文 /小林幸子
小林幸子の「幸」を招くルール
ファン歴50年以上の方はもとより、若者やネットユーザーからも「ラスボス」と称され、幅広い層に圧倒的な人気を持つ小林幸子さん。
小林さんの「今が楽しい、自分らしい人生」をおくるための秘訣とは?
齢を重ねるたび、元気と勇気、パワーを増し続ける、ラスボス流「言葉の魔法」を初披露!
ラスボスの「仕事の流儀」
知識やテクニックだけじゃない。大切なのは“志”が立派かどうか。次々と未知の世界の扉を開けて新たなことに挑む、その原動力はどこにあるのか。そして、進化を重ね続ける秘訣とは?
ルール06
「創造とは記憶である」。これは「世界のクロサワ」こと、映画監督の黒澤明さんの言葉です。黒澤監督が言うには、何もないところからものは創り出せない、ということらしいのです。
生まれてから今まで、経験したことや本を読んで記憶に残ったことが、知らず知らずに蓄積されていって、それがふとしたきっかけで呼び覚まされて、創造されていく……。
黒澤監督の言葉は、すべての事柄に当てはまると、私は考えています。
芸事の世界の言葉で言い換えるなら、
「プロの技は見て学べ」
最初からオリジナルの歌い方ができる歌手なんて、存在しません。皆、少なからず誰かのマネをして、それを自分の中に取り込んで血肉にしていくのだと思います。
私自身、デビューのきっかけは「モノマネ」です。TBSのオーディション番組『歌まね読本』に、かつて歌手になりたかった父が、勝手に応募していました。
9歳の時のことです。
番組のタイトル通り、歌マネを競う番組で歌ったのは、美空ひばりさんの歌。この番組のグランドチャンピオン大会で優勝したことで、私は歌手デビューを果たします。
当のひばりさんからは「お幸」とかわいがられ、「お幸のモノマネがいちばんいい」と褒めていただきました。
でも実際は、ひばりさんの「ここの節回しを盗もう」と思ってマネしてみるのですが、絶対にひばりさんと同じにはなりません。
それでもマネするしかない。なぜなら、誰も教えてくれないからです。
自分で学ぶしかない。ひばりさんに限らず、いろんな歌手の方の「いいな」と思うところを必死にマネして、自分の中にため込んでいく。
それを自分なりに咀嚼して、自分の口から歌声として発した時、それがオリジナルになるのです。
美空ひばりさんが一度だけ教えてくれたこと
ひばりさんは背中で語っていました。
「お幸、芸は自分で見て覚えるんだよ」
そんなひばりさんでしたが、一度だけ、私に直接アドバイスしてくれたことがあります。
私がテレビのバラエティ番組で、三度笠、股旅姿で時代劇のコントを演じていた当時のこと。
ある時、ひばりさんに偶然お目にかかり、こう言われたんです。
「お幸、こないだの番組、透明なマニキュアをしてたでしょう?」
驚きました。私自身、マニキュアをしていたか、定かではありませんでした。
VTRで確認してみると、ほんの一瞬、ツメが映っていて、それをひばりさんは見逃さず、指摘してくれたのです。
「たとえバラエティであっても、時代劇は時代劇。どんなことがあっても、マニキュアはしちゃいけないよ」
細かいところにも十分に気を配る。そうひばりさんは教えてくれました。
ひばりさんは今でも私のお手本です。行き詰まったらひばりさんをマネしてみる。
学ぶことはまだまだ、数え切れないほどあります。
一、誰かのマネをすることが自分の血肉となる
一、行き詰まったら手本とする人をマネしてみる
小林幸子(こばやしさちこ)
1953年、新潟県生まれ。64年、『ウソツキ鴎』で歌手デビュー。その後、長く低迷期が続いたが、79年、『おもいで酒』が200万枚を超える大ヒットとなり、日本レコード大賞最優秀歌唱賞をはじめ数々の賞を受賞。同年、NHK紅白歌合戦に初出場。以来、34回出場し、その「豪華衣装」が大晦日の風物詩と謳われる。近年は、若者やネットユーザーの間で、「ラスボス」と称されるようになり、ニコニコ動画への「ボカロ曲」の投稿やアニメ『ポケットモンスター』の主題歌を歌うなどして、“神曲”を連発している。
ラスボスの伝言
~小林幸子の「幸」を招く20のルール~