沖縄ではほとんどの人が知っているのに、全国的にそれほど認知されていないもの。それが「EM」(いーえむ)です。
沖縄をドライブしていると、「EMアイス」とか、「EMジェラート」と書かれたのぼりをよく見かけます。また、道の駅や産直市に立ち寄った際にも、「EM栽培」の野菜売り場に出会うことになります。
行く先々で目にする「EM」の文字。観光客にとっては謎の言葉かもしれませんが、沖縄県民にとっては、日常生活にあふれています。スーパーに行くだけで牛乳、卵、それらの加工品、野菜に肉類といったEMを利用した食品が並び、当たり前のように食べているのです。
ところが、日頃EMに慣れ親しんでいるにも関わらず、きちんと説明するとなると、これがなかなか難しいのです。
「EM」とは「Effective Microorganisms」の略、日本語にすると「有用微生物群」です。単体でのEM菌は存在せず、自然界から採取・培養した安全で有用な3つの微生物で主に構成されています。
微生物にも、味噌や醤油づくりに欠かせない発酵を促す有用な微生物もあれば、酸化分解つまり、腐敗につながるものもあります。EMはこのうちの発酵に役立つような有用微生物の「乳酸菌」と「酵母」に、「光合成細菌」(EMの中心的な微生物で、有害物質を浄化する性質を持つ)から成ります。この3つの共生関係で、それぞれが住みやすい環境を整えていくのです。
EMには多彩な関連商品がありますが、その根本となるのは「EM・1(TM)」と呼ばれる真っ黒な液体です。このEMを活用すると、生態ピラミッドの底辺である微生物相が豊かになり、あらゆる生物が活き活きと育つようになるそうです。
EM技術は琉球大学名誉教授の比嘉照夫博士によって、1982年に基礎が確立され、現在も改良が続けられています。ちなみに現在、世界100か国以上で活用され、環境や食料問題を根本的に解説する有効な手段として注目されています。
沖縄生まれの技術なので、これほど沖縄の生活に溶け込んでいるのですね。しかし、まだおぼろげで全体像がつかめません。
そこで、EMの生みの親、比嘉博士の元で学び、現在はEMを活用した農業に取り組んでいる『サンシャイン・ファーム』の農場長、大城盛朝(おおしろ・もりあさ)さんを訪ね、その実態を見せてもらいました。
その農場は、沖縄本島中部に位置する北中城(きたなかぐすく)村にあり、年間を通じて30~40種類の野菜を栽培し、約1300羽の鶏を飼育しています。
「この農場では、農薬や化学肥料を使わない有機農法を行っています。EMは水に混ぜて野菜に散布したり、健康な土壌作りのために、米ぬかとともに堆肥に混ぜて利用しています。
EMを投入することで、EMに含まれる微生物がリーダー的な存在となり、もともと土の中にいたほかの微生物を連携させて、土壌の環境をよくしていくのです。
こうして育った野菜は元気で美味しいのはもちろんですが、野菜に含まれる酵素の値が高いので、食べると通常のものより消化がいいんですよ」
「鶏はできるだけストレスをかけないように、ケージに入れるのではなく、平飼いで育てています。EMで発酵させた飼料を食べさせ、飲み水にもEMを添加しました。また、ニオイを抑えるために、鶏舎にもEMを溶かした水を噴霧しています」
乳酸菌やミネラルたっぷりの飼料や水で育てられた鶏は、健康な卵を産みます。その味は旨味成分を多く含みながらも、さっぱりした味わいが特徴です。
このように、農場や鶏舎を案内してもらって、実際にEMがどのように利用されているのかがわかりました。
「EMは微生物の発酵技術であり、微生物管理技術と考えてください。そのため、よりよい品質、よりよい使い方が求められ、今も研究や改良が続いているのです」
微生物の力で、農薬や化学肥料に頼らない持続的な農業や養鶏を目指す。大城さんのその熱い気持ちは、十分に伝わってきました。
次回は、EMを体感できる『EMウェルネスリゾート コスタビスタ沖縄ホテル&スパ』を紹介します。空間からリネン類、料理、スパまで……。衣食住のすべてにEMを活かしたホテルです。
『サンシャイン・ファーム』の野菜や卵も料理に使われるほか、販売もされています。どうぞ、お楽しみに!
取材・文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。