世界的な舞台衣装デザイナー。その好奇心と行動力の源は、朝のトースト、バター、蜂蜜、コーヒーの4点セットである。

【時広真吾(ときひろしんご)さんの定番・朝めし自慢】

前列左から時計回りに、トースト、蜂蜜、カルピスバター、コーヒー。トーストはバターをつけてから、蜂蜜を塗るのが定番だ。コーヒーカップはロシアのモスクワ音楽院に招待された折に購入した、ロマノフ窯(インペリアルポーセリン)。蓋が付いているのが気に入っている。コーヒーはブラックで楽しむ。

朝8時頃に起床、朝食は10時頃。「家族が出かけた後、ひとりでゆっくりと摂ります。昼は午後2時頃に麵類を用意するか外食。家族3人(夫人と長男)で食卓を囲むのは夕食だけですね」と、時広真吾さん。今朝のチュニック(丈が長めの上着)やペンダントもご自身の作品だ。

トースト用のバターは、3種類をその日の気分で。手前のトラピストバターは発酵バター。左は雪印、右奥はカルピスバター。

蜂蜜は『椎葉の秘蜜』の他、3~4種類常備。左から『奥利根坂井のアカシアはちみつ』(坂井養蜂場 電話:0278・24・4134)、『さくらんぼ蜜』『秀蜜みつ(プロポリス&ロイヤルゼリー入り蜂蜜)』(共に百花恵(ひゃっかけい) 電話:03・3410・8317)。

朝食の前に、胃を目覚めさせるために飲むりんごジュース『ガチリン紅玉』。紅玉本来のすっきりした酸味が特徴の無添加ジュースで、そのまま飲むもよし、焼酎の割り材にしてもよし(鹿内農園 電話:090・9032・7533)。

唯一無二の舞台衣装デザイナー、時広真吾さん。その独自のスタイルは、“風を纏う衣装”、“格闘する衣装”などと評される。

「私の衣装はその役に対して創っている。いくら有名な俳優さんが出ていても、その役者さんのためには創らない。たとえばリア王の衣装デザインをする場合、私が聞こうとするのはシェイクスピアの声。彼が“時広、お前は私のリア王のために、こんな衣装を創ってくれたんだな”と喜んでもらえるものなのです」

1955年、山口県宇部市に生まれた。実家は5店のブティックを経営しており、幼少の頃から三宅一生や山本寛斎、芦田淳、森英恵、サン・ローランなどの洋服に触れて育った。その頃から絵を描くのが好きで、東京藝大を目指すも挫折。『万葉集』『古事記』『新古今和歌集』など古典が好きだったこともあり、日本大学の国文科に進む。

大学卒業後、ファッション・ジャーナリストとしてパリ・コレクションなどを取材した。

「黒を基調にした“カラス族”が流行する中、カラフルなスカーフを巻いて取材をしていた私に、ある人が声をかけてきた。“あなた面白い。オペラの衣装デザインができるんじゃない?”。作品はモーツァルトの『魔笛』でした」

この出会いが舞台衣装を創るきっかけ。1991年のことだった。

以降、ルーマニア、ドイツ、ポーランドのシェイクスピア祭に招聘され、その後、ロシアやアメリカでも衣装展を開催。また太鼓芸能集団「鼓童」の衣装など、国内外の舞台で高い評価を得ている。

2012年、マレーシアのクアラルンプールで、初の海外での衣装展『時の夢』を開いた。登場した途端に空気を変える小面をつけた青蓮(左からふたり目)の存在が注目を集め、以降、国内はもとより中国、ロシア、アメリカなどでも衣装展を開催している。

体が欲するものを食す

少年時代、住み込みの女性店員が10人ほどいた。朝食は彼女たちと一緒に摂る、蜂蜜を塗ったバタートーストが決まりだった。

「その蜂蜜は、叔父が定期的に届けてくれたのを覚えています。風邪をひいても、母が蜂蜜を食べさせてくれた。蜂蜜が高価だったこともあり、上京してからは食べられなかった。けれど海外や日本各地を訪れるようになり、その土地ならではの蜂蜜があることを知り、少年の頃の朝食が復活しました」

朝食は簡素で、特別な健康法があるわけでもない。自分の体に問いながら、食べたいものを食す。朝、体が果物を欲すれば、それを追加する。自然体が健康の源である。

10冊目となる作品集『天と地の父母に捧ぐ〜青蓮/TEO』。時広真吾専属パフォーマーの青蓮とTEOが、東洋と西洋が調和した独創的な世界を繰り広げる(問い合わせ:時広真吾 電話:03・3427・3033)。

オールラウンドアーティストの原点は、“美に力あり”

舞台衣装デザイナー、演出家、パフォーマー(青蓮・TEO)、詩人、写真家と、時広さんの活動の場は広い。オールラウンドアーティストと称される所以だが、なかでも今、演出家として力を注いでいるのが、2010年から始めた『美の種プロジェクト』だ。

「ひと言でいえば、地方の芸術家を地元の人たちの手で育ててほしい。そのお手伝いをするということ。10年目に入りましたが、今まで愛知、京都、神戸、金沢、大阪など11都市で開催してきました」

その他にも宮崎県日向市や椎葉村、徳島県吉野川市、長野県茅野市などでも市民参加のパフォーマンスの構成や演出を手掛けてきた。

演出家として10年前から始めた『美の種プロジェクト』は、各地在住の分野を超えたアーティストらが創る市民芸術運動。上は石川県金沢市在住のアーティストたちとのコラボレーションで(後列中央の黒衣が時広さん)。

また、ドラマティック古事記などの演劇でも活躍。その多彩な活動を貫くものは何なのか。

「“美に力あり”ということです。私は小学6年生の時に“どうしたら美しく生きられるか?”と、母に問うような少年でした」

演技でも科白でも、また舞踊でもない。すべてを衣装に語らせる、独自の“装艶”という表現形式を確立。それもこれも“美に力あり”と信じるが故である。

帯地5本で作った衣装(右)は、8月の『リア王』(横内正台本・演出・主演)の舞台で使用される予定。月をイメージした衣装(左)は、8月の『お船出ものがたり異聞』で月読命が纏う。前面が夜、背面が昼を表している。
時広さんが総合プロデューサーを務める『お船出ものがたり異聞』は、『古事記』の神武東征出発の地とされる美々津(宮崎県)が舞台。ヴァイオリニストの古澤巌さん(後列左)と、TEO(後列右)が特別出演する。8月8日(日)日向市文化交流センター大ホール。

※この記事は『サライ』本誌2021年8月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

 

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