の仲間”』です。
たとえ見ず知らずの人間同士であっても、「旅の仲間」を思いやる気持ちと行動で空の旅をしたいですね。
取材・文/倉田大輔
池袋さくらクリニック院長。日本抗加齢医学会 専門医、日本旅行医学会 認定医、日本温泉気候物理学会 温泉療法医、海洋安全医学・ヘルスツーリズム研究者、経営学修士(明治大学大学院経営学研究科)
2001年 日本大学医学部卒業後、形成外科・救急医療などを研鑚。
2006年 東京都保健医療公社(旧都立)大久保病院にて、
公的病院初の『若返り・アンチエイジング外来』を設立。
2007年 若返り医療や海外渡航医療を行う『池袋さくらクリニック』を開院。
「お肌や身体のアンチエイジング、歴史と健康」など講演活動、テレビやラジオ、雑誌などへのメディアに出演している。
医学的見地から『海上保安庁』海の安全啓発への執筆協力、「医学や健康・美容の視点」から地域資源を紹介する『人生に効く“美・食・宿”<国際観光施設協会>』を連載。自ら現場に赴き、取材執筆する医師。
東京商工会議所青年部理事
東京商工会議所 健康づくりスポーツ振興委員会委員
東京商工会議所 豊島支部観光分科会評議員
【クリニック情報】
池袋さくらクリニック
http://www.sakura-beauty.jp/
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