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ワイン

【日本ワイン生産者の肖像8】小山田幸紀さん(ドメーヌ・オヤマダ)|自分の人生や思想をワインに表現、その高い到達点を目指して~その2~

取材・文/鳥海美奈子

その1はこちらです】

小山田さんが志向するのは、日本の風土を表現したワイン造りだ。浅井昭吾氏が麻井宇介の名で刊行した著作『ワインづくりの思想』は、こう説く。フランスの銘醸地も、はじめから銘醸地なわけではなかった。現在では、新興国でも多くの優良なワインが生まれている。大事なのはその土地ならではの風土を映したワインを造ることだ、と。

「浅井さんの本を読んだあと、風土に関する本を手あたり次第に買いました。その結果、辿り着いたのが哲学者・和辻哲郎の『風土』です。世界の風土をイスラムなどの砂漠、ヨーロッパの牧場、日本を含めたモンスーン地帯にわけて思想をひも解いている。和辻さんは、ヨーロッパは自然をそのまま生かした公園が多いけれど、日本は反対に自然に手を加えた庭園が多いといいます。たとえば京都もそうですよね。つまり、再構築することが日本の風土表現なのだ、と」

銘柄「Ça va?(洗馬)」の白赤は、古樽で1年熟成してからリリースする。

銘柄「Ça va?(洗馬)」の白赤は、古樽で1年熟成してからリリースする。

それをワインに置きかえてみる。たとえば昨今、流行のイタリアやギリシャなどのヴァン・ナチュールは、ぶどうを潰してあとは自然の発酵に任せるのみ。なるべく手を加えないのがワイン造りの美学であり、哲学だ。しかしそれは乾燥した気候で、ワインの味わいに悪影響を与える菌が繁殖しづらいから可能なものだ、と小山田さんは言う。一方、湿度の高い日本ではそうはいかない。醸造家である人間の関与がより大きく、必要不可欠となる。

「フランスや日本もそうですが、最近はヴァン・ナチュールが人気です。ヴァン・ナチュールは濁っていても、微炭酸でも構わない、と生産者や消費者の多くが思っている。それは搾りたての生ジュースと同じで、ただ美味しければいい、という考え方です。でも僕の価値観からいえば、搾りたて生ジュースはワインではないし、芸術品ではない。僕はいわば正統派のヴァン・ナチュールを造りたいのです。風土を映したナチュラルでスムーズな飲み口のワインでありながら、数年置くとグランヴァンの風格や佇まいを持つようになるワインを。そこそこの味わいのワインを造る技術は、いまの自分はすでに持っています。でも、芸術的側面から見ればワイン造りは追求しても追求しきれない世界で、自分の人生や思想をワインに表現するのは非常に難しいこと。もしかしたら一生辿り着けないかもしれないほど、到達点は高い。でもだからこそ、ワイン造りに魅かれるんです」

山梨・相干場のデラウェア。雨をよけるために傘かけをしたぶどうを収穫。

山梨・相干場のデラウェア。雨をよけるために傘かけをしたぶどうを収穫。

売れるワイン、他者から評価されるワインを造るつもりはない。人の嗜好や時代性に合わせるつもりもない。ただ、自分が望むワインを造る。目指すのは風土と自らの思想を映じたワインだ。
風土とは、つまりはテロワールと解釈してもいいですか。そう聞くと、返ってきたのは、「テロワールというのは僕にとって最も使いたくない言葉です」という決然とした否定だった。

「テロワールというのはフランスのブルゴーニュで生まれた概念だと言われています。何百年もワインを造り続けた結果、この土地だとこの味わいのワインになるとわかった。それぞれの土地ごとの味わいというのは、間違いなくあると感じます。でもそれは、いまの日本ではまだ誰もわからない。テロワールという言葉を簡単に使い、語ってはならないのではないかと僕は思っています」

「BOW」の仕込みに使われる山梨の棚栽培の畑。草生栽培が行われている。

「BOW」の仕込みに使われる山梨の棚栽培の畑。草生栽培が行われている。

小山田さんのぶどう畑は計4ha、山梨と長野にある。山梨のデラウェアや甲州は、もともとぶどうの木が植わっていた畑を借りたため樹齢は30~40年。日本では昔から行われてきた栽培法の棚仕立てだ。

一方、長野・塩尻にある洗馬の畑は垣根仕立てであり、小山田さん自らぶどうを植えた。たとえば白ワイン用であればソーヴィニヨン・ブランやプチマンサン、シャルドネ、アルバリーニョ、シュナン・ブラン、ロモランタンが混植されている。赤ワイン用の畑はカベルネ・フランを中心に、じつに20種ものぶどうが植わる。

「どのぶどう品種がこの土地に合うかわからないので、さまざまな品種を植えました。100年くらい経つと、向かない品種は自然に淘汰されていくと思います。混植するもうひとつの理由は、単一品種でつくると、その品種の味わいを表現することになってしまうからです。品種ではなく土地の個性を表現したい。とはいえ、土地の個性がわかる前に、僕は死ぬと思いますけれど。それがはっきりわかるのは孫の世代くらいですかね。でも、それで構わないと思っています」

病気もなく、美しい形状の収穫直前の洗馬のぶどう。

病気もなく、美しい形状の収穫直前の洗馬のぶどう。

洗馬の畑は標高約700mの位置にあり、晴天に恵まれる。その一方、夜は気温が下がるので酸を保てるなど、小山田さんにとっては理想的な地だ。

「自分のやりたいことは、この畑に集約されていると思います。ぶどうを植えてから10年以上経ちますが、毎年同じ農業をやっていると、イネ科の植物が優勢になって畑も安定してくるんですよ。さまざまな動植物が共存する生物多様性により、なにか1種類の虫が増えるということもありません。だからいまは病気や虫の心配もなく、ほとんど手間がかからなくなっています」

