取材・文/鳥海美奈子

フランスのシャンパーニュ地方では毎年、4月になると約1週間にわたり、「Le Printemps des Champagnes ル・プランタン・デ・シャンパーニュ」と名づけられた試飲会が行われます。そこでは22ものグループが、それぞれテーマを決めて試飲会を開催します。大変に大きな試飲会のため世界中からプレスやソムリエなどのプロが集い、街全体が活気に満ちるのです。

シャンパーニュの中心地・ランスに建つ大聖堂。この街のシンボル的存在。その周辺で、多くの試飲会が開催される。

シャンパーニュの中心地・ランスに建つ大聖堂。この街のシンボル的存在。その周辺で、多くの試飲会が開催される。

その春の試飲会の最大の特徴は、農家制の小さな生産者たちが中心となり、行っている点です。シャンパーニュといえば、大変に有名なのがモエ・エ・シャンドンやヴーヴ・クリコといった大手メゾンです。

しかし、ここではもっと生産量の少ない、日本酒でいえば地酒のような生産者たちが中心となって試飲会を開催しています。

そういう少量生産の生産者たちは長年、自らの畑で栽培したぶどうを大手のメゾンに販売して、生計を立ててきました。しかし近年は、たとえ生産量は少なくとも、自ら栽培したぶどうを自ら醸造し、自分のシャンパーニュを造る傾向へとシフトしてきたのです。

世界中からプレスやソムリエなどが集まり、現在のシャンパーニュの最新の流れや傾向を知るため試飲を繰り返す。

世界中からプレスやソムリエなどが集まり、現在のシャンパーニュの最新の流れや傾向を知るため試飲を繰り返す。

大手のメゾンは複数の畑、複数のぶどう品種、複数年のワインをブレンドしてシャンパーニュを造ります。そのブレンド法に各メゾンは知恵を絞り、毎年変わらない、そのメゾンならではの味わいを生み出します。

しかし、こういった農家制の生産者たちは単一年、単一ぶどう品種、単一の畑ごとに銘柄を造る傾向にあります。つまり、その年の気候、ぶどう品種や畑の個性を映したシャンパーニュを生産するのです。

生産者も自らのシャンパーニュの思想や哲学、実際の造り方などを大いに説明する。ここで多くの情報交換が行われる。

生産者も自らのシャンパーニュの思想や哲学、実際の造り方などを大いに説明する。ここで多くの情報交換が行われる。

そういった新たな挑戦をする生産者が注目され始めたのは、いまから10年ほど前のこと。味わいがそれぞれ個性的かつ素晴らしかったために、パリやニューヨーク、東京など最先端のワインショップやワインバーのソムリエたちに評判となり、やがてスター生産者が何人も誕生しました。

そういった流れを受けて、「Terres & Vins de Champagne テール・エ・ヴァン・ド・シャンパーニュ」というグループが結成されて、ランスで初めて試飲会を行い、大きな話題となったのです。

「テール・エ・ヴァン・ド・シャンパーニュ」の試飲会のポスター。小さな農家制生産者たちの先駆的なグループとして名高い。

「テール・エ・ヴァン・ド・シャンパーニュ」の試飲会のポスター。小さな農家制生産者たちの先駆的なグループとして名高い。

その「テール・エ・ヴァン・ド・シャンパーニュ」の主催者のひとりがラファエル・ベレッシュさんです。「シャンパーニュは以前は、ほぼ大手しか存在しなかったと言っていいと思います。しかし、様々な人が自らのシャンパーニュ造りを始めたことで、より選択の幅が広がりました。現在は、シャンパーニュの多様性を楽しんでもらえる状況にあります」と語ります。

ラファエル・ベレッシュさん。現在は30代半ば。約10年前に、いち早く小さな農家制シャンパーニュの試飲会を主催し、話題をさらった。

ラファエル・ベレッシュさん。現在は30代半ば。約10年前に、いち早く小さな農家制シャンパーニュの試飲会を主催し、話題をさらった。

その後、「自分もオリジナルのシャンパーニュを造りたい」と意欲を持った小さな農家制の生産者は増え続けて、現在に至ります。2019年には、試飲会を開催するグループは22まで増えて、大変な盛況を見せました。
そういった農家制の生産者は、20~30代の若手が多いのも特徴です。またぶどう栽培においても、なるべく化学合成農薬や化学肥料を使わない、ナチュラルな手法へとシフトしています。その結果、クオリティの高いシャンパーニュが多々誕生しているのです。

そんな生産者のシャンパーニュは現在、日本でも購入できます。初夏に爽やかさを演出するシャンパーニュを、ぜひ飲んでみてはいかがでしょうか。

近年、日本でも人気の生産者のシャンパーニュ。左からアグラバール、ベレッシュ、ブノワ・ライエ、シュエネン。

近年、日本でも人気の生産者のシャンパーニュ。左からアグラパール、ベレッシュ、ブノワ・ライエ、スェナン。

取材・文/鳥海美奈子
2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在して、文化や風土、生産者の人物像などとからめたワイン記事を執筆。著書に『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)。また現在は日本の伝統文化、食や旅記事を『サライ』他で執筆している。

 

 

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