■マセラティ史上初のディーゼルエンジン搭載車
高級スポーツカーを生産する自動車メーカーが多いイタリアで、1914年に産声をあげたマセラティはもっとも長い歴史を誇る。創業者のマセラティ兄弟はおもにサーキットレース用の車両の製作やチューニングを手がけ、その後、レースで培った技術を生かし、イタリアンデザインをまとった、いわゆる「スーパーカー」と呼ばれる高級スポーツカーの生産にも乗り出した。
マセラティが同じイタリアで高級スポーツカーを手がける他社と大きく異なるのは、4ドアセダンも生産していることだ。セダンといえども中味はスポーツカーと変わらぬ高性能車で、おもにイタリアの貴族や高官などに愛用されている。
欧州では以前から、CO2排出量が少ないという環境性能に加え、低回転域でのトルクの太さやアクセルレスポンスのよさを生かした新世代のディーゼルエンジンへの関心が高まりつつあった。マセラティはこの流れに着目し、元F1チームのディレクターたちの協力を得て、世界で初めてスポーツカーにも使えるディーゼルエンジンを開発。それを同社の主力モデルである4ドアスポーツセダンのギブリに搭載し「ギブリ ディーゼル」が誕生した。
■低回転域からの圧倒的な加速力
マセラティが開発したディーゼルエンジンはV型6気筒3.0Lターボで、275psの最高出力と600Nmの最大トルクを発生する。マセラティのV型6気筒、3.0L・ツインターボのガソリンエンジンは、最高出力330ps、最大トルクは500Nm。両者を比較すると、ディーゼルエンジンの最高出力はガソリン仕様よりも55ps低いが、トルクはなんと100Nmも太い。このトルクの太さと、低回転域からの力強さが、ガソリン車では味わえない新しいスポーツ感覚をもたらしてくれる。
運転席に座り、エンジンを始動させ、最新の8速自動変速のDレンジを選択する。走り出してエンジン回転計の針が1500回転を示すあたりから、パワフルな加速がはじまる。アクセルペダルに乗せる右足のほんの少しの動きでも、ギブリディーゼルは即座に力強く反応する。
エンジン回転計は4500回転からレッドゾーンだが、高性能ディーゼルエンジンは4300回転まで上昇して、上り坂でもぐいぐい車体を引っ張っていく。また、変速レバー横に備わるスイッチ操作で5つの走行モードを選ぶことが可能で、素早い加速が必要なとき、燃費重視で走りたいときなど、道路状況や運転者の気分に合った走り方に変えることもできる。
さらに、サスペンションもオプションのスカイフックサスペンションを装着すれば、急なカーブでも車体を安定させたまま走り抜けることができる。もちろん、頻繁にアクセルペダルを深く踏み込むような走り方をしても、3.0L・ディーゼルターボはガソリン仕様よりも20%以上の低燃費を達成。試乗中の実燃費として1リッターあたり16~21.7kmという高い数字を記録したこともつけ加えておきたい。
■ギブリが放つ色気とラグジュアリー感
ディーゼルエンジンというと、ガラガラというノック音や振動が気になる。その点、マセラティが開発したディーゼルエンジンはそれらが大幅に抑えられている。
さらに、排気管の脇に装着されたふたつの「サウンドアクチュエーター」が、エンジンの特徴的な音色を強調し、走行モードに合わせて変化させることで、ガソリンエンジン車に勝るとも劣らない官能的な排気音を奏でる。その艶のある音色は変速レバー横の「スポーツボタン」を押すことで、さらに迫力を増す。
【これが「ギブリ ディーゼル」の官能的なエンジン排気音だ】
「ギブリ ディーゼル」の魅力は走行性能だけではない。洗練された上質な内装も乗るものの心を惹き付ける。
座席に張られたソフトレザーは最高級品質の本革で、手ざわり・肌ざわりのよさは他車ではなかなか味わえない。そして、その高級レザーを座席のみならず、計器盤の上部やドア内張りなどにも注文であしらうことも可能だ。しかも、熟練の職人が手縫いするステッチの糸の色をレザーと別色にしてアクセントにもできるのだ。
こうした細部にも、マセラティならではのクラフツマシンシップを感じられるのがじつに心憎い。
【「マセラティ ギブリ」のプレミアム映像をお楽しみください】
【ギブリ ディーゼル】
全長×全幅×全高:4970×1945×1485mm 車両重量:2040kg エンジン/V型6気筒 2987cc 最高出力:275ps/4000rpm 最大トルク:600Nm/2000-2600rpm トランスミッション/8速オートマチック 燃料消費率(欧州値):17.0km/L 車両本体価格:933万円(税込)
文/石川真禧照
撮影/松原康之