「BOW」白赤。各1600円。ドメーヌ・オヤマダのなかでは比較的本数が多く、入手しやすい。

「BOW」白赤。各1600円。ドメーヌ・オヤマダのなかでは比較的本数が多く、入手しやすい。

ドメーヌ・オヤマダのワインは2019年12月上旬、販売されるとまたたく間に市場から消えた。デイリーワインの「BOW」は1600円、上級銘柄の「Ça va?(洗馬)」でも2500円。近年、新しく設立されたワイナリーの多くが4000円代、ときに1万円を超える値付けをするのとは、きわめて対照的だ。味わいのクオリティと価格のバランスを見れば、入手困難なのも得心がいく。

「この価格でワインを販売しても、全然余裕で暮らせます。現実社会と交わらなければ、充分に足りますから。いまは米や野菜も自分で栽培しているし、鶏も飼っているので、現金はほとんどいらないんです。ただ子供の学校教育があるので、現金とはまだ縁が切れないですけれど。そこをやり過ごせば、より楽になると思います。反対に、自分にとっては東京でお金を消費をしたり、不特定多数の大勢の人と話したりするほうが大変なんです。3日くらいいると、もう限界です」

左から。「洗馬」赤。2500円。原産地表示基準により、2018年からは「Ça va?」の名でリリースされる。ノンドゼ、自然酵母のみで仕込むスパークリング「祝」2100円。

左から「洗馬」赤。2500円。原産地表示基準により、2018年からは「Ça va?」の名でリリースされる。ノンドゼ、自然酵母のみで仕込むスパークリング「祝」2100円。

鶏を飼うなど、有畜複合型農業をしている理由についてはこう話す。

「自給生活を目指すという頑なな感じはさほど好きではない。でも美味しいものを自分で作ることが楽しいから、それでいいのではと思っています。卵で動物性蛋白を得られるし、糞は肥料になる。その意味でも、自然農や循環型農業に家畜は欠かせません」

小山田さんの飼う鶏が生んだ卵。鮮度が高く、栄養価に満ちている。

小山田さんの飼う鶏が生んだ卵。鮮度が高く、栄養価に満ちている。

小山田さんがワイナリーにいるときは、鶏たちは囲いから解き放たれて、自由に裏庭を歩き、虫などをついばんでいる。アロカナ、後藤もみじ、岡崎おうはん、ボリスブラウンなど14羽の鶏にはさまざまな種類があり、すべての鶏に名前がつく。その1羽を抱きかかえながら、「鶏はそれぞれ個性があっておもしろいんですよ。いま、一番楽しいのは鶏たちと遊んでいるときかな」と言って、笑った。

確かに、その鶏を眺めているとやんちゃで冒険心に富んだものがいれば、小山田さんに懐いて近くに寄って来るものもいる。会話の通じない、ときに空疎な人間関係のなかで時間や神経をすり減らすよりは、ぶどうや鶏とともにある人生のほうが小山田さんにとっては遥かに豊饒、かつ雄弁なのだろう。

醸造所の横で飼われている鶏。自然のなかを自由に動き回る。

醸造所の横で飼われている鶏。自然のなかを自由に動き回る。

人間は、何人か信頼できる親しい友人がいればいい。そう話す小山田さんだが、今後は後継者を育てたいと考えているという。

「だんだん年を取ってきたので、次世代のために2人くらい雇用できればと思っています。そうすると畑の規模を拡大しなければなりませんが、新しい畑や品種に挑戦するのも面白いかな、と。1~2年後には実現したいですね。そうやって後継者を育てたら、いつかは自分自身でぶどうを植えた洗馬や日向の土地だけでワインを造りつつ老いていければ、と」

過去も小山田さんは、一貫して志を共有できる人々を大切にしてきた。ドメーヌ・オヤマダの設立と同時に立ち上げた「ペイザナ農事組合法人 中原ワイナリー」は、ぶどう栽培やワイナリーに携わりたいたいと望む新規農業者たちが助けあう場だ。畑や機械を互いに融通しあったり、情報を交換しあったりする。ここから、松岡数人さんのドメーヌ・ポンコツも生まれた。現在はこの農事組合に5人が所属している。

自称・養鶏家。生態や習性を知るため『ニワトリの科学』という本も読んだ。

自称・養鶏家。生態や習性を知るため『ニワトリの科学』という本も読んだ。

さらに数年前には、山梨大学醸造学科の学生に、個人的に教える場も持っていた。そこではぶどう栽培と醸造、そして読書も必須だったというから、小山田さんらしい。

「醸造学をやるいまどきの若い理系の男の子は小説を一冊も読んだことがないし、それこそ夏目漱石すらも知らないんです。それはおかしいだろうと思って毎月1冊、課題図書を出しました。ワイン造りは表現であり、芸術的側面が欠かせない。そうであれば、文学も知らないよりは知っておいたほうがいい。それだけは確実です」

文系と理系は分離したものではなく、その両者を統合してはじめて真の知性となる。それは過去、多くの思想家や科学者により語られてきた事実だ。ワインもまた真の知性の結実であり産物なのだと、日本の山梨で、ひとりの栽培醸造家が誇り高くそう叫んでいる。

ワイナリーの看板。友人がデザインしてくれた燕は、農業における豊饒のシンボル。

ワイナリーの看板。友人がデザインしてくれた燕は、農業における豊饒のシンボル。

取材・文/鳥海美奈子
2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在して、文化や風土、生産者の人物像などとからめたワイン記事を執筆。著書に『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)。また現在は日本の伝統文化、食や旅記事を『サライ』他で執筆している。

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