取材・文/わたなべあや
イタリア南部、地中海に囲まれたシチリア島。オリーブオイルやワインはシチリア島からフランス、スペインに広まったと考えられており、ヨーロッパの食文化を語る上で欠かせない要所です。
今回は、シチリアで誕生した郷土料理「イワシのパスタ」を通して、シチリアの食文化に注目したいと思います。大阪のシチリア料理専門店『トラットリア・ニコ』のオーナーシェフ、塩田真治さんにお話を伺いました。
新鮮なイワシとウイキョウが主役!
シチリアの定番パスタ
シチリアを代表する郷土料理「イワシのパスタ」は、魚料理とは思えないほど濃厚で、コクのあるパスタです。
主役は新鮮なイワシと、シチリア料理によく使われるハーブ「ウイキョウ」です。ウイキョウは、甘く清涼感のある香りが特徴で、イワシの臭み消しのほか、パスタ全体の隠し味として大きな役割を果たしています。
ディル、セロリだと、ハーブの香味が前に出すぎて鼻についてしまうこともあるのですが、ウイキョウは、まるで何も入れていないかのような自然さで、食材の味をしっかり引き立ててくれます。
それでは作り方を見ていきましょう。
【材料】
イワシ 6匹
松の実 大さじ1
レーズン 大さじ1
ウイキョウの葉 一つかみ
トマトペースト 小さじ1
ブカティーニ 150g
オリーブオイル 60cc
ニンニク 少々
唐辛子 少々
モリーカ(後述) 大さじ 2
イワシは、刺し身でも食べられる新鮮なものを使うのがおいしく仕上げるコツ。艶がよく、身が反り返っているイワシを選びましょう。選べるなら13〜15cm程度の「中羽イワシ」が、骨が柔らかくてオススメです。
また「モッリーカ」(後述)は入手が難しいですが、細かいパン粉をフライパンで乾煎りしたもので代用できます。
【作り方】
オリーブオイルを入れたフライパンに、にんにくと鷹の爪を入れ、弱火で加熱して香りを立たせます。オリーブオイルは、炒める時もエキストラバージンオリーブオイルを使います。あまり香りや味にクセのないものを選びましょう。
そこに頭と尾、内臓を取り除いたイワシを入れてソテー。さらにウイキョウや松の実、レーズンを入れて炒め、少量の塩で調味します。イワシは、キッチンばさみで下ごしらえすると、まな板が汚れないので後片付けも簡単です。腹の部分も斜めにハサミを入れて、切り落とします。
具材は、ぐつぐつ煮込まず、炒めて火を通すだけで構いません。仕上げにトマトペーストを加えて混ぜたらソースはOKです。
そこに茹で上がったパスタを入れ、「モッリーカ」を投入して全体に絡め、仕上げにエキストラバージンオリーブオイルをかけたら完成。
仕上げに使うオリーブオイルには、少しピリッとしたクセのある風味のものを、逆に具材を炒めるときには、マイルドなものを使いましょう。このように2種類のオリーブオイルを使い分けるのが、風味よく仕上げるためのコツです。
シチリアならではの食材の魅力が一皿に
この「イワシのパスタ」は、さまざまな食材が融合したパスタです。イワシとウイキョウの他に、松の実とレーズンも入っています。どちらも脇役ながら欠かせない食材で、松の実の濃厚なコクとレーズンの甘み、食感の違いが味に深みをもたらします。ちなみに、これらはアラブ諸国からシチリア島に伝わった食材です。
パスタは、ブカティーニという直径2.2mmくらいの太めの乾麺が合います。中心に髪の毛くらいの太さの穴が空いているのが特徴で、この穴からパスタがソースの旨味をしっかり吸い込みます。イタリア北部では細くて長い手打ちのパスタが使われることが多いのですが、南部に行くほど太い乾麺が使われる傾向にあり、ブッタネスカもそのひとつ。もちもちした食感とコクのあるソースは、惹かれ合うように絡みます。
さらに興味深い食材は、仕上げに絡める「モッリーカ」です。イタリアは、北部に比べ、南部のほうが比較的経済的に恵まれていないので、昔は十分にチーズを買うことができませんでした。そこで登場したのがこの「モッリーカ」。パンの切れ端を2、3日棚で乾燥させ、すりおろしたもので、これが粉チーズ代わりに使われるようになったのです。それでついた異名が「貧乏人のチーズ」。
ところがこの「モッリーカ」、食感はパルメザンチーズに似ていて、ソースの旨味をたっぷり吸収するので、チーズ以上に深い味わいをもたらします。チーズの代用品と、侮れない食材なのです。
「イワシのパスタ」合わせるならこのワイン
この「イワシのパスタ」に合わせるのならば、ワインは白ワインがおすすめ。シチリア島の西部にトラーパニ県があるのですが、その海沿いにマルサラという町があります。ここは潮風がミネラルを運んでくるので辛口でドライな白ワインを醸造できます。
イワシのパスタに合わせるなら、ドゥーカ・ディ・サラパルータ社の「カドス シチリア・ビアンコ」がいいでしょう。また同じくシチリア島の醸造所、ドンナ・フガータ社の「アンシリア」というワインも、すっきりとした辛口で切れの良い風味が、このパスタならではの味を引き立ててくれます。
シチリア島は地中海の海の幸に恵まれ、温暖な気候、肥沃な大地に育まれた食材が豊富です。その昔、ギリシャの植民地であったときにオリーブとブドウが持ち込まれ、優れたオリーブオイルとワインの産地にもなりました。
歴史に育まれた食材で作る定番シチリア料理を、薫り高いワインを片手に堪能してみてはいかがでしょうか。
取材協力/塩田真治さん(『トラットリア・ニコ』オーナーシェフ)
中学を卒業後、辻調理師専門学校で学び、パスタやシチリア料理専門店に20数年在籍した後、独立。シチリア島に魅了され、毎年のように現地に足を運び、変容する文化に触れ、オリーブオイルの搾油体験やワイン醸造所巡りもする。シチリア島のワイン醸造所の経営者は、訪日すると必ず『トラットリア・ニコ』を訪れるという。
『トラットリア・ニコ』
住所:大阪府大阪市北区南森町2-1-18 ジャスティス南森町 1F
電話:06-6367-2020
営業時間:12:00〜15:00(L.O.14:00)18:00〜23:00(L.O.22:00)
定休日:日曜・祝日
https://akr5421716145.owst.jp/
取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。