銅版画は15世紀半ばに登場した印刷技術で、適度な粘りがある銅は、きめ細かく精密な細工に適しているため、以後は隆盛をきわめて行きます。
イスラエル・ファン・メッケネム(1445頃-1503)はドイツで活動し、同年代の年代記作家によってデューラーらと並ぶ銅版画の創始者と讃えられていますが、日本ではほとんどその名が知られていません。
本展では、ミュンヘン州立版画素描館や大英博物館などが所蔵する版画、油彩、工芸品など110点で、この知られざる版画家の全貌に迫るとともに、同時代の版画を巡る状況を検証します。
本展の見どころを、国立西洋美術館研究員の中田明日佳さんにうかがいました。
「メッケネムは、故郷で銅版画と金工の初歩を学び、遍歴修行の旅ののち、ボッホルトを拠点に制作活動を行いました。
15世紀半ばから16世紀初頭、銅版画の主題は大半が宗教でしたが、宗教改革前夜のドイツは聖と俗が入り交じった社会で、男女の機微を諷刺やユーモアをこめて描いた世俗版画が人気を博していました。メッケネムの作品も大半は宗教を主題に扱っていますが、諷刺の精神が込められた世俗版画も多数手がけています。メッケネムが描いた人物は、人相が悪くぎこちない印象を与えますが、逆にそこになんとも言えない味わいがあります。
この時代の作家を扱った展覧会自体が稀で、本展のようにメッケネムを中心的に扱った展覧会は日本で初めてです。この機会にぜひ、メッケネムと同時代の人々の精神にふれていただきたいと思います」
精密な線に刻まれた人間の聖と俗、メッケネムの世界を会場でご堪能ください。
国立西洋美術館のサイトはこちら
【聖なるもの、俗なるもの メッケネムとドイツ初期銅版画】
■会期/2016年7月9日(土)~9月19日(月・祝)
■会場/国立西洋美術館
■住所/東京都台東区上野公園7-7
■電話番号/03・5777・8600(ハローダイヤル)
■料金/一般1000(800)円 大学生750(600)円 高校生500(300)円 ( )内は20名以上の団体料金 ※中学生以下無料、心身障がい者手帳所持者と介護者1名は無料
■開館時間/9時30分から17時30分まで、金曜日は20時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日/月曜日(ただし7月18日、8月15日、9月19日は開館)、7月19日(火)
■アクセス/JR上野駅公園口より徒歩約1分、京成上野駅より徒歩約7分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩約8分
取材・文/池田充枝
1989年「サライ」