文/満尾正
新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。
皮膚や髪、爪の質にも影響する亜鉛
亜鉛が欠乏すると、さまざまな皮膚症状も現れます。
本来、亜鉛は皮膚にも多く存在しますが、それが不足すると皮膚の外から加わった刺激に対し炎症が起きてしまうのです。しかも、治りにくく、しばしば悪化していきます。
お母さんの母乳に亜鉛が少ないと、赤ちゃんの皮膚に炎症が起きることもあります。
また、「腸性肢端皮膚炎」という遺伝性の疾患があり、これは生まれつき腸管での亜鉛吸収不全が起きるために、ひどい皮膚炎を起こし、感染症にもかかりやすくなります。
こうした先天性の疾患も、積極的に亜鉛を補充することで改善に向かいます。
亜鉛の補充は、「褥瘡」(床ずれ)にも効果を示します。
長く寝たきりでいると、体重で圧迫されている部分の血流が悪くなり、皮膚がただれて褥瘡になります。ひどくなると骨が露出するなど、病人にとっても介護する側にとっても悩みの種ですが、亜鉛を補充することで改善されることがわかっています。
皮膚だけでなく、髪の毛や爪なども亜鉛不足で弱くなります。加齢に伴い、どうしても髪も爪も張りを失いますが、そこには亜鉛が足りなくなっているという側面もあるのです。
最初に亜鉛の重要性を世界に広めたのは、インドのアナンダ・プラサドというドクターです。彼は、1960年代に、イランで多く見られた低身長の子どもたちを調査し、それが亜鉛欠乏によるものだということを突き止めました。
イランの子どもたちは、明らかに骨の形成が不十分で身長が足らず、ひどい皮膚の変質があり、髪の毛もほとんど生えていませんでした。
プラサド博士がさらに詳しく調べていくと、子どもたちは貧血、学習能力低下、性腺機能低下、肝脾腫などを起こしており、まさに生命体として危機的状況にあることがわかりました。
実際に、25歳までに感染症で死亡するケースもありました。
しかし、亜鉛を補充することで改善されたのです。
亜鉛を多く含むオススメ食品
ココアや抹茶、ごまなどにも豊富!
1日の亜鉛摂取推奨量は、成人男性で11ミリグラムとされています。大ぶりの牡蠣を4~5つも食べればこの量の亜鉛を補充できます。
しかし、そこに届いている人は多くありません。60代の約4割がわずか7ミリグラムしか摂取していないこともわかっています。
亜鉛を多く含む食品は、なんと言っても牡蠣に尽きますが、どうしても苦手な人は豚レバーやチーズ、卵黄、アーモンド、ピュアココア、抹茶、ごまなどにも比較的多く含まれているので意識して摂ってみてください。
ただし、前述のビタミンDやマグネシウムを多く含む食品についても同様ですが、ここに列挙したものばかりを食べていればいいわけではありません。
魚介類や野菜、大豆製品、玄米や全粒粉でつくられたパンや麺類などのホールフードを、普段からバランス良く食べることが重要です。
もちろん、ファストフードや加工食品、スナック菓子などは避けましょう。そういうものには、亜鉛などいいミネラルはほとんど期待できません。
亜鉛不足になると味覚も損なわれる
喫煙者と非喫煙者双方の舌の味蕾細胞を拡大してみると、喫煙者は非喫煙者と比較して、味蕾細胞がひどく崩れているのがわかります。
これが喫煙者の味覚に悪影響を与える原因ですが、実は、亜鉛不足の人にも、喫煙者と同様の味覚障害が起きます。
言うまでもなく味蕾細胞は、ものの味を感じ取るために非常に重要。「タバコをやめると太る」という人が多いのは、味蕾細胞が蘇って味がよくわかるようになり、食事が美味しく感じられ食べ過ぎるからでしょう。
本書(『最強の食事術』)では、食事の大切さを説いています。それは一方的に「○○を食べなさい」とアドバイスしたいのではなく、読者一人ひとりが「食べるとはどういうことか」について真剣に考えてくれることを願ってのことです。
たとえば野菜なら、いい土壌でつくられた有機無農薬野菜と、旬を無視してハウス栽培された農薬だらけの野菜とでは、味の濃さからして違います。なぜなら、含まれるミネラル量が違う(つまり栄養が違う)からです。
それを「なるほど違う」と食べてわかる舌を保持して欲しいのですが、そもそも亜鉛が不足してしまうと、味覚機能の低下から、食べること自体が楽しくなくなってしまうかも知れません。
日々の生活のなかに、「いいものを食べる→亜鉛が増える→味蕾がいい状態だから味がわかる→さらにいいものを食べたくなる」というプラスのスパイラルをつくりだしていきましょう。
加齢とともに亜鉛の吸収力は低下
私のクリニックでは、理想的な血中亜鉛濃度を80~135としています。しかし、実際には、80にも届かない人が男女ともにたくさんいます。
しかも、70代からガクンと下がります。もともと男性は年齢を追うごとに下がる傾向にありますが、女性は70歳を超えるといきなりガクンときます(下、図16参照)。
そもそも、亜鉛が不足する理由は2つあって、吸収不全(入ってくる分が足りない)か排泄過剰(出ていってしまう分が多い)かです。
慢性膵炎や慢性腸炎、クローン病などの消化器疾患があると吸収不全になりますし、ACE阻害剤という血圧の薬やペニシリンを服用していても亜鉛が吸収されにくくなります。また妊娠や、加齢そのものも亜鉛の吸収力を低下させます。
一方、排泄過剰は、糖尿病、慢性腎不全、肝機能不全などで起きます。アルコールの代謝も亜鉛を使ってしまうので、お酒をたくさん飲む人は亜鉛不足になりやすい傾向があります。
ビタミンDとの関係も注目されます。なぜなら、ビタミンDが不足している人は亜鉛も不足している確率が高いからです。とくに70代の女性ではその傾向が顕著です。
このことは、女性が70歳を過ぎると、いきなり血中亜鉛濃度が低くなることと無関係ではないでしょう。もしかしたら女性は、70歳を過ぎたあたりから活力自体が衰え、外出して紫外線を浴びる機会が減り、それによってビタミンDも亜鉛も失われているのかも知れません。
もちろん、男性も同様です。亜鉛が不足すれば男性機能が弱くなることは前述しました。そういう草食男子的な状態が、やはり外出の機会を減らし、ビタミンDも亜鉛も減るという悪い相乗効果を生み出していることは十分に考えられます。
年齢や性別にかかわらず、ビタミンDと亜鉛、それに前述したマグネシウムも加えた3つの栄養素は、現代的な食生活をしている人の多くが不足している可能性が高いものです。
日頃から意識してこれらの栄養素を摂るようにしましょう。
満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。