【山本益博の「私のお気に入り」~第119回】 新潟・南魚沼の湯宿『里山十帖』
東京から上越新幹線に乗って越後湯沢駅で下車、そこから車で約20分ほどで、山間にたたずむ一軒の宿『里山十帖』へ着きます。宿の名前としては極めてユニークで、これだけではなかなか旅館のイメージが湧いてきませんが、この宿に宿泊する客の誰もが、「食・住・衣・農・環境・芸術・遊・癒・健康・集う」といったテーマで忘れがたい「十の物語」を体験できるという素敵な旅館です。
電柱が1本も見当たらない大自然に囲まれるようにして宿は立っています。部屋に案内された後、露天風呂に浸かっていると、都会の垢が瞬く間に落ちてゆきました。やさしい木の香りも漂ってきて、これこそ森林浴です。
ここから「十の物語」が始まります。
宿は古い木造家屋を改築した母屋と、新築の客室とで出来上がっており、太い梁を巡らしたフロントのある母屋は、とても趣きがあります。
設えられた家具はモダンなデザインのものばかりで、これらが温もりあふれる宿の内装と見事にマッチしています。現代作家によるアート作品も飾られていて、それらが洗練された空間をさらに引き立てています。
食事は野菜中心の料理が供されます。今の季節は春から初夏にかけてということで、蕗の薹、しどけ、ぜんまいなどの「山菜」が満載の食膳でした。
いうまでもありませんが、「南魚沼」は日本一の米どころです。南魚沼の中でも宿のある大沢地区は、とびきり上等なコシヒカリの生産地だそうです。
土鍋で炊き上げられたご飯の美味しさは、筆舌に尽くしがたいほどの味わいで、日本人にとって「美味しい御飯」が最高のご馳走であることを再認識させられました。この土鍋ご飯を味わうだけでも宿に来る価値はあります。
【里山十帖】
住所/新潟県南魚沼市大沢1209-6
電話/025-783-6777(予約受付時間11:30~20:00)
フロント営業時間/9 : 30~11 : 00、15 : 00~22 : 00
チェックイン /15 : 00、チェックアウト / 11 : 00
文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。