加齢とともに体の不調が増えてくるのは、ある意味で仕方のないことだ。言うまでもなく、そんなときに重要なのは、しかるべきタイミングで症状に見合った医者にかかること。

しかし、そこで問題となってくるのが「医者の選び方」である。なにしろ選ぶ手立てがないのだから、自宅や会社から近いという立地のよさ、夜遅くまで診察している利便性、あるいは院内の清潔さなど、わかりやすいことで判断してしまいがち。

だが、『ヤバい医者の見分け方──医療コーディネーターが教える』(三田はやと 著、自由国民社)を読んでみれば、考え方が大きく変わるかもしれない。医療コーディネーターである著者は、「ヤバい医者はそこら中にいる」と断言しているのだ。

平成から令和になったいま、病院やクリニックの運営は、これまで以上に個性や専門性が求められる時代へと突き進んでいます。
ドクターは診察するだけでなく、常に患者をかき集めるために必死なのです。(中略)
お医者さんは診療室に籠っているわけにもいかずに、やり手営業マンも真っ青になるぐらいに駆け回り、あの手この手で受診率を上げることに躍起にならざるを得ないのが現実です。(本書「まえがきにかえて  かかっちゃいけない! ヤバい医者は、そこらじゅうにいる」より引用)

言われてみればたしかに、街のクリニックのドクターは医師であると同時に経営者でもある。そういう意味では「大変だなぁ」と思わずにいられないが、それでも患者にとって必要なのは「医師としての手腕」である。

だとすれば必要となるのは、信頼できる医師を見極めるための情報だ。そこで本書が役に立つのである。

ここで明かされているのは、10年以上にわたり医療業界の最前線と関わり続けてきた著者が、自分の目で見てきた現実。さらには、自身が患者としての側から見た真実。それらが、「ヤバい医者の見分け方」として役立つということだ。

ところで街を歩けばすぐにわかるように、日本の都市部では新規開業のクリニックが増えている。それもそのはずで、クリニックの新規開業数は年間およそ4000〜5000軒にも及ぶのだそうだ。

しかも年間の廃業数は2000〜4500軒程度で推移しているというので、近年ずっと、クリニックは増加傾向にあるということだ。

もちろんそれは、日本の医療環境の充実を示していることでもあるので、基本的には喜ばしいことである。医療界に新しい雇用が生まれ、若いスタッフが増えていくことも、いいことであるように思える。

だが、新しいクリニックに経験のない若いスタッフが新規雇用された場合、そのクリニックが提供する医療サービスのクオリティが低下する危険があると著者は指摘する。

経験の少ない医師はもちろんですが、実は来院時に経験の少ない若い受付スタッフによる案内を受けることには少なからず不安があるのです。
医療機関には、日々さまざまな症状を抱えた患者さんが押しかけます。
実績がなく、経験の少ない若い受付スタッフでは、数々のイレギュラーに対応できるはずもなく、対応が後手に回ってしまう可能性も否定できないのです。
命を脅かす危険な医療事故は、来院時の対応ミスから起こることも少なくありません。(本書30ページより引用)

本来、医療現場に対する信頼や安全性は、医師を筆頭に、その現場で働くすべてのスタッフの質の高さによって担保されるべきもの。そういう意味では実績や経験の少ないスタッフより、経験豊富な年配スタッフのほうがはるかに勝るのは当然の話である。

ところが著者の経験上、新しいクリニックには経験の少ない受付スタッフが多いのだという。そればかりか、大きな基準になりそうなポイントもある。若くて美人、もしくはイケメンのビジュアル系スタッフが勤めているケースがとても多いと感じるというのだ。

もしも患者の安全性を最優先するのであれば、受付スタッフといえども経験豊富な年配スタッフを採用するべきだ。なのになぜ、新規開業したクリニックでは経験が少なく若いスタッフを優先するのか?

この問題に対するおよその答えは次のとおりです。
『クリニックのスタッフ採用時の面接および判断は、経営者である院長先生がひとりでおこなっているから!』
つまり、若くてビジュアル的にも◎の受付スタッフが多いのは、院長を務めるドクターが自分の好みに従って採用するスタッフを決めているからなのです。(本書31ページより引用)

言い換えればそれは、安心安全の医療サービスを提供するために最良なスタッフを選んでいるわけではないということになる。むしろ、新しくてピカピカのクリニックの雰囲気に合う人を採用しがちだということだ。

もちろん、明るい雰囲気の新しいクリニックなら、患者の再来率の向上や、離診率の低下を期待できるかもしれない。だが、高品質で安全性の高い医療サービスを受けたいのであれば、受付スタッフに若さとビジュアルを求めてはいけないと著者は訴えているのだ。

*  * *

たとえばこのような「見落としがちな情報」が詰まった本書は、医者選びの失敗を防いでくれるかもしれない。「失敗した……」と後悔しないためにも、参考にしてみてはいかがだろうか?

『ヤバい医者の見分け方──医療コーディネーターが教える』

三田はやと 著
自由国民社
定価:1,320 円(本体 1,200 円+ 税)
2020年02月発行

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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