明治天皇が肉食を解禁したのが明治5年。明治という新しい時代に食文化も大きく変わっていきました。近代化とともに西洋料理は大衆化し、試行錯誤しながら日本人の口に合うように西洋料理と和食を融合させた“洋食”が広がっていきます。つまり米飯に合う和洋折衷の料理が“洋食”でした。
『サライ』2016年7月号の東京特集では、明治の近代建築に焦点を当てるとともに、洋食の老舗についても取り上げました。今回はその特集より、今も受け継がれる東京の「老舗の洋食店」9軒の名物料理をご紹介していきます。
■1:『上野精養軒』(台東区上野公園)のビーフシチュー
上野精養軒の本店(当時)『築地精養軒』は、本格的な西洋料理店の草分け的存在。明治9年に上野公園開園に伴い、『築地精養軒』の支店として上野精養軒(現・本社)が誕生しました。
『築地精養軒』は、後に天皇の料理番として活躍する秋山徳蔵をはじめ、多くの料理人が修業し、日本の西洋料理の発展をけん引したお店。「昔ながらのビーフシチュー」(2100円税込)は7~9日間じっくり煮込んだデミグラスソースが絶妙な一品です。
【上野精養軒】
住所/東京都台東区上野公園4-58
電話/03-3821-2181
営業時間/11時~20時(最終注文19時)、喫茶は10時~。
休業日/無休
http://www.seiyoken.co.jp/
■2:『日比谷松本楼』(千代田区日比谷公園)のカレーライス
明治36年(1903)に日比谷公園の開園と同時にオープンした日比谷松本楼。木造3階建てのモダンな洋館は大正12年の関東大震災とともに焼失。第二次世界大戦末期には海軍の宿舎に、戦後は米軍に接収、時代の波に翻弄された歴史があり、さらに昭和46年の日比谷暴動事件で2度目の焼失。
開業当時からの名物はカレーライス。欧州風の優しい味わいとピリリとした香辛料が特徴です。「ハイカラビーフカレー」(通常880円)など。
【日比谷松本楼】
住所/東京都千代田区日比谷公園1-2
電話/03-3503-1451
営業時間/10時~21時(最終注文20時30分)
休業日/無休
http://www.matsumotoro.co.jp/
■3:『資生堂パーラー』(中央区銀座)のミートクロケット
日本初のソーダ水、アイスクリームの製造販売を行なった『ソーダファウンテン』として誕生し、銀座8丁目で110年にわたり食文化を発信してきた資生堂パーラー。名物料理は俵形の「ミートクロケット」です。
ナイフを入れた瞬間のカリッとした衣と中身の軽やかさは、当時の一般的なコロッケとはまったく異なるものでした。「ミートクロケット トマトソース」(2470円税込、別途サービス料10%)
【資生堂パーラー 銀座本店】
住所/東京都中央区銀座8-8-3
電話/03-5537-6241
営業時間/11時30分~21時30分(最終注文20時30分)
休業日/月曜
http://parlour.shiseido.co.jp/ginza/
■4:『ぽん多本家』(台東区上野)のカツレツ
明治38年創業のぽん多本家。西洋料理のカツレツは薄切り肉を使用しますが、店の初代である島田信二郎は厚切り肉の旨みを引き出すため、低温で調理する方法を考え、日本人好みのカツレツを編み出しました。
「カツレツ」2700円(税込)。ご飯・赤だし・おしんこは540円(税込)。
【ぽん多本家】
住所/東京都台東区上野3-23-3
電話/03-3831-2351
営業時間/11時~14時、16時30分~20時(日曜・祝日は16時~)
休業日/月曜(祝日の場合は翌日)
■5:『煉瓦亭』(中央区銀座)のハヤシライス
煉瓦亭の初代、木田元次郎は日本の洋食に大きな影響を与えた料理人として知られています。付け合わせのキャベツの千切り、パン皿に白飯、デミグラスソースで作ったハヤシライスやオムライスもこの店が生まれたといわれています。
池波正太郎も愛した「ハヤシライス」は1800円(税込)。
【煉瓦亭】
住所/東京都中央区銀座3-5-16
営業時間/11時15分~14時15分(最終注文)、16時40分~21時(20時30分最終注文)
休業日/日曜
http://ginzarengatei.com/
■6:『洋食 松栄亭』(千代田区神田淡路町)の洋風かきあげ
洋食 松栄亭の名物は、こんがりと焼き色がついた「洋風かきあげ」950円(税込)。ナイフを入れると中はパンケーキのようにふんわりしていて他にはないメニューです。
初代・堀口岩吉は外国人講師のフォン・ケーベルの専属料理人をしており、その教え子であった夏目漱石が家を訪れた際に「何か変わったものを」と注文され、即席で作ったのがこの料理だったそう。
【洋食 松栄亭】
住所/東京都千代田区神田淡路町2-8
電話/03-3251-5511
営業時間/11時~14時30分(最終注文14時)、17時~20時(最終注文19時)
休業日/日曜、祝日
■7:『黒船亭』(台東区上野)のタンシチュー
料亭から始まり、洋食店となった黒船亭。大正6年に開業した輸入酒とハヤシライスなどを揃えたカフェは、モダンで洒落た雰囲気が人気の的に。
デミグラスソースに牛タンを合わせた「タンシチュー」3400円(税込)は白飯とも、ワインともよく合う後を引く美味しさです。
【黒船亭】
住所/東京都台東区上野2-13-13 キクヤビル4階
電話/03-3837-1617
営業時間/11時30分~22時45分(最終注文22時)
休業日/無休
http://www.kurofunetei.co.jp/
■8:『洋食 小春軒』(中央区日本橋人形町)のカツ丼
明治45年創業の小春軒。初代の小島種三郎は『築地精養軒』で働いたのち、明治の元勲・山県有朋のお抱え料理人となりました。初代が考案した「カツ丼」を3代目が復活させ、今も提供されています。
「小春軒特製カツ丼」1300円(税込、しじみ汁付き)。
【小春軒】
住所/東京都中央区日本橋人形町1-7-9
電話/03-3661-8830
営業時間/11時~14時、17時~20時
休業日/日曜、祝日、不定期に土曜夜
■9:『たいめいけん』(中央区日本橋)のオムライス
たいめいけんの自慢の一品は洋食を代表する「オムライス」1700円(税込)。3代目料理長の茂出木浩司さんは初代の味を守りつつ、今の時代に合う料理を心がけています。昼時には行列が絶えないお店です。
【たいめいけん】
住所/東京都中央区日本橋1-12-10
電話/03-3271-2463
営業時間/11時~21時(最終注文20時30分)、日曜・祝日は~20時30分(最終注文20時)
休業日/元日、1月2日
https://www.taimeiken.co.jp/
以上、『サライ』2016年7月号の東京特集から、東京の「老舗の洋食店」9軒の名物料理をご紹介しました。
慣れ親しんだ “洋食”には明治時代の料理人の創意工夫がありました。老舗の洋食屋は今でも人気のお店。懐かしくて日本人の口に合う洋食の原点に触れることができます。
※この記事は『サライ』2016年7月号掲載の東京特集の「『洋食』の老舗で“和魂洋才”を味わう」(取材/関屋淳子、撮影/高橋昌嗣、浜村多恵)の記事を元に、Web記事として再構成したものです。(Web版構成/庄司真紀 )